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在りか ~私の居場所と異世界について~  作者: 白之一果
第1章 旅の始まり
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第39節 階級とファミリーネーム

 余りに物事を知らない人を見て、知識のある人はどう思うだろう。

 正直私なら、これ以上関わらなくて良いなと切り捨てる。取り敢えずその場は当たり障りのない話をして、二度と声を掛ける事はしない。都合よく利用できるかもしれないが、得るものがない上に周りからの評価が下がる事を考えればマイナスだと思う。


 しかし、物事はすべからく繋がっていて、自分の行いは巡り巡って自らに還るものだとも思っている。だから私のそんな考えと行動が、結果的に今私に降りかかっていたとしても仕方がない事なのだ。

 私は今、切り捨てられる側にいる。

 背中に冷たいものを感じつつ、私は口を開いた。


「私はここに来たばかりなの。だからここの事は知らないし、貴方達とは違う常識に従って生きているわ」


 あいまいな言い方をして誤魔化すつもりはなかったが、違う世界等と言って信じてもらえる保証はない。ミィにもこれまで詳しい話をした事はなかった。だから私は不安でいっぱいだった。話をして彼等の気持ちが離れる事が怖かった。

 しかし三人は特に質問して来るでもなく、訝しむでもなく、大人しく次の言葉を待っている。私は声が震えない事を祈り、脈打つ心臓を取り繕う様に胸の前で手を合わせて押さえ、話を続けた。


「私は自分の意思でここに来た訳ではないし、急に来る事になったから此方の事を何も知らない事は自覚してる。でも戻る事が出来ないからここで生活する準備をしているのよ」


 向こうに戻れるのか分からないし、そもそも戻りたいかもよく分からないから暫くここにいると言うのは本当だ。

 ただ、それを正直に伝えて良いものかと思う。

 ホノライやノハヤは兎も角、ミィは恐らく行き場がない。勝手に拾って来て、自立の目途も立たないうちに放り出すのは流石に躊躇われた。だから不安要素を今与える必要はないと思ったのだ。

 という建前かもしれないが。


 精霊達にしても、知り合ってまだ数週間。萌黄や紅に至っては先週出会ったばかりで、元から私の従者ではない。そもそも従者であるかすら怪しい。

 そう言う事も含めて、決して故意に隠した訳ではない。私の話を「少し」しているだけなのだ。腹を割って話せない相手に信頼しろと言うのも無理な話だが、私はまだ本心をさらけ出すのは怖かった。


「勝手に主人になっておいて申し訳ないけれど、貴方達がもし私に此方の常識や教養を身に付けて欲しいと思うのならその都度教えて頂戴。私は何が違うのかよく分からないから、そんな顔されても困るわ」


 おこがましいのは承知している。物事を教えるに値する主人ではまだない事も理解している。


「一応此方の事を学ぼうとは思って、商人に本は頼んであるけどね。でもここまで持って来てもらうにはまだ日がかかるでしょうし。多分領主に合う方が先になるわ」


 自分の言葉に何となく虚しくなって空を見上げると、籠の中の鳥と目が合った。伝書鳥はじっとこちらを見ていた。泣きわめきも暴れもしない、良くしつけられた鳥だ。

 この時既に私は、精霊達が折角「私達と同じ」と注意してくれた事をすっかり忘れていた。


「でも私は今のところ貴方達を手放すつもりはない」


 いろんな事を見せてしまったし。と言うのも確かにあるが、人が離れて行くのが寂しいと言う方が大きい気がした。

 人間不信だ何だと言ってもやはり私も人には違いない。輪の中にいて安心したいのだと思う。


「だから領主と対面して私の立場が危うくなれば、貴方達にも相応の事が降りかかるかもしれない」

「そんな事にはならないよ。だって僕らがいるもの」

「そうですわ。何かあれば領主など光に還してしまえば良いのです」


 最初に口を挟んだのは精霊だった。勿論彼女達は怯える雰囲気も悩む素振りも皆無だ。

 重苦しい雰囲気が和らいだ事には感謝しよう。

 それをきっかけに、従者も意見を述べ始めた。


「私はトーコ様から離れるつもりはありません」


 ミィはきっぱりそう言い切った。


「トーコ様が何処の誰であろうと、私を助けて、拾って下さった事に変わりはありません。だから私をここに置いて下さい」


 ミィの真剣な真っ直ぐな瞳に、私は正直驚いた。これが口先だけなのか、そうでないのか判断出来たらどんなにうれしい事か。状況から考えて嘘ではないとは思う。そして嘘であったとしても、泣きそうなくらいには私の気持ちは揺れた。


