12 気付かれていたなんて……っ!
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義姉エイプリルは、子爵家の令嬢ながら、お城で女官として働いていた人物である。長兄と知り合ったのも、お城だそうだ。
女官と広報官のロマンスなんて、ちょっと気になる。
貴族の令嬢としてありがちな政略結婚なんてまっぴらだったから、女官として働くことを選んだのに、よりにもよって伯爵家の嫡男に恋するなんてね、と義姉は笑っていた。
それはともかく、義姉である。女官として働いていた、というだけでなく、義姉のお母様の教育もあるのだろう。──義姉は、物事をとてもよく見ている。そして、聡い。
「あのね、ステラ。あなたは自分のことを隠していたつもりでしょうけど、私たちにはお見通しだったのよ?」
「…………えぇと……それは……………?」
予想はドンピシャ。でもなさそう。目が、泳ぐ…………。
「義母上から冷遇されていることぐらい、すぐに分かる。父上もお前には、興味がないのだろう? 父の態度は今に始まったことじゃないが……」
ギャーッ?! うそぉっ!? ばっ、バレていたの?!
長兄が、大きなため息をつく。それに気づかされ、そっと兄の様子を窺えば、
「実はヴィンス兄ィ経由で、僕も知っていた」
断言されてしまった。なっ、なんてこと……兄にもバレていたの?! ショック!
「あなたのことだから、迷惑をかけたくない、心配をかけたくない、と思ってのことだったのでしょうけれど……逆効果でしたわ」
「そんな…………」がっくり。
「じゃ、じゃあ、シール兄様がドレスや普段使いの細々した物を贈って下さっていたのも?」
「アミュレットの話は本当だ。けど、ヴィンス兄ィから、自分たちが贈ると面倒な事になりそうだと聞いていたからな。だったら、最低限の物は、僕の方からという気持ちもあった」
何てこと……。全てお見通しだったなんて……恥ずかしい。穴があったら入りたい……。
「エルの言う通りではあるんだが、だったら私たちに話して解決できたかというと、これも難しい。結局のところ、今のこのタイミングがベストだったのだと思っているよ」
「ヴィンス兄様……」
今まで何もしてやれなくてすまない、よく耐えてくれたねと、長兄がわたしの頭を撫でてくれた。うぅ、もっと撫でて。バレていたのだと分かって、穴に入りたい気持ちもあるけど、ちゃんと気にかけてもらえていたんだっていう、嬉しさの方が大きい。
「ええ、悔しいけれどヴィンス様のおっしゃる通りなのよ。でも……もう、ね。うふふふ」
顔は笑っているけど、目が笑ってないですよ、エル義姉様……。何? 何なんですか?
「シルベスター様から良いものをいただいたの。これで、困りごとが解決できるわ」
何だろう? 義姉の困りごとが何なのか、聞いてみようとは思わなかった。
だって、テーブルの上にいたルチルタミアたちが、ささっと逃げていったのよ? 世の中、知らない方がいいこともあるわ。よく分かりませんが、解決できるのなら何よりですわね、と、笑顔で無難にやり過ごすことにした。
「ところでスー。1つ確認しておきたいことがあるんだ」
「は、はい。何でしょう」
食事を再開するように促され、わたしはバターを塗ったマフィンを口に運んだ。
「昨日の話だと、引き続き学院に通いたいように聞こえたから。転校するつもりはないのかと思って。例え僕の娘になったとしても、環境の改善には繋がらないだろう?」
それはその通りなのだが、では、学院以外の学校となると、二の足を踏んでしまう。
「ぁ……わたしは、魔法を学びたいのです。魔法は、学院でしか学べませんから──」
「魔法と言っても、攻撃魔法、回復魔法、補助魔法という風に分かれている。さらに言うなら、魔法基礎、魔法理論、魔法具、魔法薬。定義を広げれば、占術や従魔術も含まれるだろう。スーは、魔法の何を勉強したいんだい?」
「えっ……?」
こっ、これは想定外だわ……。魔法を勉強したい、っていう気持ちは本当だけど、魔法の何を? って聞かれると困る。ええっと、要するにこの先の進路を聞かれてるって事で良いのよね? こういうことをしたいから、この魔法を勉強したいっていう……。
