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在りか ~私の居場所と異世界について~  作者: 白之一果
第1章 旅の始まり
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第38節 無知な主人と裸の従者達

「私の事はトーコと呼んで頂戴」


 普段から神などと呼ばれるとその内勘違いしそうなので私から自己紹介しておく。


「はい、トーコ様。私はホノライ・アドバンセチアと申します。彼はノハヤ」

「知ってる。ノハヤは貴方に拾われた平民で光と風の属性持ち。貴方は下級貴族で器二千六百の水属性は確定。他の属性は?」

「ありません」


 萌黄が頷く。精霊契約と違って嘘発見器は融通が利くので便利だ。但し私が萌黄を信用しないとどうしようもないが、まぁ契約を済ませたばかりのこの二人が嘘を吐くとは思えない。

 因みに契約条件はミィと同じ。故意に私を傷付けない事と行動範囲の限定と特約。罰則は臨死程度の激痛に因る気絶。回復条件は私が直に触れる事。

 字ずらだけ見るととても非道に見えない事もない、かもしれない。いや、そんなつもりは毛頭ない。私は自分の身が可愛いだけだ。


「ところでホノライ、貴方家族や親族は良かったの?」


 無理矢理引き込んでおいて良かったも何もないが、ホノライが思ったよりあっさり此方に付いてしまったので気になって聞いてみる。


「問題ありません。私は実家と折り合いが悪かったので……」


 ホノライは少し躊躇いを見せたものの、素直に答えた。


「結婚とか婚約とかしてないの?貴方貴族でしょ?」

「どちらもしておりません」

「長男?」

「違います」


 そう言うなら一先ずは安心だろうか。御家騒動に巻き込まれるのは勘弁してもらいたい。

 この話はしたくないのか暫く待ってもホノライからそれ以上の情報は得られなかったので、取り敢えず今は良しとする。精霊契約があるのだ。問題が起こった時に考えるとしよう。分からない事を考えて悩むのは無駄だ。

 それはそうと、家族が増えたので生活環境を見直さなければならないだろう。差し当っては部屋割りの変更である。


「南東の角部屋に紅と瑠璃とミィ。その北の部屋に蘇芳と萌黄とノハヤとホノライ。ベッドは貴方達が使って」


 どうせ精霊は寝ないのでベッドの増設はなし。男女同室でも問題ないだろう。そもそも精霊に性別はないらしいし、確実に精霊が狩る側だし。

 萌黄がいれば見た目BL的展開ももしかしたら楽しめるかもしれない。


「…………」

「何?」

「あの、トーコ様……奴隷にも部屋を頂けるのですか?しかも精霊様と同じ……?」


 奴隷。誰がそんな非道な事を?


「分を弁えているとは、少しは見込みがあるかしら」

「その様だな」

「ちょっとやめなさいよ。怯えてるわよ?」


 至極当然と言った様子の瑠璃と蘇芳。止めつつ紅も面白がっている。

 取り敢えず害がないので放置して、私は二人を立たせた。


「私に忠誠を誓うんでしょ?だったら裏切らない限り貴方達は私のファミリーよ」

「ファミリー?」

「同じ組織と言うか、グループというか?でも多分神法師団みたいなのではなくてもっと家族的な集まりで」

「家族」

「そう、家族。だから言いたい事があれば遠慮しないでね」


 オウム返しに呟いて、ホノライとノハヤが顔を見合わせる。


「大体奴隷の首輪とか付けてないでしょ?」

「……奴隷の首輪は商業ギルドの専売特許ですが」

「商業ギルド?奴隷の首輪ってギルドでしか売ってないの?」


 ホノライとノハヤがクエスチョンマークを浮かべ合う。

 私も何となく話が通じていない事は分かった。


「奴隷の事に詳しくないのよ。説明してくれる?」


 ここは素直に聞こう。これは知らない事を隠さなくても良い案件だと思う。いくら何でも全人類が奴隷を使役している訳でもあるまい。人生で奴隷に関わる事がある人の割合がそう多いとも思えない。

