表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
原爆と竹槍  作者: サイシ
26/93

原爆と竹槍26話

「よく、知っているよ」

「それは良かったです。この子の家は米軍機の空襲に遭い、母親は即死し、この子はこの通りの大けがをしました」

 雪が説明すると、老婆が恐そうに尋ねた。

「何時?」

「一時間ほど前だと思います」

「なんて、酷いことを!」

 老婆の眼から涙が溢れた。

「お婆さん」

 雪は、老婆の耳元に顔を寄せて呼んだ。

「はい、何でしょう?」

「お願いがあります」

「何でしょうか?」

 老婆が神妙な顔をして、雪の言葉を待った。

「お願いとは、静子さんは頼る人がいなくなって、私がお世話できればいいのですが、これから広島へ行かねばなりません。お願いとは、お婆さんに、静子さんの面倒を見て頂きたいと思っているのです」

 老婆の顔が悲しみから安堵に変わった。

「私は一人暮らしだから、喜んで、静子さんの面倒を見させて頂きます。どうか、心配せずに、広島へとやらへ行ってくだださい」

「有り難うございます。じゃあ、失礼します」

「もう、行くのですか、一日ぐらい、泊まって行ってください」

 と、塔婆が淋しそうに言った。

 一人暮らしで淋しい思いをしていた老婆の心情を考えると、負けそうになるが、生死の境を彷徨っているかもしれない母親のことをおもうと、一分一秒の遅れも許されない。

「そうしたいのですが、広島に居る母親が米軍機に撃たれ大怪我をしているのです。行くのが遅れたら、母親に会えなくなる恐れがあるのです」

 老婆は、沈痛な面持ちで言った。

「それはたいへんね。無理を言ってすまなかったね。後のことは心配せずに早く行ってください」

 老婆は、取ったばかりのトマトと茄子を雪に渡した。

 老婆の優しさに雪は涙を流した。

 静子は、雪がいなくなることを知り、雪の手を離さない。

「静子さん、私は一時も早く広島へ行かなくてはならないの。だから、淋しいでしょうけど、別れなければならないのよ。だから、このお婆さんと仲良く暮らしてね」

 雪は、静子を優しく抱きしめて言った。

「そうだよ。おばさんに無理を言ってはだめよ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ランキング参加しました。ポチとクリックお願いします。 いつもランキング応援ありがとうございます。 人気ブログランキングへ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