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新婚初夜に「君を愛することはない」と告げた妻は、年下夫に溺愛される




「――君を愛することはない」


 初夜の寝室で、そんな言葉が告げられた。

 結婚したばかりの夫婦の間で交わされるような言葉ではなかった。

 けれど巷では最近、政略や見合いなど意に沿わない結婚をすることとなった夫婦の間で、夫が妻へそんな言葉を告げて突き放すという、愛のない結婚生活がよく聞かれた。

 今宵も、愛することはないと突き放された新妻は心を痛め、幸せになるはずだった夜に涙を零す――。


「……はい?」


 ――のではなく、野太い声を零した。

 寝室の広いベッドの上に座るのは、寝衣越しでも分かるほどに鍛えられた逞しい二の腕や胸筋を持ち、金色の髪を短く切り揃え、凛々しい太い眉を困惑の形に歪めた――どこからどう見ても男だ。

 今宵の新婚夫婦が、巷でよく聞かれる出来事と少し異なっていたのは、告げたのが妻で、告げられた側が夫ということだった。


「納得してくれて助かるわ。ありがとう、オリバー」


 つい今しがた「君を愛することはない」と告げた張本人であるベアトリスは、安堵した様子で笑顔を浮かべた。

 だが、ベアトリスと向かい合って座っている青年オリバーは、瞬時に首を横に振った。


「今の「はい」は納得ではありません。その前に団長、ひとまず上着を羽織ってください。その恰好は目の毒……いえ、体を冷やします」

「ん? 悪いわね」


 ベアトリスの姿を見たオリバーは、少し気まずそうに青い目を泳がすと、ベッドから降りてガウンを取りに行った。

 そこまで煽情的な寝衣というわけではないが、日中よりは非常に薄着の格好だ。

 ベアトリスの普段は結っている長い赤髪も、今は緩やかに肩を滑り落ちている。

 ガウンを手に戻ってきたオリバーは、すぐさまベアトリスに着けさせると、丁寧に腰紐まで結んだ。


「あの、団長……今言った「君を愛することはない」というのは、どういう意味ですか……?」


 再びベッドの上で向かい合って座りながら、オリバーは言葉の真意を尋ねた。

 オリバーが団長と呼んだとおり、二人は元々――というより今もだが、第五騎士団長と若手騎士という関係だ。

 ちなみに団長がベアトリスの方で、若手騎士がオリバーだ。

 しかし今は仕事中ではなく、今日結婚したばかりの新婚夫婦であり、今宵は初夜でもある。

 それなのに結婚早々突然あんなことを言われたオリバーは、困惑を隠せなかった。

 巷では、新婚早々に「君を愛することはない」と告げて愛のない結婚を送る夫婦がいると聞いていたが、まさか自分がそうなるなど予想もしていなかった。

 そんなオリバーの逞しく盛り上がった肩に、ベアトリスの手が触れる。


「オリバー。君には本当に感謝しているわ。上から突然結婚するよう命じられて困っていたとき、君が結婚を申し出てくれて本当に嬉しかった」

「俺にはもったいない言葉です。……それで、先ほどの言葉とは一体どういう関係が……?」


 オリバーは自分の肩に触れるベアトリスの手に、おずおずと自分の手を重ねた。

 騎士団長ということもあり、女性の手としては固く傷も多い。

 それでも、オリバーの手よりとても小さな手だ。