 と思ったのだが。


「奴隷の売買は商業ギルドが行う事業です」

「そうなの!?」


 ギルドはもっとクリーンなホワイト組織かと思っていた。一気に想像がグレーを通り越してブラックに早変わる。

 そして以外にも生活に密着していそうな事に冷汗が伝う。


「特に奴隷の証である首輪は、火水風土の四属性の神法を組み合わせて形成されます。その神法は公表されていませんから専売特許……裏の世界を除けばほぼ商業ギルドの独占事業です。首に密着形成される奴隷の首輪は再度この術を行使しない限りは外す事が出来ないので、奴隷になるのもやめるのも商業ギルドに認められなければなりません」


 神妙な顔をして語るホノライを通り越して、ついついミィを見てしまった。

 ミィは無意識か、首に手を当てていた。


「首輪が欲しいなら、トーコ様にお願いしたら付けてくれるんじゃない?」


 萌黄は気軽にそう言うが、無理矢理外すのは兎も角、付けるのは微妙な力加減が必要だろう事は想像に難くない。下手をして首が絞まったら一大事である。


「付ける?ですから四つの属性が……」


 周りを見回したホノライは、何となくそこで悟ったらしい。ノハヤは良く分かっていない様子だが。


(ホノライって私より確実に賢いよね。怖いな)


 この状況で何か画策出来るとも思わないが、味方でなかったら脅威だ。知識や知恵は力。どんなに腕力や神法が強くても、策で負ければ意味がない。


「貴方達は奴隷じゃないから首輪はしない。ここでの立場は……使用人、かな?」


 血の繋がった者程の地位はなく、かと言って他人でもない家族。前世?で私が常々望んでいた忠実な執事。

 精霊に反対されない事に密かに胸をなでおろしつつ、私はミィを呼んだ。


「ミィの後輩になるから、仲良くやってね」


 ミィを二人に紹介する。ミィは恐縮して軽く会釈したが、二人に思い切り顔を逸らされて地味に傷ついている。原因は十中八九服装だろう。精霊は兎も角ミィは女性である。そろそろ服を着せなければ。


「ミィ、何でも良いから羽織っておこうか。二人がやりにくそうだから」

 

