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原爆と竹槍  作者: サイシ
79/93

原爆と竹槍79話

 助けることも出来ず、恐怖の目で見る雪の前で、戦闘機は、綾を撃ち殺した時と同じように、老夫婦を追い回す。

 何をしても無駄と分かっていたが、何かをせずには居られない雪は、自分に注意を向けさせようと、石を投げたり、大きな松の幹を叩いたりした。

 だが、戦闘機は見向きもせず、老夫婦が恐怖に怯える様を楽しみながら、尚を追い回していた。

 やがて、老夫婦は、逃げ切れないと悟ったのか、同じ死ぬなら、愛する娘が殺された所で、死にたいと思ったのか、海水を掻き分けるように歩き、綾が殺された所へ行くと、互いに抱き合って動かなくなった。

 戦闘機は、老夫婦の心情などしらぬげに、正確に狙い撃ちした。

 銃撃と同時に、雪は目を閉じた。

 老夫婦は、抱き合ったまま、有明海に倒れ込むようにして沈んでいった。

 戦闘機の飛行音が消えてから、雪は有明海を見たが、老夫婦の姿はなかった。

 またも、戦闘機は有明海を血に染めたのだ。

「私に関ったばかりに、山田さんが殺された」

 雪は泣き崩れた。

 それを見た鈴子も泣き出した。

「山田さんの悲しい最後を誰かに伝えなくては、あまりにも山田さんがお気の毒」

 そう呟いた雪は、後戻りし、老夫婦の家に一番近い家に行って、仔細を伝え、元の場所に戻ってきた。

 雪は、老夫婦が殺された場所に向かって、何度も、ご免なさいと謝り、泣きながら、長崎への道を歩いた。

 老夫婦の死は雪のせいではない。

 雪に会わなくても、老夫婦は、あの場所で何時間もいるために、戦闘機に射殺されているだろう。

 例えそのことを雪が知ったとしても、雪の悲しみは変わらなかっただろう。

 だが、幾ら悲しくても、雪が此処に留まることは出来ないのだ。

 鈴子の手を引いて歩く雪の目から涙が絶えることは無かった。

「かあさん、鈴子、もう、歩けない」

 鈴子は、崩れるように倒れた、

「鈴子!」

 驚いた雪は、鈴子を抱き上げた。

「どこか痛むの?」

「痛くはないけど、歩けないの」

 鈴子は、母親を悲しめまいと、痛いが痛くないと言った。

「じゃあ、母さんの背中に乗りなさい」

 雪が背を向けると、鈴子が力なく乗った。

「父さんや、お婆ちゃんがいる鈴子や私の家まで、おんぶしてあげるから、苦しくても我慢してね」

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