「私も神様や精霊様に仇なす事は致しません。それは精霊契約があるからという訳ではありません」


 次に口を開いたのはホノライ。信仰心が篤いと言うのが本当ならそうだろう。

 まぁ私は神ではないのだが。


「トーコ様が神であってもそうでなくても、精霊様を四人も従えている事実は変わりません」


 私の顔色を窺ったのか、その声は私の不安を取り除こうとすると共に、ノハヤやホノライ自身に言い聞かせる様なものだった。


「…………それに私にも家に帰れない事情はあります」


 最後に小さくそう呟き、ホノライが寂しそうに笑ってノハヤを見た。その視線を受け、暫く見つめ返すノハヤ。

 その間私を萌えさせたノハヤは意を決した様に小さくだがはっきりと頷き、顔を上げて居住まいを正した。


「ホノライ様はアドバンセチア家の次期当主と目された程に非常に優秀なお方です。それが孤児である私を拾った事でお兄様から執拗に追及される事になって……結局二人でアドバンセチアの家を出たのです」


 自分の話をしたら、従業員のディープな過去を暴露された。少しは信頼してもらえたと言う事だろうか。


「ホノライ様は、私をいつも守って下さいました。あの時からずっと……」


 控えめな言い方だが、孤児であったノハヤは恐らくアドバンセチア家で相当な仕打ちを受けたに違いない。お家騒動と言うのは時として骨肉の争いに発展するものだ。いじめ程度では済まない場合も往々にしてあると聞く。

 守ると言っても四六時中一緒にいる事は不可能だろうと私は想像した。


「ノハヤばかりが原因ではないのです。あの時は私もまだ子供でしたが成人はしていました。やり様はいくらでもあったのです。でも、私はもう家にいたいとは思わなかった。だから逃げる様に師団に入ってからは、家へ帰る事はなくなりました。今でも戻るつもりはありません。寧ろこの名を捨てたいと何度思った事か」


 歪んだ眉間から、それはホノライの真意である様に思えた。

 ここ二日しか見ていないが、彼は非常に真面目な性格に見える。師団に所属している以上、領主に従う事は彼にとって至極当然であったのだろう。ただ神と比べるものではないのだ。

 家には帰りたくない、師団にそれ程思い入れがある訳でもない、その上信仰が篤いとなれば、彼の選ぶ道は一つ。


「私もこちらにいさせて頂きたい」

「私も、ホノライ様と一緒にいさせて下さい」


 ホノライに続いてノハヤも地面に額を付ける。

 ノハヤは私を神だと思った時、狂信者の如くテンションが上がっていた。しかし、ホノライの方が彼の中では優先すべき事柄なのだ。


(寧ろ正直で分かり易いか?ホノさん呼びのが萌えるんだけど)


