第51話 高校生は内申点という言葉に弱い
「――ということなんだが、君たちも参加してほしい」
後日、《アオハル部》部室にて。
二部崎先生は先日俺にしてくれた説明と同じ説明を、現《アオハル部》部員である、赤槻、笛吹、比屋根の三名にする。
想像通り、三人の反応は芳しくない。
「どうしてせっかく学校に関連することを記憶から消去できる夏休みにもなって、部活動に興じないといけないのかしら?」
「残念だが、夏休みはオンライン大会があるので、その準備に忙しい」
「我も無論じゃ。この期間中に新しい魔法の開発に注力せねばならんのじゃ」
こいつら、平常運転すぎるだろ。
といっても、強制するのは《アオハル部》の理念に反する。
やはり本人が納得して「行く」という選択肢を取ってほしい。
でも、俺は部員の仲間と共に行きたい。
……果たして、どうするべきか。
「ちなみに、虹星高校ではボランティア活動を行うと、内申点が上がるという制度があるぞ」
その二部崎先生の文言に、ピクリと反応したのは赤槻だった。
成績を何より重視する赤槻にとって、内申点アップは絶好の餌である。
「……ふーん、別にどうしても必要というのなら、行ってあげてもいいですけど」
赤槻の言葉を受けて、二部崎先生は声を上げた。
「そう来なくっちゃな、赤槻。それで、笛吹と比屋根はどうだ?」
「学校の成績なんて興味無いね。ゲームの成績にしか興味がない」
「我は数値では測れない存在」
この二つの牙城、強固すぎるだろ……。
「うむ。じゃああとは頼んだぞ、青山部長」
二部崎先生が匙を投げるように、俺の肩をポンと叩いた。
ええええ⁉ 俺がこの二人を説得しないといけないの⁉
いやいや、俺は部長だ。こういう時に、何もできないなら部長とは名乗れない。
頭をフル回転して、何とか二人に興味を持ってもらう文言を考える。
「笛吹、災害ボランティアはシミュレーションゲームだ。どうやって効率的に作業するか、どうやって被災者の人たちに喜んでもらうか。そう、これはリアルで体感できるシミュレーションゲーム。なかなかそんな経験できないだろ?」
「なるほど。それは少し興味あるな」
「比屋根、被災して困っている人を見殺しにするのか? 民に祝福を分け与えるのも、万年の魔女たるお前の役目じゃないのか?」
「くぅ。確かに、我が魔力で民を救えるのならば……」
笛吹は人差し指に額を当て、比屋根は目を瞑り胸に手を当て、長考しているようだ。
そして……、
「「行こう」」
二人の声が重なった。
うん。なんかこの二人の扱い方が分かってきた気がする。
「(凄いじゃないか、青山。どうやら私はきみの力を過小評価していたようだ)」
二部崎先生が感心したように、俺に耳打ちしてくる。
先生のオトナの吐息が直に伝わってくる。
……心臓に悪い。
二部崎先生は再び皆に向き直り、パンッ、と注目させるように手を鳴らす。
「よしっ、皆行ってくれるみたいで、先生嬉しいよ。早速、ボランティアリーダーをやっている友人に伝えておく」
二部崎先生はスマホを取り出し、友人にメッセージを送る。
しばらくやり取りをしていると、
「問題なく受け入れてくれるそうだ。やってもらうのは、主にがれきの撤去や清掃、炊き出し、それと被災地の子どもと一緒に遊ぶ、このようなことだ」
「なるほど。それなら俺たちにでも出来そうですね」
「そうかしら? 甘く見てはいけないわよ」
俺の言葉に異議を唱える赤槻に対して、二部崎先生がフォローを入れてくれる。
「まあまあ。現地にはリーダーがいるから、その人の指示をしっかり聞いていれば大丈夫だと思うぞ」
「そうだぞ、赤槻。先生の言う通りだ」
「ふんっ」
不貞腐れた赤槻はそっぽを向いてしまう。
と、ポンと二部崎先生のスマホから通知音が鳴った。
二部崎先生は自分のスマホを凝視する。
「おっ、具体的なスケジュールが送られてきたぞ。11時集合で、午前中はがれきの撤去、周囲の清掃。13時頃から炊き出しの配膳、15時頃から現地の子どもたちの遊び相手。君たちにやってもらうボランティアは主にこの三つのようだ。あとで、具体的なスケジュールを皆に送る」
「あっ、でも二部崎先生の連絡先持ってないです」
「君たちのグループに入ることもできるが、教師の監視があると思うと、気ままにやり取りできないだろう。だから代表して部長の青山、連絡先を交換してくれるか? 今後から、部員に伝えてほしい内容は、そのままグループチャットに送ってくれ」
「了解っす」
俺と二部崎先生は連絡先を交換する。
完全に二部崎先生個人のアカウントだ。
教師と連絡先を交換するなんて、背徳感があってゾクゾクするな。