 だが今はそんなことよりも、ベアトリスに告げられた言葉の意味が気になった。


「ええ、あれはひと月前のことだったわ……」


 ひと月前へとベアトリスは記憶を遡る。

 ベアトリスは騎士団でも古株の女性騎士であり、ここ数年ベアトリスに憧れて騎士を目指す女性が増えた。

 女性騎士が増えたおかげで、女性王族の警護など、同性でなければならない場面でも対応しやすくなり、騎士団にとっても非常に良い変化だった。

 しかし、女性騎士が増えたことで、ひとつの問題が発生した。


「女性騎士が誰も結婚していないからといって、騎士団が結婚を禁じているなどという噂が流れていたなんて……なぜそんなことになったのかしら」


 ベアトリスがため息交じりに呟く。

 女性騎士の人数は増えたが、全員未婚だった。

 すると、騎士団が女性騎士を結婚させないようにしているという、事実無根な噂が広まってしまった。

 もちろん騎士団がそんな制限などするはずがない。

 むしろ、女性騎士が増えたことで、元々出会いの少なかった男性騎士たちとの交流ができれば良いとさえ目論んでいたのに、当の女性騎士たちが乗り気でなかった。

 女性騎士たち曰く、ベアトリスが素敵すぎるために男性騎士が霞むらしい。

 ベアトリスは女性たちの憧れの的であり、顔立ちから立ち姿まで凛とした美しさがあるので、髪色にちなんで騎士団の赤い薔薇とまで呼ばれるほど人気がある。

 女性騎士たちが未婚の理由を知った騎士団の上層部は、ベアトリスに早く結婚するよう命じた。

 ベアトリスが結婚すれば他の女性騎士たちの熱も収まるだろうし、つられて結婚が相次ぐかもしれないと期待して。

 ベアトリスは私生活にまで口出しするのは横暴だと抗議したかったが、自分より年上で勤続年数の長い上層部に反論することはできなかった。

 騎士団は縦社会だ。

 そんな理由で、ベアトリスは急きょ婚活をすることになった。

 それがひと月前のことだった。


「そんなときにオリバー、君が私に結婚を申し出てくれて、本当に助かったわ。でも安心して。三年白い結婚でいれば離縁できるから、それまで絶対に君を愛することはないと約束するわ」


 ベアトリスは重ねられていたオリバーの手を取って握った。

 力強く握手の形で。

 新婚夫婦の初夜ではあまり見られないであろう握り方だった。


「離縁……?」

「ええ。三年後だと……君は二十四歳になる頃ね。うん、二十四歳ならきっと引く手あまたのはずよ。君が再婚するときには最大限協力することも約束するわ」


 ベアトリスは力強くそう言ったが、オリバーの表情は困惑したままだ。


「団長は、離縁する前提で結婚したんですか……?」

「そうではなくて、突然必要に迫られて結婚することになっただけだから、夫となってくれた人を一生縛るつもりはないだけよ」


 ベアトリスに恋人でもいればこれを機に結婚しただろうが、そうではないので急きょ相手を探す必要性が出た。

 こちらの事情に巻き込むことになるため、相手の自由を奪う真似は決してしないと、ベアトリスは最初に決めていた。

 醜聞となるほどあちらこちらで恋愛をされるのは困るが、相思相愛で結婚したわけではないので恋人を作っても良いし、もしもその相手と結婚したくなれば三年も待たずにベアトリス有責で離縁しても良いと考え、そのためにも白い結婚は必須だった。

