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第70話 人は自分の悪いところばかり思い浮かんでしまう【栗原亜玖里視点】

人間は神様が創ったとするのならば、私は神様が間違って創ってしまった欠陥品である。


「30点……。小学生の算数のテストで、なんでこんな点数になるのよ……」

「亜玖里、先生の話をちゃんと聞いているのか?」


 ママとパパは私に会うたびに、がっかりした顔で見てくる。

 それに、いつも見当はずれのことを言ってくる。

 ちゃんと先生の話を聞いているよ! 聞いていても、こうなっているから苦労しているのでしょう!


 ……なんてことは直接口に出していない。

 どうせ、私のことなんて理解してくれないのだから。


 私は他の子とは違う。

 それに気づいたのは、小学校三年生くらいだ。

 ちゃんと先生の話を聞いているのに、テストで良い点数が取れない。

 授業中遊んでばかりいる悪ガキ達にすら、テストの点数で勝てない。


 勉強が苦手なだけだったらまだよかっただろう。

 でも、もっと致命的な欠陥が私にはある。


「亜玖里。どうして、一人で居るの? ママは心配よ」

「亜玖里、他の子と遊んできなさい」


 運動会の時。


 私が空き時間、ずっと一人で過ごしていると、ママとパパが心配して話しかけてくる。

 私は言われた通り、砂場で遊んでいる同じクラスの子たちのもとへ向かう。


「うぐ……あの……」


 同じクラスであるはずなのに、私のことを、敵を見るような目で見ているのを感じた。

 その雰囲気に押され、「私も入れて」の一言がどうしても言えなかった。


 こんなこともあった。


 私が体育着を家に忘れてしまった時だ。


「ごめんなさい。体育着を忘れてしまいました」

「前日に持ち物、ちゃんと確認するっていつも言っているよね?」

「……ごめんなさい」


 毎日、明日の授業と持ち物を確認しているはずなのに、毎日のように忘れ物をしてしまう。


「別のクラスにいって、借りてきなさい」

「……はい」


 先生に言われた通り、他クラスの扉の前に立つ

 心臓のバクバクが止まらない。

 怖くて、気を失ってしまいそうだ。

 ガラッ、と扉を開く。他クラスの生徒たちが一斉に、私の方を睨むように見ている。

 運動会の出来事と重なり、震えが止まらない。


「なんですか? 授業中ですよ?」


 他クラスの先生が私を叱るように聞いてくる。


「あぐ……わ」


 怖くなって、情けなくなって、私は逃げ出した。

 頭がパニックになって、なぜか家に帰ってきてしまい、当然両親にも怒られた。


 ……どこにも、私の居場所なんて、ありはしない。

 ……私を理解してくれる人なんて、どこにも居ない。


 勉強もできない。

 人と話すこともできない。

 集中力もない。


 悪いところなんていくらでも考え付くのに、良いところなんて思い浮かばない。

 それが私、栗原亜玖里だ。

 誰がどう見たって、人より劣る欠陥品。

 そんな自分が大嫌い。


 そんな私の唯一の癒しは、灯台の展望デッキ海を眺めることだ。

 私は海の見えるこの街で生まれ育ってきた。

 意外にも、私はこの街に愛着がある。

 この綺麗な海と街は、こんな私すらも受け入れてくれる。


 だから、なんとか、私は生きてこれていた。


 でも……。


 去年、私の大好きなこの街は災害の脅威に呑まれた。

 私の大好きな街が、ぐちゃぐちゃにされていく、恐怖と辛さで、私の心は大きく壊れた。


 そっか。

 神様は欠陥品の私を処分しに来たんだ。

 そうだよね。

 私みたいな欠陥人間は生きていてはいけないよね。


 ……夜、気づけば、私は灯台の展望デッキにやってきた。


 綺麗だった灯台には、災害の影響によりところどころ、ひび割れしていた。

 そう、私はこれから、この大好きな海の一部になる。

 こんな出来損ないの身体なんて諦めて、これから大好きな綺麗な海になる。

 そう考えれば、なんだか幸せな気分になる。

 あと、この柵を乗り越えて、足を一歩だけ前に進めば、私は海になれる。


 あと、一歩だけ……。


「栗原亜玖里さん……!」

 

 あと一歩だけ……だったのに。


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