4話「魔王が料理と言えば八つ裂きのことらしい。」
「ああ、そうそう何で俺がわざわざ来てやったかと言うとなお前等三人の班はアルスの班とは違う異魔界に行くことになったっつうのをアイツが言い忘れてな〜、そんで俺が来てやったという訳だ。」
あんな登場しておいてそんなに重要な話ではなかった。というかその話は聞いてるし、アルスが忘れていたのは武芸専門の先生がこの規格外野郎だということだろう。
「まあ、本当は儂がお前等の事を忘れてて今まで異魔界に行ってたんだがな。だから嘘だ。」
いや、白状しちゃったよ!?
というかそんな事なら嘘つかなくても良いんじゃないの?
他の勇者学科の生徒達も我関せずみたいな感じだし…
「そうそう、お前等3人が行くのは、異魔界"レスドエン"魔王ランクC級の奴だ。」
"レスドエン"か、聞いたことないな。ならそこまで大した奴はいなさそうで安心だな。
「相手にとって不足はないな。気を引き締めて戦うとしよう。」
「そうね。気に食わないけどダークの言う通りだわ。」
「いや、お前なんでさっきから俺のことディスってんの?俺、普通の事しか言ってないよね?」
「落ち着いてよ、キモクロ君が気持ち悪いのは仕方ないんだよ。」
「いや、フーリエさんが入ると収集つかなくなるから少し黙っててよ。」
「オヤツは1000ジオまでだぞ。学食にお菓子売ってるかそこで買え。」
なんというかカオスである。会ってまだ半日も経っていない相手に毒舌を吐きまくるフーリエは綺麗といえる顔をそれが台無しにし、ダークは何で非難を浴びているか分からないので本気で考えてるし、それに乗っかる感じでイースは自分の話を無かった事のようにしてる。
一番まともに思えるメギルもこうなってくると分からないな。
「ハア……用事が済んだなら俺はもう帰るぞ。」
友達ごっこしにアーシラト学園に来た訳ではないならな。部屋に帰って装備の確認でもするとしますか。
食器を片付けて寮がある東側に向かう。歩いて約8分程で勇者学科の寮があった。
「ここが、アーシラト学園勇者学科の寮か中々良い感じだな。」
豪華絢爛。という訳ではなく、小さなホテルのような感じであり、落ち着ける雰囲気を醸し出している。聞いた話だと個人部屋で分けられているとの事だ。
他の学科の生徒は2〜3人部屋らしいが勇者学科は特別だということの証明の一つだろう。
それも含めて俺にとっては良いことである。それは事実だ。
なのだが……
「何でお前がここにいる?」
寮に対する感想は俺は口に出していない。出したのはダークなのである。
「何でって勇者学科は全員、寮に入るからに決まってるだろ?」
そういう問題ではないんだが、何で俺が寮に着いたらお前もいるのかという事なんだが。
あの4人と話してたろう?
「アイツ等やたらと俺をディスってくるから放っておいた。」
ああ、なんと言うか少し気持ちが分かるから何も言えねえ……
そんなこんなでダークに付きまとわれつつ、寮の中を見学することになった。
どうやら勇者学科の生徒は全員この建物に住むらしく、全身をローブで隠していた女らしき家具を空中に浮かしながら歩いていた。
浮遊魔法?それにしては安定しすぎているような気がするな。まるで透明な小人が運んでるような…
そう言えば自己紹介の時に、精霊魔法を使ってた奴があんな格好していたような…
今、色々聞いておこうかな。精霊魔法は扱えるのがエルフの中でも一握りらしいから書物でも全然説明されていない魔法の一つだし、俺も良く知らないからな。
そう思い階段を上がろうとすると、後ろから背中を叩かれた。
「ガハハハ!!ガキ共、男子寮は2階じゃ、女子寮は3階だから用事がないなら入るんじゃねぇぞ。」
振り向くとディアルの爺がいた。本当に急に出て来るなこの男。魔王候補の俺が気配をまるで感じないとか凄すぎだろ。
しかし、そういう事なら仕方ない。また後日ゆっくり聞くとしよう。
あの女を見て思い出したが、寮で生活する為の荷物を自分の部屋に運ばなければならない。
本来なら入学式の日に部屋に運び込まれるように手筈されている筈だったのだが、ディアルの爺が俺の荷物を渡された。
あれ、何でだ?