 政略結婚の多い貴族の間では、結婚はあくまで家のためという考え方が強く、良し悪しは別として伴侶以外の恋人を持つことは珍しくない。

 結婚して貰っても私生活まで縛ったりはしないと伝えるベアトリスに、それまで静かに聞いていたオリバーが口を開いた。


「俺は……俺は、ずっと想い続けていた団長と結婚できて嬉しかったのに……!」


 ベッドの上で突然叫んだオリバーに、ベアトリスは目を丸くして驚いた。


「ず、ずっと……?」

「そうです! 俺はこの十三年間、もう一度団長に会いたい一心で騎士団まで追いかけてきました!」

「え……十三年とは……?」


 オリバーの声が寝室に響く。

 若いわりに落ち着いているオリバーが、こんな風に声を上げたことは初めてだったため、ベアトリスは驚きを隠せなかった。

 オリバーは騎士団に入って二年目の騎士だ。

 そのため、知り合ってまだ二年しかたっていないはずだと疑問に思うベアトリスに、オリバーがまっすぐに視線を向けた。


「実は、十三年前に団長と会ったことがあります」

「そうだったの? そんな昔から知っているんなら、言ってくれた良かったのに。でも、一体いつ……」


 ベアトリスは記憶を遡った。

 十三年前といえば、まだ騎士団に入る前のことだ。

 一体いつ会ったのだろうかと考えていると、オリバーが言葉を続けた。


「団長は騎士団に入る以前、貴族令嬢の護衛騎士をしていましたよね」

「あぁ、デビュタントを控えた子爵家の姉妹を護衛していたわ。よく知っているわね」


 ベアトリスは頷いた。

 十年以上も前、まだ女性騎士がほとんどいなかった時代に、とある貴族に雇われて令嬢たちの護衛をしていたことがある。

 当時のベアトリスはまだ十代で、デビュタントを控えた令嬢姉妹とも年が近く、同性の護衛騎士を非常に喜んでくれていたことを懐かしく思い出す。


「その令嬢の家に、従姉妹たちがよく遊びに来ていませんでしたか?」

「そういえば、従姉妹という四姉妹がよく遊びに来ていたわ。令嬢が六人も集まると賑やかすぎて――」

「三姉妹です」


 懐かしそうに思い出すベアトリスに、オリバーが口を挟んだ。


「うん?」

「四姉妹ではなく、三姉妹です」

「え? でも、確か年頃の令嬢三人と、年の離れた妹君の四人だったはず……」

「妹ではなく、弟です」


 そう言ったオリバーに、ベアトリスは首を傾げた。

 もう十年以上前のことなので記憶も朧気だが、雇われていた家の令嬢二人とその従姉妹の四人が集まり、いつも可愛らしいドレスを着て華やかだったことしか思い出せない。


「いいえ、髪にリボンを結んでフリルのドレスを着ていた妹君だったはずよ」

「姉たちの着せ替え人形として、リボンを結ばれドレスを着させられた当時八歳の弟……俺です」


 オリバーが最後に言った言葉に、ベアトリスは口を開けて驚いた。


「君が、あの可愛らしい末の妹君!?」

「……はい」

「いつもお気に入りのクマのぬいぐるみを抱いていて、私にお友達だと紹介してくれたあの内気な子!?」

「……はい、そうです」

「姉君たちと一緒に作ったカップケーキをプレゼントしてくれたあのっ……!?」

「すみません、団長。どうかその辺でご容赦願います」


 ベアトリスが十三年前を思い出して次々と口にすると、オリバーは次第に耳まで赤くして俯いてしまった。

 慌てて口を閉じたベアトリスだが、改めて目の前のオリバーを見ても、あの可愛らしかった末の妹と同一人物とは思えなかった。

 何よりもサイズ感が全く違う。

 記憶の中ではドレスを着ていた小さな女の子が、今目の前では寝衣越しでも分かるほど筋肉質で逞しい姿となっている。


「でも、どうして今まで黙って……」


 初対面ではなかったことを、なぜ今まで黙っていたのかと疑問に思うベアトリスに、オリバーが耳まで赤くしたまま呟いた。


「……言えるわけがないじゃないですか。内気すぎてクマのぬいぐるみしか友達がいなくて、姉たちにドレスを着させられて連れ回されていたなんて」


 それは確かに言いづらいかもと、ベアトリスは納得した。

 今のオリバーは、むしろ本物のクマと闘えそうなくらい逞しい。


「当時、外出した際に盗賊に襲撃されたときのことを覚えていますか? 伯母も一緒に出かけたときのことです」

「あぁ。馬車で街道を通っていたら、刃物を持った盗賊たちが襲ってきたときのことね」

「そうです。あのとき、団長は刃物に恐れることなく盗賊たちに立ち向かい、身を挺して俺たちを守ってくれました」


 その出来事は、ベアトリスも今でもよく覚えている。

 裕福な貴族女性たちの外出を狙った襲撃は昔から多く、その日は他の男性騎士たちと一緒に護衛しながら馬車で出かけていた。

 前方で男性騎士たちが戦い、ベアトリスは夫人や令嬢たちに犯人が近づかないよう守りながら剣を振り、誰一人犠牲になることなく守り抜いた。


「あのとき、俺は男なのにみんなを守るでもなく、一番後ろに庇われているだけでした」

「それは君が幼かったからで、男女は関係ないわ」


 十三年前ならばオリバーはまだ八歳で、守られて当然の幼さだった。

 しかしオリバーは首を横に振った。


「いいえ。内気で引っ込み思案だった性格の自分が恥ずかしくなりました。同時に、勇気ある騎士の姿に憧れを抱きました」


 そう言ったオリバーの顔にもう赤みはなく、まっすぐにベアトリスを見つめた。


「俺はあのとき、団長に心を奪われたんです」


 あまりにもまっすぐな視線に、今度はベアトリスの方が頬に熱を持つ。


「そう言われると、何だか照れるわね」


 ベアトリスは同性から黄色い声をあげられることは多いが、異性からそう言われたことはなかったため、少しこそばゆい気持ちになった。


「それから俺は、食事の量を増やして体力をつけ、剣の練習もして騎士を目指しました」

「なるほど……よく育ったものね」


 ベアトリスは目の前のオリバーを上から下まで見回して、感心したように頷いた。

 どこからどう見ても、ドレスとリボンが似合っていたあの頃の面影はない。

 しいて同じところと言えば、金の髪色くらいだ。

 姉たちの後ろに隠れて恥ずかしそうにしていた小さな女の子と同一人物とは思えなかったが、当事者でなければ知らない襲撃の件を詳しく話していたので、あの末の妹で間違いはないだろうが、やはり面影は全くなかった。


