異界のドラゴン 8
「こいつらと話していたんだ。あの宗教をそろそろ潰そうかって」
えっ、私聞いたこと無いんですけど。
見上げてみるとアドルフと視線が合い、何故か微笑まれた。
これは知っていたっていう事でいいのだろうか。
「簡単な作戦を言えば、奴らが何をしてきたのかを噂でいいから周りに広める。頃合いを見て奴らの前に現れ、噂は事実なのだと人々の前に生き証人を出す。2人いれば充分だろう。奴らを捕まえ国に渡し、そして死刑にする。といった所か。お前はもし戦闘になった時、戦闘員として参加することになる」
野郎は納得したのか頷いたが、私は納得できなかった。
殺すなんてそんなのダメだ!!
ふらつきながらも、私は抗議をする。
「ダメだよ殺しちゃ!」
「何言ってんだヤマダちゃん。忘れたのか?何度も刺されたり、火あぶりにされたことを!」
そんなの忘れるわけがないに決まってる。
今までなんとなくでこれといった出来事もなく、平和に生きてきた私に突然向けられた殺意。
無理矢理異界に連れて来られドラゴンにされて、殺されかけたのだ。
「だから!そんな捕まってすぐ処刑なんて楽な死に方なんて、させないって言ってんの!ああいう奴らはね、死なない程度に毎日つま先から刺して刺して刺して、刺しまくって!髪なんかいっきに引きちぎんのよ。あぁその前に、大きな錆びれた釘で地面に縫い付けとかなきゃね。逃げられちゃう。で、毎日毎日悲鳴を上げさせなきゃ!あっでも、無駄口たたかないように丈夫な糸で口を縫い付けな「分かった!分かったから!もう充分だから!!一度、口を閉じてくれ」……」
本当に分かったのかしら?
私は今の自分に力があると分かってるから容赦なんて絶対しない。
正直私を刺した野郎も殺したいし、今この同じ空気を吸ってるのも気に食わない。
命令とはいえ私を殺そうとしたのだ。
「ヤマダ。目がすわっている」
「だったらなんだってんですか、師匠」
「噛み付くな、ヤマダちゃん。とにかく、奴らの異界転移儀式をやめさせるのが第一目標だ。そのために異界の生き物は人間で、奴らが楽しむために呼び出したことをまずこの街だけでいいから、広める必要がある」
「だがもし、人間共の反応が奴ら側にあれば」
「僕らは賊扱いだろうね」
師匠の言葉に続いたラルゴは軽く溜息をついた。
その言葉に疑問をもった野郎は不思議そうに聞いた。
「何故だ?ドラゴンは恐ろしいと謡いながら、自分達がそのドラゴンを呼び出していたのだろう?しかも異界から人間を」
「奴らはもう何百年も前からこの国に根付く宗教だよ。この話を信じない人もいれば、信じても奴らを支持する人はいても可笑しくない」
ラルゴは眉間にシワを寄せムッとした表情で腕を組んだ。
「だからこの作戦を決行するには、まずお前達の意思を問う。賊として捕まれば、確実に殺される。もし逃げきったとしても、アドルフとヤマダは異界に戻る方法が分からない以上、私達と同じくこの世界で追われ続ける事になる」
「私達って、僕はもう入ってるの?」
「嫌か、ラルゴ」
「そんな!むしろ嬉しいよ」
そう言ってラルゴはパッと明るくなり嬉しそうに師匠に抱き着いた。
こんな時にイチャつくな師匠共。
でもつまりは、関係ないのに一緒に戦ってくれるってことで、もし失敗してもこの魔術師達は一緒に逃げてくれるという事?
それは心強い。
私の気持ちはとっくに決まっているのだから。
「もちろん、俺も行くよ。元軍人の力、見せてやるよ」
「俺も行く!自分達の娯楽のために関係のない人々を巻き込むなんて、許せない!!」
せっかく私が次に言おうと思ってたのに、これではマネするみたいになるじゃないか。
師匠はラルゴを自分から引き離すと、私を横目に尋ねる。
「ヤマダ、お前はどうする?」
聞かなくてもわかるでしょ。
「そんなの、行くに決まってるわ!1番ムカついてるのは、私なんだから!!」