 それは私を落胆させる要因にもなり得たが、安心出来る要素でもあった。


「貴方達の気持ちは分かった。では私達はこれまで通りファミリーね」

「「「はい」」」


 彼等に私がただの人で、精霊が気まぐれに傍にいるだけだとバレた時が恐ろしいと思いつつ、私はそう口にした。

 精霊達は当然だと言わんばかり満足気に頷いている。

 彼等のすっきりした眩しい笑顔に、チクチクと良心が刺された。


「ところでホノライ、貴方除籍してもらえばすっきりするんじゃない?そう言うものではないの?」


 自分で言っておいてなんだが、ファミリー、家族と言う言葉にふと疑問が湧く。

 ホノライはどうしても家族や貴族に執着がある様に見えるのだ。私の仲間になるのなら外への未練など正直忘れてもらいたい。


「ジョセキ?」

「戸籍から名前を抜くの」

「コセキ……?」


 どうやらここに戸籍制度の様なものはないらしい。まぁ向こうにだって家単位で戸籍を登録する国は殆どないのだが。


「家から抜ける為には何か必要なの?家に帰らないで、アドバンセチアを名乗りさえしなければ貴方は自由じゃないの?それとも、姓を名乗る矜持は捨てられない?」

「それは…………」


 どうやら図星だった様である。

 信仰が篤い真面目な男でも、全てが清廉なものではないらしい。貴族に生まれ、恐らく四十年程は過ごしてきたのだ。それも当然かもしれない。


「名前か。なら、私の姓を名乗る?」

「そんな恐れ多い!しかしトーコ様は貴族階級の体なのですね」

「体?いいえ、私は平民よ」

「まさか!…………あぁ、そう言う事ですか」


 唯一神に階級など有りませんものね、等と聞きたくない呟きは聞かなかった事にする。

 この世界の神は全能の唯一神。一人しかいないのだから、その中に階級など勿論ない。


(あれ、ちょっと待って?じゃぁ私はその唯一神と間違われてるって事?あの白の神と!?)


 冗談ではない。あれのせいでどれほど私が苦労したと思っているのだ。


「……庶子、ではないですよね」

「庶子?本妻の子じゃないって事?」


 何を聞かれているのか今一分からない。神には庶子がいるのか。そもそも神は結婚するのか。もしかしてあの黒服の御使いはお母さんでもお姉さんでもなく……。

 ホノライは暫く考えていたが、恐い考えに行き当たって口元が引きつる私の様子に気が付いたのか、こう切り出した。


「身分制度を何処までご存知ですか?」

「身分?領主がいて、貴族がいて、後は平民、奴隷もいるのよね?」

「……そうですね。デルファーニアの階級は第一位から第五位まであります」


 曰く。

 第一位は神と精霊。信仰の対象で人が成れるものではない。

 第二位に賢者。歴史上の偉人である大賢者と、現在存命の三賢者の事。彼等は神力が五千を超え、器はデルファーニアの頂点らしい。

 第三位は貴族階級。領主一族を筆頭に、上級貴族、下級貴族。

 第四位が平民。上級市民、中級市民、下級市民。町や村によってその地位は横並びではない。

 第五位は奴隷。元々奴隷から生まれたり、犯罪で奴隷に落ちたりいろいろである。


 思ったよりも細かく分かれている。ホノライやノハヤの中で私は、第一位の頂点に分類されているに違いない。

 そして領主より高い位置にいる賢者と言う階級。国の頂点の神力の器が五千。この単位で計られているのだから、五桁と言う事はあるまい。


「名前に関して言えば、領主一族は必ずミドルネームにRが付きます。名誉貴族はKが付きます。これは国の最高権力者、デルファーニアでは王がいないので各領の領主から功績に応じて与えられます。出自が貴族ならミドルネームがありますが…………平民と貴族との間の子にはミドルネームは付けません。平民はそもそも姓がありません。奴隷に至っては名もない場合もあります」


 領主の手紙を思い出す。今いるデルファーニア国レザーヌ領の領主の名前はエルザーニス・R・ランファレ。Rである。

 ホノライは貴族だがミドルネームがない。


「ホノライは庶子なの?」

「…………そうですね」


 本妻の子は兄と言う事だろうか。言い淀んだところを見ると、思うところがあるらしい。


「ちなみに私は庶子ではないわよ。名前は道坂塔子。此方風に言うならトーコ・ドーサカだけど、私が元いた場所には身分制度なんかなかったから皆が平民だし名前と姓もこの形しかなかったわ」

「身分制度がない……やはり……」


 勘違いされている気がする。敢えて否定はしないが。外れた時に自意識過剰なのは恥ずかしい。

 元の世界には厳密には苗字がない方々もいるのだが、極一部なので省略した。


「確かに、神が世界を御造りになったと言ってもずいぶん昔の事ですよね。その後人が歴史の中で生み出した制度や分類についてご存知ないのは当たり前です。思い至りませんで、申し訳ありませんでした」


 得心したと言う様にホノライが深々礼を取る。ノハヤもそれに倣う。ミィまでキラッキラした瞳で両手を合わせ此方を見ているが、そうではない。これは本格的に言い出しにくい状況である。