「お前さん等の荷物は勝手に運ぶなと親御さんから言われておるからな。そのぐらいの自由は保証してやる。」
卑しく顔をにやけさせながらせせり笑う爺。
どうやら家の親父辺りが色々と気を配ってくれたようだ。
しかし、この爺変に誤解してやがんな。別に自家発電する為の道具とか入ってねえよ。
魔王はそういう事はバレないようにしてんだよ、たぶん。
魔法を使い、浮遊魔法を荷物にかけて部屋まで運んだり、その後に部屋の模様替えをしたり装備を整えたりしていると、日が沈みかけていた。
「飯は学食と寮のどちもでも食えるが、寮は自分で作らないといけないからな。俺は風呂入ってから学食行くぜ。」
俺の部屋で勝手に剣を研いでいたダークが部屋から出る際に俺に話しかけてきた。
何でか知らんが好かれてしまったらしく、ずっと付きまとわれている。鬱陶しくて堪らない。
「俺は寮で食う。風呂入ってから適当に飯でも作るからお前は学食で食ってろ。」
「お前、料理とかできんの?凄えな。俺も食っていいか?」
何とも図々しい野郎だ。何故に魔王の俺が他人に飯を食わせねばならんのだ。
「あ、やっぱりいいわ。ラーメンとかいうのが食堂にあるらしくてな。それ食いたいからまた今度な。」
その言葉を言い終わるやいなやドタバタと自分の部屋に帰って行った。
「廊下は走るんじゃねえ、クソガキ!!」
「痛てぇ!!」
ディアルの爺のデカイ怒鳴り声と共に大きな音が聞こえた。
スルーしておこう…
風呂から上がり、武器の手入れを確認し終えて1階の食堂に降りる。
明かりがなく、真っ暗であったが魔法を使い全体を照らすとそこには充実した厨房があった。
「調理器具は中々充実しているな。」
丁寧に使われている調理器具を見るとここを使う人間達はここを大切にしているらしい。
食材倉庫を見ると魔法陣が描かれており魔力を込めると発動するしようになっていた。
「食材は学食とリンクしてあるのか、中々太っ腹だな。」
リンクの魔術を使っているらしく、魔力を込めるとたくさんの食材が現れた。
その中から適当に材料を取り出すと調理を始める。
薄く切ったタマネギをバターとオリーブの実の油で炒めて水とコンソメと塩を入れてコトコトと煮る。
保冷の魔法がされてあったコメに数滴の油を馴染ませて、オリーブの実の油を多めに敷き、そのまま中華鍋を温める。
ざっくり切ったガーリックとネギを入れ香り立たせて、エビやホタテを炒め、味覇を入れて混ぜた卵を入れてから数秒経って米を入れて炒める。
海鮮炒飯の出来上がりっと。
今日は来て初日で色々疲れたので簡単料理にした。
ラーメンと言われて炒飯を食いたくなり作ったというのもあるが。
本来なら中華スープにしたかったとこだが、気分はコンソメだったのでタマネギのコンソメスープにした結果、良い感じでできていた。
自分の作りたい物を作りたい時に作って食べられるのが寮で飯を食べる時のメリットなのだろう。
魔王候補なのに料理作れるとかよく笑われたなぁ〜
別に料理にこだわりがあるという訳でもなく俺の住んでいた世界の関係上、ある程度は自分で作らないといけなかったからという理由があったからだ。
レタスを洗ってちぎり、ドレッシングを作ってサラダにする。
食べる前に魔法を使い、調理器具を片付けて部屋に料理を運ぶ。
もしかしたら上の学年が使うかもしれないし、他の奴と和気藹々と食べるのは嫌いではないが今日は1人でゆっくり食べたい気分なのだ。
魔王とバレなきゃ問題ないだろうし、バレたところで辞めるだけだしな。
「うん、美味しい。」
炒飯はガーリックが効いていて食欲をそそり、エビとホタテの風味は海を感じさせる。
スープはまあ簡単に作った割にはよくできている。コンソメとタマネギの味を生かしてあり、塩味も丁度良い。
サラダはうん、サラダだ。ドレッシングで美味いとだけ言っておこう。
味見みもしたし確かに美味いが、そういう問題ではない。
「いや、お前もかメギル。」
「え?お前もってどういうこと?」
てか部屋が隣だからって勝手に部屋に入ってきて喰ってんじゃねえよ。
「え?これボクに作ってくれたんじゃないの?一人分の量じゃなかったからてっきりそうだと思ったのに、何かゴメンね。」
人に作った訳じゃねえよ。まあ褒めてもらう事はあまり嫌いではないが…
それでも部屋に勝手に入ってくんな。
「もうちょっと味覇を少なくして鍋の振りをもう4回振るべき。オリーブ油を使ったのは面白い。」
むしゃむしゃという音が聞こえてくると一緒にその言葉が聞こえた。そして大量に作ったはずの炒飯が俺の皿に乗っているだけの量しかなくなっていたのだ。
その言葉の主の方を見ると容姿は白いショートの髪の毛に相対的な真黒な瞳、身長は小柄で、大きな胸の膨らみのある食堂で見たことがある人物である。というか昼飯死ぬ程肉食ってた奴じゃねえか!?
