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第74話  世界は思ったよりずっと優しい【栗原亜玖里視点】

 世界は思ったより優しいのかもしれない。


 私がここまで他の人に認められたのは、生まれて初めての経験だった。

 ここまでボランティアのお兄さんとお姉さんが言ったことをまとめると、結局、人間は、私が想像しているよりも、ずっと愚かで醜い、私のように欠陥だらけの存在と言うことらしい。

 私は私という人間を重く考えすぎていたのかもしれない。

 そう考えると、なんだか私の覚悟がバカらしくさえ思えてきた。


 それにしても、このボランティアのお兄さんとお姉さんは、どうして私をここまで気にかけてくれるのだろう。

 二度と会うことが無いであろう、一度きりの関係である、この私に。


 自分と境遇が似ていて、放っておけなかったから?

 それもあると思うけど、もっと多分、私が想像するよりも、ずっと優しい感情でこの人たちは動いてくれているのだと思う。


 純粋に「救いたい」という気持ちで、この人たちは動いてくれた。

 こんな優しさに溢れている世界だったらいいな。

 それだったら、私も、この先の未来の景色を見てみたい。


 生きていたい。

 「生きたい」と少しでも思うようにしてくれた、この人たちは本当に凄い。

 感謝してもしきれない。


 でも……やっぱり、この人たちの期待には応えられそうにない。


「私は疲れてしまった。もう頑張りたくない」


 私の主張に、お兄さんが言った。


「頑張らなくていい。ただ、笑って過ごしていれば、それでいい、と俺は思うぜ」


 付け加えて、お姉さんも言った。


「貴女が生きている時点で、貴女はもう勝っているのよ」


 そんな甘えが、この過酷すぎる世界で許されていいのだろうか。

 私はまだ、自信を持てない。


「私、勉強もできないんだよ。凄いバカだから、この先、生きていける自信なんてない」


 またお兄さんとお姉さんが嬉しい言葉をかけてくれる。


「それは全然問題ないと思うぞ。だって、なんとなく察していると思うけど、俺もバカだしさ」

「そうよ。この大バカに比べたら、色々考えている貴女の方がよっぽど利口だと思うわよ」

「ちょっと言いすぎじゃね⁉」

「妥当な評価よ」


 私そっちのけで言い争いを始めるお兄さんとお姉さん。

 そんなくだらないやり取りに、失礼ながら、クスッと笑ってしまった。


「ようやく亜玖里さんの笑った顔が見られた。なんか嬉しい」

「ロリコン? キモっ。まあ、でも、私も嬉しいわ」


 でも……。

 それでも、「生きる」ということに自信が持てない。


「他の人のように、ちゃんと生きられる自信がない」


 そんな情けない質問にも、二人はしっかりと答えてくれる。


「他の人と比べる必要なんてないんじゃないか? 亜玖里さんは亜玖里さん。自分にあった生き方が出来れば、それでいいと思うぜ」

「逆に他の人と同じように生きる方が、私は嫌だわ。なんだか気持ち悪いもの」


 もう一つ……だけ。

 もう一つだけ、「生きていい」と自信が持てる言葉が欲しい。


「私は何もできないし、何もしたくない。こんな欠陥の私でも、生きていていいの?」


「ああ。何もしなくていいんだ。ただ亜玖里さんにとっての『楽しいこと』。うーん、そうだな、『青春』。亜玖里さんにとっての『青春』を見つければ、それでいいんだ」

「そうね。貴女はまだ子どもなのだから、深く考えなくていいの。迷惑かけまくって、好き勝手していればいいの。そのために大人たちがいる。私たちもいる。だから『気楽に生きなさいな』」


 楽しく……生きる……。


 それが、今の私が一番欲していた言葉かもしれない。

 不思議と、その言葉を受け取った瞬間、私の背中から重りみたいなものがフッと取れて、まるで背中に羽が生えたような気分になった。


 こんな軽やかな気分になったのは、本当に久しぶりだった。

 嬉しすぎて、私はその場で泣き崩れてしまった。


「亜玖里さん⁉」

「どうしたの?」


 お兄さんとお姉さんは心配して、私に駆け寄ってくれる。

 いつも私に近寄ってくる人は、周囲の目を気にしたりして、何か裏があった。でも、この人たちは純粋な優しさで私を心配してくれている。


 それは、二人の目を見れば、すぐにわかる。

 私は目の前にいる東京のお兄さんとお姉さんに、失礼ながら将来の自分の姿と重ね合わせた。


 どこか欠陥を抱えながらも、楽しく笑って生きている。

 将来、この人たちのようになれたら、いいな。

 自然と私の目標が出来た。

 それは、私にとってみれば十分に、「生きる意味」だった。


「お兄さんとお姉さん」

「うん?」

「なに?」

「聞いて。私は……」


 もう迷わない。


 答えは決まった。


「生きたいです」


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