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第1話:楽隠居のための、最初で最後のわがまま

「お父様! リリアーナ、冒険者ギルドが作りたいの!」


 私のその一言に、執務室は静まり返った。公爵である父は困惑の表情を浮かべ、補佐役の男性が慌てて口を開く。


「リリアーナお嬢様、冒険者ギルドとは……荒くれ――冒険者が集う場所でございます。公爵家のご息女が安易に口にするものでは……」


 補佐役の言葉を遮るように、私は両手を腰に当ててぷいとそっぽを向いた。


「だって、お友達がほしいんだもん! お父様、ダメ?」


 父は娘の無邪気な一言に目を細め、補佐役を制して優しい声で言った。


「ああ、いいとも。可愛い娘のわがままだ。小さなギルドなら、おもちゃ代わりだと思って作ってあげようじゃないか」


「本当!? お父様、大好き!」


「だ、旦那様、大丈夫なんですか?」


「なぁに、娘が見分を広めるためだと考えれば悪い事ばかりでもなかろう」


 そんな風に言う寛大なお父様に感謝しながら、私――リリアーナ・グロリアス、5歳がこの世界に来てからの事を思い返した。



 私がこの世界に、前世の記憶を持って転生してから五年が経った。


 前世で私は、RPGゲーム『エターナル・ファンタジー・クロニクル』の廃人プレイヤーだった。そして、この世界は、そのゲームと酷似している。


 当初、私はとても楽観的だった。公爵令嬢として何不自由ない生活を送れるのだから、将来はゲーム知識を駆使して、安全な場所で悠々自適なスローライフを送ろうと考えていた。


 しかし、その目論見はすぐに崩れ去った。


 ある日、騎士団の演習場で耳にした兵士たちの会話が、私の認識を根底から覆したのだ。


「今回の模擬戦もきつかったな。ゴブリン一体を仕留めるのに、こんなにも消耗するとは……」


「仕方ないさ。ゴブリンは動きがトリッキーだからな。しかも今回は、隊長の指示がお粗末だったしなぁ」


 私は思わず騎士たちを二度見した。ゴブリン? ゲームのレベル5でも一撃で倒せる、ただの雑魚モンスターだったはずでは?


 さらに話を聞くと、兵士たちはゴブリンを倒すために、本来ならもっと上位のモンスター相手に使うような大技を繰り出したらしい。


 私は愕然とした。ゲームの終盤に現れる魔王軍は、ゴブリンとはステータス上でそれこそ1000倍以上も差があるのにだ。


 その後、メイドや執事、使用人たちに、さりげなく質問をしてみた。


「ねぇ、モンスターってすごく強いのかしら?」


「はい、お嬢様。熟練の冒険者パーティーでも、運が悪ければ低級と呼ばれるモンスター相手でも不覚を取ることもございます」


「じゃあ、この国で一番強い魔法使いはどれくらいのことができるの?」


「この国いちばんは分かりませんが、学院を首席で卒業される方は拳よりも大きな火の玉を自在に放てるそうですよ! 信じられませんよね」


 確かに、信じられない。


 この世界の人間は、ゲームの中盤にも差し掛からないレベルで生きている。このままでは、数年後に迫る魔王軍の侵攻に耐えられないだろう。


「このままだと、楽隠居どころか、世界が滅ぶ……!」


 私は強い危機感を抱いた。こうなったら、自ら動くしかない。


 この世界を救う――のは大変そうだから、他の人に救ってもらって、そしてその先で本当の楽隠居を掴んでみせる。


 そのための第一歩が、冒険者ギルドの立ち上げだ。


「お父様、冒険者ギルドがほしいの!」


 無邪気な子供のふりをして、私は最強の戦力を集めることを決意した。誰も私の真意に気づくことはないだろう。だがそれでいい。これは、私が悠々自適なスローライフを送るための、最初で最後のわがままなのだから。

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