「あ、あとこれはご存知かもしれませんが奴隷の中でも最下層に位置するのが刻印奴隷です。これは勿論神の刻印を持つもので……」


 ドクンッと大きく心臓が跳ねた。言葉に反応して右手に一気に熱が、神力が集まる。その後に続いたホノライの声は大き過ぎる動悸のせいで良く聞こえなかった。


「トーコ様はトーコ様でしょ?それ以外の何物でもないよ?ドーサカって何?」

「姓ですか。そんな感じはしませんが」

「トーコ様。それ以外は何も感じない」

「そうねぇ」


 精霊達がこの急激な神力の流れに気付いていない筈はない。私の横で不思議な会話を繰り広げるのは、隠したいと思った私の気持ちを汲んでの事なのか、名前とはそもそも精霊にとって何か感じるものなのか。

 精霊の感覚は此方の常識以上に良く分からない。

 ミィは俯いている。


「…………まぁ名乗る機会もなかったし、違和感があるならこの際私達のファミリーネームを付ける?」

「「「ファミリーネームを付ける?」」」


 我ながら突拍子もない事を言ったと思った。二人に、刻印の事を知られてはならない。そう思って焦ったのだ。刻印を実際に見たのは蘇芳と瑠璃、ミィ。しかし神力で繋がっている萌黄や紅も分かっているに違いない。

 けれど、人間である二人には絶対に知られてはいけない。神の刻印は神への反逆の証。信仰篤い二人は私を――例え一端でも――神だとして仲間になった。それが反逆者だと知られればどうなるのか。

 それは即ち神ではなく、ただの人であるという証。平民どころか、奴隷。その中でも最下層の階級が人からどういう扱いを受けるのか、想像しただけでも悪寒が走った。


「ホノライはアドバンセチアがあまり好きではないけれど姓は名乗りたいんでしょ?ドーサカは精霊達に不評だし、だったら自分で決めれば良くない?駄目?」

「流石にそれは……」


 躊躇するノハヤ。自称する事に何か問題があるのだろうか。


「そもそも姓って誰が決めるの?身分制度は誰が決めたの?」

「昔から決まっている事なので……神様がお決めになったのではないのですね?でしたら昔の人間かと」


 大真面目な顔をしてホノライが聞いて来た。何を馬鹿なと思い視線を動かすと、ノハヤも期待の目でこちらを見ている。勿論私は神ではないので誰が決めたかなんて知らない。


(そう言えばこの世界って神と話が出来るんだっけ)


 いつだったか蘇芳が神と話したと言っていた気がする。


「貴方達は知らないの?」

「知りませんわ」

「人種の事です。人が決めたのでは?」


 しかし、精霊達にとって問題はそこではない様だ。


「神が付けられるのでしたら、トーコ様がお付けになっても何も問題ないのでは?」

「そうだね!何にする?トーコ様」

「強そうなのが良い」

「あら、トーコ様には柔らかそうなのが似合うと思うけど」


 精霊達が急に盛り上がり出した。彼女達はなぜかやたらと神に厳しい。

 でもそうだ、苗字だと思うから少し戸惑うが、団体名だと思えばいいではないか。新しく組織を作ったから名前を付ける、それだけだ。グループでお揃いのTシャツを着る様に、新しい名を皆で名乗ればいい。


「平民が姓を名乗るのに問題がある?身分詐称と言われればそんな気がしなくもないけど、何か取り締まる法律とかがあるの?」


 念の為聞くが、ホノライは首を傾げた。


「ないと思います。そもそもその様な事をする者の話すら聞いた事がありませんし……」


 そんなに珍しい事だろうか。


「トーコ様がそうなさりたいのでしたらそれが宜しいかと思います」


 そんな訳で、全員一致で私達のファミリーネームを付ける事になったのだが、自分で提案しておいてなんだが、正直彼等に向ける笑顔の後ろで物凄いプレッシャーを感じていた。


「何が良いと思う?」

「人種の名前の良し悪しなど分かりません」


 精霊にはそう一蹴りされ、


「私達が考えるなどおこがましい!トーコ様から頂きたく存じます」


 従業員達からは丸投げされたのだ。

 正直私だって此方の名前の良し悪しなどまったく分からない。そもそも人の名前すらそんなに知らないではないか。


(友達が少ないって寂…………考えるの止めよう)


 知っている名前と言えば、領主のランファレ。ホノライのアドバンセチア。現在我が家の地下で捕虜となっている神法師団第八隊隊長のサダートはキーニーズだ。後はロドの町の恐らく中級市民、服屋の支配人トージィはマクエム。

 何となくカタカナ、と言う法則性しか見つけられない。


(何でも良いのよね?)


