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第39話 何事もマンキンでやると恥ずかしいけど、どこか清々しい

「我も王になりたい!」

「次は比屋根か。頼むからどぎついのはやめてくれよ」

「我が望むのは、盟約に従い、以下の文言を唱えてくれ」


 比屋根はそう言うと、先ほど大喜利で使ったスケッチブックとマジックペンを使い、いそいそと何かを書き殴っている。


「完成したぞ。この文言を全力で唱えい!」


 比屋根はスケッチブックの画用紙を切り離し、全員分に手渡した。


 ……これを読むのか。しかも全力で。

 画用紙に書かれていた文書はかなりヘビーなもので、これを全力でやるのはなかなかに気が引ける。


 俺と同じく、庶民である赤槻と笛吹の両名も、顔色が悪くなっている。


「まずは、氷姫ブリュンダスト、頼む!」

「………………」

「何をしておるのだ、氷姫ブリュンダスト!」

「……ブリュン何とかというのは、やはりぼくのことなのかい?」

「貴公以外、氷姫ブリュンダストはどこにおるのだ!」

「今いち、君の世界観が分からないよ」

「我は王じゃぞ。口答えは許さぬ。さっさと、唱えい」

「分かったよ。ゲームのルールにはどんなことがあっても従う。それがゲーマーの嗜みだ。手を抜くなんてヌルいプレイングはしないよ」

「それでこそ、氷姫ブリュンダストじゃ!」


 笛吹は覚悟を決めるように、「コホン」と一つ咳払いをして、目の色を変えた。


「我が名は、氷姫ブリュンダスト! 銀世界で踊り狂う氷像の舞姫なり! 我が主、万年の魔女・ヒヨテリウス! 一万年の時を経て、盟約を交わしにまいった次第! 我と共に、世界の礎に楔を打たん!」


 笛吹は氷姫ブリュンダストになりきって、比屋根ことヒヨテリウスが考案した中二病セリフをマンキンでやってのけた。

 その雄姿に感動を覚えざるをえない。


 と、同時に、ハードルが天元突破する。

 当の比屋根は満足げ気に、うんうんと頷いている。


「では、次! レッドクリムゾン!」

「その異名、本当に嫌なのだけど」

「我は王じゃぞ!」

「……やるわよ。やればいいんでしょ!」


 赤槻は観念したように、「ふぅ」と大きく息を吸って、演技に入った。


「我が名はレッドクリムゾン! 紅蓮に染まりし、焦土の大地に降り注ぐ、爆炎の災厄! 万年の魔女・ヒヨテリウス様、我と盟約を結び、世界を再び紅蓮に染めようぞ!」


 なんだかんだ全力でやりきった赤槻は、言い終わるや否や、顔を真っ赤にして、手をうちわ代わりにして顔を仰いでいる。

 よっぽど、恥ずかしかったらしい。赤槻の新たなる一面を見れて、なんだか得した気分になれた。


「最後は『地獄の番人ヘルケルベロス』! 貴公じゃ!」

「ひえっ!」


 前二人の雄姿を見たばかりの俺は、思わず背筋が震え上がってしまう。

 果たしてちゃんと演技できるのだろうか。演技が下手な俺は不安にさいなまれる。

 生唾をごくりと飲み干し、俺は覚悟を決める。


「あれから一万年の時が経った。地獄には何もない。全てが退屈。またあの時見たく、血沸き肉踊る毎日を過ごしたい。私の相手が務まるのは、最強と謳われし大魔女・ヒヨテリウスしかおらん。ああ、逢いたい。ヒヨテリウスに。どこにおる。私は探し続ける。輪廻の果てまで」


 なんか、俺だけテイスト違くね?

 なんで、アンニュイなんだよ。

 せめて、前二人みたいに、気持ちよく口上唱えさせてよ。


「うむ。よろしい」


 まあ、比屋根が満足ならそれでいいか。


「よし、じゃあ王様交代。青山行ってみるか?」

「うす」


 ようやく俺の出番だ。今までの鬱憤をここで晴らすぞ。


「俺の命令はただ一つ! 皆に『猫耳』をつけてほしい!」


「「「はぁ?」」」


 俺の奇想天外な提案に、皆は猫ミームばりの「はぁ」を見せる。猫だけにね。


「猫耳? バカじゃないの。そんなものあるわけ……」

「猫耳、ありますっ!」


 なんとか細胞ばりの「あります」を宣言した俺は、以前押入れ収納から落ちてきたガラクタ群を入れていた段ボールの中をガサゴソと探り、猫耳付きカチューシャ三点を取り出す。


 俺は見逃さなかった。

 あのガラクタ群に、とっておきの『トレジャー』があったことにね。


 いつか、誰かにつけてもらおうと画策していたが、とっておきの機会が舞い降りてきた!


「待ちなさい、エロ山。この命令はコンプライアンス違反よ」

「二部崎チェアマン、ジャッジを!」


 赤槻の抗議に俺はすかさず、際どい判定でリクエストする監督ばりに、二部崎先生にジャッジを委ねる。


 二部崎先生は眉間に皺を寄せて、俺と赤槻、両者の主張を吟味している。


「えー、チェアマンの二部崎です。この命令は『コンプライアンス違反ではない』と判断し、赤槻暁美の抗議を棄却します」

「はあ! どうしてよ⁉」

「単純にみたいから! きみたちの猫耳!」

「最低……」


 何度でも言え。

 俺は王様。

 つまり、ここでは俺の言葉こそ絶対なのだ!

 アッハッハッハ!


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