 チラ見せの方がやらしいとは思うが。


「!畏まりましたっ」


 言われて急に意識したのか、真っ赤になってミィが前を隠しながら俯く。今更遅いだろうに。


「あとトイレは……」

「「「「「ミィ(私)と共用で」」」」」


 何故か女性陣?全員一致で決定した。男女で分ければ良いと思ったのだが。結局私のトイレは無駄に広いのに一人用だ。


「あ、二人共、私達の後で良ければお風呂も入ってね」

「風呂……本当に宜しいのですか?」

「いいわよ。その代わり出た後に掃除はお願いするけど」

「…………ホノさん、俺風呂とか入った事ない」

「私だってそう何度も入ったものではないよ」


 風呂は貴族のものだ。人間の神力を考えれば水も火も神法で補う訳にはいかないのだろう。準備と維持に相当な手間とお金がかかる趣向品だ。

 ホノライは貴族だが、下級と言う事なのでそれ程裕福だった訳ではないらしい。


「あと仕事だけど、二の鐘から四の鐘まではきちんと働く事」


 一の鐘で起床し朝食を済ませ出社。職場はここなので物凄く出勤し易い。


「四の鐘で就業。皆で夕食を取った後は自由時間で、五の鐘で就寝」

「皆で?」

「あ、家は皆で食卓を囲むからね。基本は同じものを食べるし、従業員だけキッチンで食べるとか止めてよ?」


 タダでさえ人間不信気味なのに、私以外で集まられるなんて怖すぎる。悪口大会など開催されたら私の心が死ぬ。


「普通の生活をさせてあげるって言ったでしょ?」

「普通……でしょうか。師団より余程好待遇なのですが……」


 遠慮がちに申し出るホノライ。ノハヤも高速で頷いている。正直なのは良い事だが、ファミリーの親としては少し心配にもなる。

 私としては、この世界の通常形態を取り入れたつもりである。主人と食卓を囲むのは少し特殊かもしれないが。


「一応ホワイト企業にはしたいと思ってるの」


 入社まではかなりブラックで、しかもお給料も休みもないこの形態をホワイトと言い張る。


「ホワイト?」

「良いじゃない。楽ならそれで」

「トーコ様がお決めになった事よ。素直に従いなさい」


 見解に差はあるものの精霊達もこれを認めたので、ホノライは戸惑いつつも具申を諦め頷いた。


「仕事内容は、ミィは今まで通り料理と屋敷内の清掃。まぁ雑事全般ね。ホノライは外の警戒とヨモギの遊び相手。ノハヤは魔石の浄化とミィの補佐。場合に寄ってはホノライの補佐。あ、魔石が一つも浄化出来ない日は昼寝」

「昼寝……?」

「お昼寝して回復してから浄化。これは仕事よ」


 ノハヤがぽかんと口を開ける横で、ミィが慌てた。


「私の補佐ですか?私が補佐ですよね??」

「立場的にはミィは二人の先輩だからね。後輩を良く指導する事。よろしくね」


 微笑んで手を伸ばすと、ミィは私が頭を撫で易い様にサッとしゃがんだ。嬉しそうに撫でられている姿は猫……いや、犬だ。


「分かりました。頑張ります」


 素直に頷かれて嬉しさが込み上げた。支配欲が満たされるのだろうか。半裸の少女を跪かせて撫でているなんて、ネバーランドのエンターテイナーを思い出す。私の倫理観が少し心配になる。


「瑠璃はミィとノハヤの教育係、紅はヨモギの調教とホノライの教育係、蘇芳は捕虜の監督係」

「僕はー?」

「萌黄は……そうだな、私の補佐でいいか」


 特に仕事もないのだが、他に思いつかなかったのでそう言う事にした。見た目的に執事より小姓的な事になると思うが、萌黄が満足そうなので良い。瑠璃がキッと萌黄を睨んでいるが、見なかった事にする。


「……あの、宜しいでしょうか」

「何?」

「私にはとてもヨモギ様の遊び相手が務まるとは思えません」


 ミィに倣ってか、はたまた気が動転してか、ホノライまでがヨモギに敬称を付け出す。


「武器なら何でも使っていいわよ。光に還る前に助けてあげるし」

「強くなれるなんて最高の職場ねホノライ。本当に師団より好待遇なんじゃない?」


 武器など気休め程度にしかならないとは思う。

 上司の紅がにっこり微笑む。ちなみに紅は豊穣やら美やらの精霊らしいが、武の精霊でもあるらしい。格好は悩ましいが、仕事も態度も割と男らしくキリッとしている姿を見れはそれも納得する。

 まぁこのギャップがたまらない、と言うタイプではなさそうなホノライは若干怯えている。


「…………畏まりました」


 どうにもならないと悟ってホノライが折れた。普通の生活とは何か自問自答している。後は紅に任せるとしよう。


「まぁそんな感じで明日から頑張りましょう。今日はもう遅いから、皆ちゃんと寝る事。あんまり時間はないと思うけど」


 五の鐘が鳴ったのは随分前だ。大気の感じからして、既に水の日に変わってからいくらか経っていた。




 翌朝、かなり短時間睡眠で寝不足気味の眼を擦りつつ鐘の音と共に目を覚まし、精霊達の協議の末蘇芳とミィと魅惑のお風呂タイムに揉まれた私は、朝食を食べようと出た庭で伝書鳥を銜えたヨモギと出くわした。

 ヨモギは玄関の前でお行儀良く待っていた。伝書鳥はぐったりとしていて、周りに羽が散らばっているところを見ると相当暴れたらしい。


「ちょっとヨモギ、それ僕のだって知ってるよね?」


 萌黄が怒っているのが分かるのだろう。ヨモギは反抗期の子供の様にグルルと喉を鳴らし、しかし敵わないと分かってはいるのか萌黄から視線を外さずにそっと獲物を私の前に置いた。