 他に知っているのは地名くらい。


「…………じゃぁ、ここの名前貰う?グリーセントメリベ」

「グリーセントメリベ……北の大きな森林ですか」

「北の大きな森林?」

「古い言葉でグリーは北、セントは大きな、メリベが森林です。デルファーニアの南の大森林は、南と言う意味のワーツを縮めてワッセントメリベと言います」


 これは、ファミリーネームには微妙、と言われているのだろか。地味に凹む。


「トーコ様の支配域が分かり易くていいんじゃない?」

「この世は全てトーコ様のものですわよ」

「そうだな」


 精霊が怖い事を言う。私は世界征服なんてした覚えはない。


「あら、でも直接支配してるんだから、牽制には丁度良いんじゃない?」


 誰を牽制すると言うのか。領主だろうか。


「支配域が増えればまた変えるか加えるかしても良いし」


 増やすつもりは今のところ全くない。私は私達が安心して住めるだけの土地があればそれでいいのだ。


「でもこの土地の名前では今付けたというのがあからさまではなくて?ここに最近来た事は領主も知っているから今騒いでいるのでしょう?」

「頻繁に名前を変えると認知度下げるんじゃないー?」

「それもそうだな」


 こっちで考えろと言う割に、いろいろ意見はある様だ。


「じゃぁ…………ウェネーフィカ」

「ウェネーフィカ?どういう意味ですの?」

「魔女よ」


 ラテン語で魔女。我ながら安直だ。中二病を患っていた時にかっこいいと言う理由で覚えた単語である。

 まぁこれではただ職業や役職を述べているのに他ならないが、そこはそれ。他に思いつかないから仕様がない。響きが良ければ良いのだ。

 別にソルシエールでもストレーガでも悪くはないが、魔女っ娘や酒のイメージが強いので却下した。


「トーコ様のお国の言葉ですか?」

「……そう」


 気持ちが落ち着いたのか、ミィがいつもの調子で無邪気に聞いて来る。その問いに肯定し、少し胸が痛む。私の国の言葉ではない。元の世界の言葉だ。


「素晴らしいですわ!」

「良いと思います」

「トーコ様にぴったりだね!」


 精霊達がはしゃぐ。魔女と言う言葉が甚くお気に召したらしい。


(あれ?そもそも私自分が魔女だって許容してたんだっけ?)

「じゃぁファミリーネームはウェネーフィカで……」

「トーコ様」


 自分でも迷走しつつ纏めようとした時、ホノライが口を挟んだ。


「我々がトーコ様と同じ魔女を冠する訳には参りません。それと…………」


 言葉に詰まるホノライに、何となく想像は付いた。


「ではミドルネームにFを付けましょう。貴方はホノライ・F・ウェネーフィカ。どう?」

「F?」

「子供……魔女の子供と言う意味よ」


 私達は主人と従業員。このファミリーに置いて、言わば親と子の関係だ。

 本当は子供なんて言うラテン語は覚えていない。でも息子がフィーリウスで娘がフィーリアだった気がする。精霊は性別がないし、ましてや男の娘なんて単語は知らないので丁度良いと思いFで統一する事にする。外国語は名詞がいろいろ変化もするが、そんな事はどうでも良い。誰にも分からないのだから。

 ホノライも、貴族出自へ感じているコンプレックスが満たされればそれで構わないのだと思う。


「トーコ様はどうするのぉ?」

「私?」

「トーコ様は魔女ご本人ですが」

「あー……」


 本人なんてラテン語も正直知らない。


「私はDね。トーコ・D・ウェネーフィカ」


 道坂のDだ。決してDeusのDやGodのdではない。

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