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11 伯爵家には、もふもふが隠れている

更新が遅れてしまい、申し訳ありません。ちょっと、体調を崩しておりました。

「おはようございます、お嬢様。ゆっくりお休みいただけたようで、何よりですわ」

「……おはよう、ディセル。でもね、自分で言うのもなんだけど、寝すぎだと思うの」

 もう、お昼を過ぎているのだから、おはようではなく、おそようよね。昨夜は、わりと早く寝たのに、こんな時間までぐっすり眠ってしまうなんて……。めちゃ恥ずかしい。



「あのお風呂は危険だわ」

「分かります」

 ぐぐっと拳を握って、ディセルが力強く頷いた。

 使用人が、主人と同じ物を使うのは嫌がる人も多いのだが、兄は違っていてお風呂の使用許可を出しているそうだ。

 わたしも、あのお風呂は区別なんてしないで、みんなで使うべきだと思う。

 だってね、この家のお風呂は、温泉なの! 露天風呂なの! 源泉かけ流しなのよ!? 温泉地でもないのに、なんて贅沢! 露天と温泉の仕組みは分からないけど、幸せは分かち合うべきよね。



「お嬢様、ブランチはお庭の方で召し上がって下さいね。リーブス男爵閣下と奥方様がお見えになられていらっしゃいますから」

「え? ヴィンス兄様とエル義姉様が?」

 何で、2人が来ているの? 疑問はそのまま瞬きという形で仕草に現れ、

「昨日の内に旦那様が手紙を出されていたようですよ。お嬢様のことで」

 ディセルは苦笑い。……もしかしたら、これはお説教が待っているかもしれないわ……。何でもっと早く相談してくれなかったの、とか何とか……。



「助けてほしい、と言って下さらなければ、助けられるものも助けられませんからね。自業自得だと思って、怒られて下さい。お嬢様」

「はあい」

 ディセルの言う通りなので、素直に頷いた。



 ちなみに、彼女が長兄のことをリーブス男爵と呼んだのは、ヴィンス兄様は長男なので、ホーネスト伯爵家が持つ、もう1つの爵位──リーブス男爵──を名乗ることが許されているからである。これは長男の特権で、公の場でも長兄は男爵として扱われるのだ。



 さて、少々気が重くはあるけれど、長兄夫婦に会わないという選択肢はない。お説教が嫌なだけで、長兄夫婦は大好きだし。

 身支度を整え、庭へ向かおうと部屋のドアを開けたら、モフモフの毛玉が3匹揃っていた。

 みゃ。みゃみゃ。みゃ~ぅ。

「…………」

 何、この毛玉。まん丸ボディに短い4つ足。前世でブームになったゆるキャラのよう。



「おはよう、ステラ。固まってどうしたんだい?」

「っ! は、よう……ヘルメス」

 びっっくりしたぁ。突然声をかけられたから、心臓が飛び出るかと思ったわ。ドキドキする胸を押さえ、何とか返事をする。

「いえ、この3匹は何かと思って……」

「ああ、トールシァールっていう魔獣だ。大人しいけど、不用意に触るなよ。放電するから」



「魔獣……」お饅頭じゃなくて?

 栗饅頭(茶色)と塩饅頭(薄灰色)と黒ゴマ饅頭(黒色)じゃないの? 『ねこまんじぅ』とか崩し字で書いて、9個入でお土産として売ってそうなんだけど。

「シールと同じこと言うんだな。さすが兄妹」

 え? ここにお饅頭なんてあった? ……ちょっとちょっと、これは兄もわたしと同じ前世持ちだっていう、重要なキーワードなんじゃ……?!



「それを聞いたライオットは、爆笑してたよ。俺もそう思うし」

 ……あれ? わたしが知らないだけで、こっちにもお饅頭は存在しているってこと? う~ん、ありうるかも知れない。残念。兄のチートの秘密が分かるかもって思ったのに。



「お嬢様? お話なら、歩きながらなさってはいかがですか? お庭には旦那さま方もいらっしゃいますし、あまりお待たせしても心配なされますよ?」

「あ、そうね。そうするわ」

 後ろからディセルに言われ、わたしは庭に向かうことにした。



 3匹のお饅頭も、みゃう、みゃう鳴いて、てってこ歩きだす。プリプリ動くお尻が、かわいい。かわいいけど、

「魔獣って動物よりも危険なのよね? 放し飼いにしていて大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫。コイツらは頭がイイから、こっちの言うことはちゃんと理解して、禁止したことはしないよ。シールが放し飼いにしてるのは、そういう種類ばっかりだし」

「そっ……?!」

 壁が動いた! と思ったら、ヤモリっぽいのがちょろちょろと壁を登っていただけだった。



 ちなみに、これも魔獣だそうで──

「ステラに挨拶に来たんだろ。そこの置物みたいな鳥もそうだよ」

「…………っ?!」

 わたしの胸ほどもある大きなそれは、紫がかった灰色の羽毛に覆われていて、身じろぎはもちろん、瞬き1つしませんでした。これも、魔獣? かの有名なハシビロコウじゃなくて?