 ヨモギが放した伝書鳥はくたっと横たわったまま動かない。これが掌に乗る小鳥なら優しく言葉をかけながら指の腹でそっと撫でるところだが、如何せん巨大な鳥だ。まだ何も知らない頃の私なら、背に乗って大空を飛ぶ妄想をしたかもしれない。


(絶対乗らないけどね)


 動物に乗って空を飛ぶなどもう考えられない。その羽ばたき一回でどれだけの上下運動をさせられる事か、考えただけでも気持ち悪い。


(本当にどうなってんのよあんた達の三半規管は)


 私の背を超えそうな大きな身体を包むのは、薄い緑の綺麗な羽と体毛。ヨモギのお陰でバサバサになってもなお、本来の美しさを想像させる。

 もう少し近くに寄れば触れるかと思い一歩踏み出すと、伝書鳥が急に翼を広げて威嚇しようとした。


「ひっ!」

「ギエェェッッ!!」


 ヨモギの足が瞬時に伝書鳥を踏み潰した。


「いやいや!潰さないでよヨモギ!もうちょっと力抜いて優しく!…………フミフミしないの」


 踏まれて形を変えるお腹の弾力が凄い。そんなに軟ではないらしい。

 ヨモギも見た目恐竜のくせに、ぬいぐるみみたいにふわふわな毛並みの持ち主だ。戯れる姿に癒されていると、萌黄が忘れていたと言わんばかり私に一通の封筒を差し出した。


「何?」

「リョーシュから手紙ぃ」

「りょう…………領主!!?いつ来たの!?」

「割とさっき?これが持ってたから貰っといた」


 ちらりと視線を伝書鳥にやって、顔を顰める萌黄。


「踏まれて潰れてしまえば良いものを」

「貴方も怖い事言わないの」


 瑠璃を窘めて、取り敢えず手紙を開いて見る事にする。

 白い封筒は蝋で閉じられている。ペーパーナイフなど持ち合わせがない。腕に思えがあるなら神法でウォーターカッターと乾燥とか、かまいたちとか、器用に端だけ焼くとか方法はいろいろあるが、そんな細かい調整に自信はないので蝋の上を手で破いた。


「なんて書いてあるのー?」

「読む必要がありますの?」

「念の為読んで備えるべきだろう」

「楽しい事が書いてあると良いわね」


 精霊の声は無視して手紙を読み切る。たいして長い手紙でもない。直ぐに最後の領主の名前に辿り着き、瑠璃に手紙を渡した。


「領主がここに来るわ。読んでおいて。方針を考えなきゃ」

「畏まりました」

「それから、ホノライとノハヤを呼んで来て」


 感動で泣くほど喜んでいたお風呂初日から可哀そうだが、兎に角時間がない。領主がどの様な人物か聞いておかなくてはならない。

 

(と、その前にこれどうしよう)


 目の前にはヨモギの涎と土まみれの伝書鳥が横たわっている。


(一応綺麗にしておくか)


 捕虜同様、大雑把にお風呂に入れて乾かし、巨大な鳥籠を準備して放り込む。森から小さめの木を一本呼び寄せ、私の身長で鑑賞出来るギリギリの高さに枝を生やして吊るす。


(思ったよりかなり綺麗な鳥だな。貴族に売ればお金の心配がなくなるんじゃ……)


 邪まな事を考えたが、直ぐに領主の鳥かもしれないと思い直す。否、十中八九領主、若しくは軍所属の鳥だろう。あれだけ神法師団に慣れていたのだ。


(もしかして捕虜より良い値段で取引出来るかも。にしても本当に綺麗な鳥ね)


 いつの間に目を覚ましたのか、伝書鳥がじっとこちらを見ていた。

 透き通る様な黄緑色の毛並み。何とも言えないその美しさに引き込まれる。色や毛並みだけではない。静かに佇むその荘厳な姿と、大きな緑の目に魅せられる。


「トーコ様、あれは私達と同じものですよ。ですからお気を付けください」

「同じって?」


 気付くと、精霊達も一様に鳥に視線を送っていた。表情は思い思いだが、警戒しているのは明らかだ。

 私の傍でちょろちょろしていた萌黄がきゅっとしがみ付くのを肌で感じていると、紅が空気を読まない感じでホノライ達を連れて来た。


「お待たせ致しました~」

「紅もあの鳥……………………」


 玄関の方からマッチョが二人、紅に急き立てられて必死の形相で走って来る。


(ちょっとおおおぉぉぉぉぉぉ!!!)