もう俺の分しか残ってねえし!?
「キミ、なかなかの腕だね。私は焼飯はゴマ油かラードで作った方が好み。」
知るかよ!
本当に舐めてんのか?俺は額に筋を立てながらピクピクさせる。
「お前の好みは聞いていないが?というか人の飯を勝手に食うな。」
「それは仕方ないこと。」
魔王の俺の飯を勝手に食うとはいい度胸してやがるな。
「ワタシはリエル、食の探求者。」
いやいや、色々おかしいだろ。
しかもお前"剣銃のリエル"だろ?
"剣銃のリエル"と"双剣のメギル"と言えば、勇者ではないのに魔王を倒した事で共通世界でも有名な人物だ。
それが勇者学科に入ったので入学式の時に騒がれていたりもしたので覚えている。
確かに噂ではリエルは牛乳を飲んで飯を食べると聞いてはいたが…
というか炒飯と牛乳って合わないだろう。
「ふう、卵を使う料理やお肉を使う料理に全てに牛乳は合う。これは自然の摂理。」
口元に白い髭生やして堂々と言うセリフではねえよ。
リエルは口元を拭く為に自身が持っていたハンカチを使おうと動くと一瞬だけ大きなはずの胸の片方がヘソの位置までズレた。
ああ、やっぱりか。
瞬きしている間に元に戻っていたから錯覚だということにしといてやろう。
キョロキョロと俺とメギルを見るリエル。俺達は目を逸らして飯を食べる。ホッとしたのか息を吐くとまたご飯を食べだした。
なんか怒りも冷めてきたわ……
「リエルとメギルは知り合いなのか?一緒にいるという事は。」
飯も食べ終えて雑談となり疑問に思っていた事を口に出す。
「二つ名持ちで勇者じゃないのに魔王を倒している相手だからね。知らない方がおかしいよ。」
「メギルはお魚だと思っていたけど人間だったから印象に残っている。」
それはメバルだろ。コイツは唯の食いしん坊だな。
「んだよ。オヤツは1人1000ジオまでだろ?メロンパンはフルーツだからいいじゃねえか。」
「メロンパンはフルーツには入らないわよ。というかお菓子パンってお菓子なのかしら?」
学食帰りのダークと何故かイースが一緒に俺の部屋に入ってきた。
テメェ等も人の部屋に入ってくるなや。
「あっ、ルシアン。メロンパンってフルーツだよな?」
「メロンパンはメロンパンだろ。」
「メロンパンはその名の通りメロンの形をしている。しかし、ほとんどは本物のメロンを使用していない。だからメロンパンはフルーツではない。」
「あれ?でもメロン果汁を使ってるメロンパンもあるわよね?それはフルーツに入っちゃうの?」
「いや、メロンパンは加工してるからお菓子でしょ。ジャガイモだって薄く切って揚げたらお菓子になるんだし。」
だああ!!
メロンパン、メロンパンうるせえよ!!
何でかよく分からないこういう話で盛りあがる辺り、まだ20歳を超えていない奴等が多いことがよく分かる。
話がヒートアップして行く中リエルは俺の肩を叩いた。
「何だ?」
「あなたはセンスがある。だから私のお弁当とデザート作ってもいいよ?」
……とりあえず、コイツの偽乳の虚乳をぶっ壊してやろう。
明日の遠足の不安がメントスガイザーのように急速に上昇して行ったのは言うまでもない。