「観察はまた今度にしなよ。客が来てるんだろ」

「そ、そうよね。珍しいものばっかりであれもこれも、目移りしちゃうわ」

 いけない、いけない。この家は誘惑が多すぎる。

 ちなみに、兄が動物園で飼育しているのは、そのほとんどが魔獣の類なのだそうだ。昨日、グロリアからは魔獣を含めた動物がいると聞いたのだけど……。ヘルメス曰く、魔獣と動物の割合は、およそ8対2だそうだ。間違いではないけれど、正解でもない、という感じね。



 兄は、動物の論文も書いているのではなくて、魔獣の論文も書いているのが、正しいらしい。……兄の頭の中は一体、どうなっているのだろう。



 3匹のお饅頭に先導されながら、兄が書いた論文についてヘルメスに聞きながら、庭へ出ると

「まあ、かわいい。本当によろしいの?」

「もちろん、構いませんよ。彼らがソフィアを気に入れば、の話になりますが」

 兄が義姉と話をしていた。



 その隣には、グロリアと長兄がいる。庭に出たわたしに気付いてくれた長兄は、穏やかな微笑みを浮かべ、

「おはよう、スー。よく眠れたかい?」

「おはようございます、ヴィンス兄様。おかげさまで、ゆっくり眠ることができました」

 わたしも笑顔で挨拶を返した。その後、兄とグロリア、義姉エイプリルにも挨拶をする。

 ヘルメスは、わたしが庭に出ると同時に、姿を消していた。同席する気はないのだろう。



 3匹のお饅頭は庭にも出て来て、ここに座れと言いたげに、2人の兄の間にある椅子の前でみゃう、みゃう鳴いている。

「シール兄様、テーブルの上の子たちはリスですか?」

 いぶし銀色の体毛のリスなんていたかしら? テーブルの上にいて小首をかしげる5匹のリスをしげしげと眺めれば、

「魔獣だよ。ルチルタミアという種類だ。足元の猫饅頭たちと同じDランクの魔獣で、愛玩用として人気がある」

「トールシァールもいるのか」

 わたしの足元で丸くなったお饅頭3匹を、長兄が体を屈めて見ている。



 その子たちを猫饅頭呼ばわりしたことは、スルーなのね。

 こんな可愛らしい魔獣がいるなんて知らなかったけど、愛玩用として人気があるそうだ。ただし、魔獣には違いないので、きちんと躾をしないと大怪我をしてしまうらしい。

「そこはきちんと理解しているつもりよ。主人として、しっかり勉強するわ」

 わざわざ、挨拶に来てくれたのよね~? と義姉はルチルタミアたちに、笑顔を向ける。この子たちも放し飼い組らしく、長兄夫婦たちを見つけると、ちょこちょこと寄って来たのだそうだ。



 その可愛さに、義姉はずぎゅぅん、と胸打たれ、飼いたくなったらしい。

 自分たちだけなら問題ないだろうけど、家には、生まれたばかりの赤ん坊がいる。飼うのは難しいのかと相談したところ、この子たちがソフィアを気に入ったなら、譲っても良いという話になったそうだ。兄曰く、無理に魔獣を飼うと暴れるので、大事なことなのだとか。



「失礼いたします、お嬢様」

 後ろからセーブルに声をかけられたので、少し体を横へずらせば、マフィンと目玉焼き、焼いたベーコン、ソーセージ、ジャガイモの素揚げ、トマトのサラダが並ぶ。マフィンに付けるバターやジャムもテーブルに並べられた。どれも美味しそうで、目移りしちゃうわ。

「ありがとう、セーブル」

 淹れてくれたお茶に口をつけてから、用意された食事をいただく。



 目玉焼きの塩コショウの加減は絶妙だし、トマトのサラダは、少し酸味のきいたドレッシングが美味しい。マフィンは、ほんの少し焦げ目がついていて、それがまた……!

「さて、ステラ。あんまりくどくどと言うつもりはありませんから、食べながらでいいわ。聞いてちょうだい」

「はい。何でしょう、エル義姉様」

 つとめて笑ってみせるものの、義姉が怖い。だって……目が笑ってない……。あぁ、これからお説教が始まるのね……。自業自得なのかも知れないけど……憂鬱だわ。

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