わたしは、この世界でも、みんなが元気に毎日を過ごせるよう、サポートしていきたいと思う。患者さんが、楽になった、体が軽くなったって、笑ってくれるのが嬉しいのよ。
「ええと……回復魔法……と言いますか……世間一般の回復魔法とはちょっと違うと思うのですが……」
回復魔法は、傷や病気を治す魔法だ。でも、冷え性や肩こり、一部の腰痛には効果がない。
どうも、西洋医学で病気や怪我と診断されない不調には、回復魔法は効果がないようなのだ。でも、現実として冷え性や肩こりなどは存在している。
わたしが学びたいのは、東洋医学的な回復魔法と言えばいいのだろうか。しかし、それをどう説明したものか……。
「ヴィンス兄様は、肩がこっていたりしませんか? シール兄様も」
「うん? まぁ、書類仕事が多いからね。シールはどうだい?」
「僕も同じですが……それが?」
「回復魔法では、治りませんよね? 肩こり」
「治らないね。スーは、肩こりを治す魔法の研究をしたい、ってことかい?」
兄が微妙な顔になった。そりゃ、あまりにも限定的すぎるものね。
「いえ、その魔法と言っていいものか……兄様方、ちょっと失礼しますね」
肩こりは、筋肉が硬くこわばってくることによって、血管を圧迫。血行が悪くなることで起こる。改善するには、筋肉のこわばりをほぐし、血行を良くすることが重要。
これを魔法でやるとなると……気功になるのかしら? 慢性的な体の不調を治して、みんなが元気で過ごせるのなら、手段は何だっていいので、その辺は気にしない。
ヴィンス兄様は左肩。シール兄様は右肩。それぞれに手を置いて、魔力を使って肩のこわばりをほぐしていく。魔力で肩たたきをしているようなものね。
「どうですか?」
3分ほどそうして、肩から手をおろせば、
「何だ?! 肩が軽い!」
「右と左の落差! こんなに……っ!?」
兄様方が、大騒ぎ。うんうん。改善の結果に驚く、このリアクションも好きなのよ。
「こういうことをしたいのですが、これは回復魔法とは言いませんよね?」
「言わないな。魔法基礎の応用……か? しかし、魔法の定義からは外れるな」
「そうなんです」
この世界の魔法は、自身の魔力を代に、精霊に力を借りて現象を起こすことを魔法と呼んでいる。つまり、精霊が働かなければ、それは魔法とは言わないのだ。
「今まで聞いたことがない方法だな」
聞いたことがあるかと、長兄は義姉を見た。義姉も「いいえ」と首を横に振る。
「私たちには、効果があったのかどうかさえ、判断がつきませんわ」
ねえ、と同意を求められたグロリアは、
「ええ。ステラがお2人の肩に手を置いただけですからね」
「効果については、後で2人もやってもらうと良い。スー、食べてからで良いから、左肩も頼めるかな?」
「私は右肩だな」
「もちろんです」
2人の兄に甘えてもらえたことを少し嬉しく思いながら、わたしは頷き返した。
「スーの希望は分かったけど、そういうことなら、イツィンゲール女学院に通うことは考えなかったのかい?」
「考えるも何も、初めからセールヴィ学院一択でしたので……」
魔法はセールヴィでしか学べないとも聞いていたし、両親からはそれ以外の選択肢も与えられなかった。なので、正直なところ、他の学校のカリキュラムを知らないのである。
「私の母校だから、というわけではないけれど、イツィンゲール女学院は、とても良い学院よ。政治や経済、社交界のことも希望すればしっかりと教えてくれるわ。セールヴィでは、政治も経済も男子しか学べないのではなかったかしら?」
「はい。その通りです。女子が学べるのは、魔法の他には、読み書きと算数、外国語、地理、歴史くらいでしょうか……」
後は行儀作法や針仕事、音楽、絵画、ダンスなど。授業は、社交に役立つといわれているものが中心だ。頭の良い女は、結婚で不利になる、生理的にも良くないというのが世間一般の考え方。バカバカしいとは思うが、そういう風潮なのだから仕方がない。
「相変わらず、世間は女性を低く見ているようね。ヴィンス様みたいに、働く女性に理解を示して下さる方は、まだまだ少数派なのよ。女に負けるのが怖いのね」
「女に勝てないと本能で分かっているから、男はあの手この手で女を抑え込もうとしているのだと、昔、世話になった女性に教えられたことがありますよ」
グロリアの言葉に、義姉は「真理だわ」と力強く頷いた。そうなんだ、へえ。