 手にした服で辛うじて前を隠してはいるが、髪も身体も濡れたまま。お風呂の途中で呼び出されたのだから当然だろう。勿論裸足でかけて来る。

 下半身に行く視線と死闘を繰り広げる私を他所に、意外にもリアクションの薄いミィ。目を逸らす事もなく……。


(あ、固まってるだけか)


 流石に兵士、この程度の全力疾走で息を切らす事はない。


「お待たせして申し訳ございません」


 全裸で跪く二人。


「何もそんな恰好で走って来なくても」

「!これはお見苦しいところを……」


 少し頬を染めつつ、何故か腰の辺りの布を上半身に当てる二人。


(いやいやいや、下隠しなさいよ)


 一体羞恥心を何処へ置いて来たのだろう。

 目のやり場に困るとはこう言う事を言うのだ。同じ全裸でもミィの下半身にそれ程興味はない。女としてかねてからコンプレックスであった胸には興味がいくし、揉みたいなと思う事はしばしばあるが。

 やはり欲求不満なのだろうか。ちなみにミィは今日、ブランケットをケープの様に肩からかけている。


「貴方達、水も風も神法が使えるでしょうに。走りながら乾かすくらいはしてよ?」


 土の地面を濡れた足で走るのは流石に汚れる。


「申し訳ありません。気が回りませんで…………水?」

「…………紅、貴方どんな誘い方をしたのよ」

「普通です」


 精霊の普通とはいかなるものか。全身全霊で走れとでも言ったのだろうか。脅さなくても、少し神力を多めに言葉に込めるだけで、二人が死に物狂いで走って来る事は容易に想像が付く。

 兎に角濡れたままでは汚れるし風邪をひく。かもしれない。マッチョでも。

 私は神法で二人をソフトに洗い直し、乾かしついでに風に任せて服を着せた。


「水でも乾かせるわよホノライ。水分を抜けばいいんだから。やっぱり貴方達もそう言う使い方はしないのね」

「その様な神法の使い方はした事がございません」

「そう。じゃぁ練習すると良いわ。貴方は風が使えないんでしょ?出来たら便利よ」

「精進致します」

「うん。でも人の身体は水で出来ているから、加減を間違うと干からびて光に還るから気を付けてね」


 一応注意しておく。軽く言っただけなのに、ホノライが動きを止めた。脅した訳ではなかったのだが。


「まぁそれは良いとして、ミィの前で裸は止めなさいね」

「申し訳ありません。以後気を付けます」

「ミィもそろそろちゃんとした服を…………ミィ」


 ハッと我に返るミィ。真っ赤になって俯いている。私が二人を見た感想と言えば驚きと、これは恋愛対象にならないわという冷めた感情だった。この差は何なのだろう。ミィより少々精神年齢が高いとはいえまだ未婚である事には変わりないのだが。羞恥心や乙女心を置いて来たのは私の方かもしれない。

 それにしても私の従者は全裸率が高過ぎる。このままでは領主に可笑しな集団だと思われてしまう。


「ミィ、やっぱり服を作りましょう。神法でもいいけど、簡単なもので良いから直ぐに服を作って着て来なさい」

「はいっ」


 神法と聞いて慌てた為に、ミィが一気に炎に包まれる。ホノライとノハヤが息を呑む。


「紅、調節したげて」

「はい」

「瑠璃、ミィを部屋へ。どうせそれじゃ直ぐに倒れるでしょ。裁縫道具もないし本当に簡単なもので良いから取り敢えず服の形を整えさせて。必要なら手伝ってあげてね。服が出来たら四人分の食事を作って持って来て。一緒にご飯にしましょう」

