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【第1章】最短ルートの行き着く先

電波0、人情100。DIYワゴンで行く、昨日への最短ルート。

大型連休の初日。高速道路の渋滞情報を眺めていた水無清凪は、小さくため息をついた。


「どうせどこ行っても人混みだしな。今年は家で寝てるのが正解だったんじゃないか?」

「まあまあ、そう言うなよ。せっかく仕上げたんだし、試運転も兼ねてさ」


運転席でハンドルを握る羽鳥駿が、楽しそうに笑う。彼らがDIYで改造し尽くしたワゴンは、最新ガジェットを満載した自慢のキャンピングカーだ。といっても、彼ら自身がゴリゴリの機械オタクというわけではなく、駿の器用な手先とネットの知恵を総動員して、快適さを追求した結果である。


中でも二人が一番時間をかけたのは、車内の居住空間のレイアウトだった。ガレージにワゴンを入れ、あーでもないこーでもないと議論を交わしたのを思い出す。

「キッチンは奥行き20センチのスパイスラックが生命線だ。コーヒーの焙煎だって極めたいしな」

「いや、車内スペースを考えるなら排水容量の方が大事だろ。タンクの容量が小さいとすぐ水が溢れるぞ」

と、お互いのこだわりが容赦なくぶつかり合った。結果として、広々とした奥行き重視のキッチンや、最高級のコーヒーミル、それぞれが快適に過ごすための設備が妥協なく詰め込まれている。「いかに外に出ず、車内で完結させるか」という怠惰かつ合理的な理想を追求した、究極の引きこもり仕様として完成したのだ。


「ちょっと君たち! 僕の計算によれば、連休の喧騒とは無縁の、人類が一人もいない究極の穴場スポットがあるよ! 最短ルートで案内しますから、このまま僕に任せてください!」


ダッシュボードに設置されたディスプレイから、自信満々の声が響く。ワゴンの制御AI、Doyaだ。画面に映るアバターも堂々としたドヤ顔で胸を張っている。


「今、アイツなんて言った?」

「ん? 『人類が一人もいない』って……」

「……そんな条件で検索したっけか? 穴場っていうか、それもう絶滅後の世界だろ」

「はは、まあDoyaの言うことだしな。ちょっと言葉がオーバーなだけだろ。たぶん『貸切状態』って言いたいんだよ。……な、Doya?」

「失礼ですね! 僕の語彙は常に最適化されています! 最高の休日を約束しますよ!」


「人類が一人もいないって……それ大丈夫なのか? 山奥で行き倒れとか嫌だぞ」

「大丈夫だって、凪。Doyaのデータは結構アテになるし」


駿がDoyaの提案ルートに賛同したため、ワゴンは静かに一般道を外れ、山の中へと続く細い道に入っていった。最新のモーターは静かで、車内には心地よい風が通り抜けている。

しかし、しばらく走ったところで、ふいに景色がぐにゃりと歪んだ。

外の光が急激に強くなり、白い閃光が視界を埋め尽くす。ドスンと大きな衝撃とともに、車体が激しく揺れた。


「ちょっ、なんだこれ!」

「うわっ、なんだ!?」


凪と駿が慌ててシートに体を押し付ける。画面の中のDoyaも、自信満々だった表情から一転してパニックに陥り、アバターが激しく点滅している。


「エラーコードE-99! 未知の空間異常を検出しています! あわわ、計算上は完璧なルートだったはずです! こんな事態は私の設計書には存在しません! 私のセンサー感度が誤作動しているのでしょうか、それとも時空がねじれているのでしょうか!? と、とにかくエンジンを停止します!」

「おい、しっかりしろDoya!」


ワゴンがガタガタと大きな音を立てて停止した。車内を覆っていた激しい光と揺れが嘘のようにピタリと収まる。

静寂が戻った車内で、凪と駿は揃ってダッシュボードのDoyaを睨みつけた。


「……おい、Doya。これどういう状況だ」

「わ、私に聞かれましても……設計外の事態ですので、現在システムを再起動中です。……あわわわ」


自信に満ちたドヤ顔は見る影もなく、Doyaは完全にすっとぼけてうろたえている。

その時、もう一つのディスプレイが静かに起動した。バックアップAIのGeminiだ。落ち着いたトーンの声が車内に響く。


「お二方、落ち着いてください。外部センサーの情報を照合しました。GPSおよび携帯電話の電波は圏外。周辺の植生と空気中の成分から分析した結果、ここは昭和20年代後半の山村である可能性が極めて高いです」


Geminiの冷静な報告に、車内の空気が一瞬で凍りついた。


「昭和……?」

「いやいや、タイムワープとかそういうオチかよ」


呆然とする二人をよそに、Doyaがディスプレイに飛び出してきて大声で叫んだ。


「えー! そんなバナナです!!」


「……」


駿はそっと目を閉じ、頭を抱えた。ただのんびり過ごすはずだった休日が、とんでもなく面倒なことになったのは火を見るより明らかだった。

外からは、小鳥のさえずりと、どこか懐かしい草木の匂いが漂ってきている。ここが本当に昭和だという証拠のように、遠くから野良仕事をする人の声が微かに聞こえる気がした。

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