「畏まりました」


 屋敷の中にある布は三つ。厚手の緑の布もブランケットも普通のタオルも、この温暖な気候で服に適しているとは言い難い。しかしないよりはましだ。羽織ったブランケットの下が裸では露出狂と言われても否定出来ない。

 タオル地の服だって日本にはあったのだし、何とかなる。裁縫道具は何一つないが、神法があればウォーターカッターでもガスバーナーでも裁断は出来る筈だ。


(瑠璃なら水で糸でも針でも作れるだろうしね)


 勿論それを維持するのに困る事はない。蘇芳が家を維持しているくらいなのだから、神力は微々たるものだろう。

 弱火になった炎のドレスを纏いミィと瑠璃が屋敷へ帰って行くのを視界の端に、そう言う使い方をミィが提案するか、瑠璃が許容するか見物だと私は密かに思った。

 

 さて、二人が屋敷へ消えた後、私は漸く本題に入る。


「領主ってどんな人?」


 白亜のテーブルセットを出すと、蘇芳が慣れた手付きで椅子を引いてくれた。丁度合わせて作った白いパラソルの影に腰掛けて、私は少し前方に跪く男性陣を見下ろす。別に跪くのを強要した覚えはない。椅子に座れば少しでも視線が近づくと思ったのだ。きちんと服を着ているのだから次回から跪くのは止めさせよう。外だと服が汚れてしまう。

 顔を上げ、ホノライが答えた。


「領主様は大変お優しい方です。文武両道で神力の器も大きく、民に慕われる良き指導者であり、まだお若いながらも強力な後ろ盾もある、一言で言えば完璧なお方です」

「……………何て不公平な」


 思わず本音が漏れてしまった。

 神は私を荒野に放り出しておきながら、領主に一体何物を与えたのだろうか。


「何か?」

「何でもないわ。それより後ろ盾って?領主って一番偉い……あぁ、王様とか?」

「…………トーコ様?デルファーニアは領制です。王などおりません」

「え?」


 ホノライが言いにくそうに声のトーンを落とす。ノハヤの驚きと、その後の残念そうな視線が痛い。


(やっちゃった?)


 雇用主が自国の常識を知らないなんて、不安以外の何があるんだろう。これは不味い。貴族のホノライはあからさまに表情に出したりしないが、ノハヤの顔はありありと物語っている。

 なんと言えば誤魔化せるのか。少し言い繕ったところで果たして大人の男二人を説き伏せる事が出来るのか。

 私の動揺が伝わっているのだろう。私の腕にくっ付いていた萌黄がスッと前に出て一言。


「トーコ様、光に還すなら直ぐだよ」


 ノハヤが真っ青になって尻もちを付いた。ホノライは跪いたまま俯いたが、その体は微かに震えている。

 今二人が感じているのは恐怖。


(あー折角慣れ始めてたのに……)


 私は恐怖政治を行いたい訳でも独裁者になりたい訳でもない。

 信頼出来る仲間が欲しいだけだ。


「萌黄、止めて」

「でもトーコ様を疑ってるよ?」


 沈黙が落ちる。張り詰めた空気も、刺さる神力も痛い。

 こういう時の萌黄は大概真顔で、小悪魔な仕草も子供らしさも全くない。神力が漏れやすい瞳は爛々と輝き、別の生物である事を自覚させられる。


 そうだ、時期が悪かったのだ。これがヤトーから書物を買った後であったなら、もう少し違ったかもしれない。

 否、それで一時しのぎをしたところで、一緒に生活していれば何れ物事を知らない事は分かってしまうだろう。慣れた後で不信感を抱かれ見限られるより遥かに良かったとするべきだ。


「仕方ないな……」


 私の呟きにもビクッと震えるホノライとノハヤ。


「ミィが戻って来たら、少し私の話をしましょうか」

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