「やっと騎士団に入って、近づけると思っていました。けれど、あなたは団長へと昇格して手の届かない人になってしまい、その上いきなり結婚相手を探しているなんて言い出して……!」


 オリバーは声を振り絞って言った。

 この国の騎士団は、一年目はどの団にも所属せず訓練を受けながら適性のある団を探し、二年目に各団に所属する形式だ。

 もちろんオリバーはベアトリスが率いる第五騎士団を目指して励んでいた。

 しかし配属されることとなったのは、王城内の警備を担当する第二騎士団だった。

 第五騎士団の主な役割は市中の警備だが、オリバーは少々体格が良すぎるために子ども達が泣いてしまうということが原因だった。

 ベアトリスに追いつこうと鍛えた体が仇となってしまい、オリバーは休日前に酒を浴びるように飲んで泣いた。

 しかし、王城内でベアトリスを見かけるたびに挨拶を続けていた甲斐あって、団は違えども顔を覚えて貰い話しをするようにもなった。

 これから徐々に近づこうと思っていたとき、今度はベアトリスが突然結婚すると言い出したため、オリバーは焦った。


「他の男に奪われる前にと玉砕覚悟で求婚したら、あなたはあっさりと了承してくれて、理由は分からなかったけれど俺は嬉しかったのに……まさか偽装結婚のつもりだったなんて……うぅ……っ」

「オ、オリバーっ?」


 オリバーの目にとうとう涙がこみ上げ、それを見たベアトリスはさらに驚いた。

 今年三十歳になるベアトリスだが、これまで結婚してこなかったのは、特に結婚を拒否していたからではない。

 ただ、「自分より強い男」が好みのためだった。

 単純に力だけでいえば、オリバーでもベアトリスに勝てる。

 しかし、ベアトリスが団長という座についているのは、力のみならず剣の腕や戦略などの総合的な強さが理由であり、団長と言う名にふさわしい実力を持っている。

 ベアトリスが女性らしい顔立ちのため、侮って奇襲をかけた男たちが揃いも揃って再起不能なまでに打ちのめされたのは有名な話だ。

 そのときに騎士の上着を肩に羽織って立ち去ったベアトリスの姿が格好良すぎて、巷ではその絵姿が大流行したこともまた有名だった。

 もしもベアトリスに勝てる相手がいるとすれば、第一騎士団から第四騎士団の団長たちだろうが、彼らはみな妻帯者だ。

 そのため、玉砕を覚悟しながら求婚したオリバーだったが、奇跡的に了承して貰えて喜んでいたのに、まさかの理由を知って涙がこみ上がってくるのを止めきれなかった。

 しかし、涙を浮かべているオリバーを見たベアトリスは、懐かしい光景を思い出していた。


「オリバー……君、本当にあのときの子なのね」

「なぜ今、核心に変わるんですか……」


 ベアトリスの目には、内気すぎてちょっとしたことでも涙を浮かべていたあの末の妹と、今のオリバーの姿が初めて重なったて見えた。

 ベアトリスは涙を拭くハンカチを探そうとしたけれど持っていなかったため、羽織っているガウンの裾を上げて拭こうとしたが、オリバーに止められた。


「団長は、俺のことが嫌いですか?」

「まさか! 君は誰よりも努力家で真面目だし、礼儀正しくて非常に素晴らしいと思っているわ」


 ベアトリスから見て、オリバーは将来が期待できる騎士だった。

 体格が良すぎて一般女性や子どもたちから泣かれることは気の毒だが、第二騎士団に取られたときは非常に惜しく思ったくらいだ。

 上から結婚するよう命じられたベアトリスだったが、相手は誰でも良かったわけではない。

 実際、ベアトリスが結婚相手を探している話が広まったとき、同期の男性騎士から城の文官や、騎士の仕事で関ったことのある貴族令息たち、果ては過去に再起不能なまでに叩きのめした相手までなぜか求婚してきた。

 そんな中で、ベアトリスはオリバーを選んだ。

 ベアトリスの好みは自分より強い男だったが、強ければ良かったわけではない。

 いくら強くても人を貶めるような性格ではだめだし、真面目で礼儀正しい人柄が好ましく、何よりも誠実であってほしい。

 オリバーは、ベアトリスほどではないが若手騎士の中でも期待されている実力の持ち主であり、真面目で礼儀正しく、急きょ結婚相手を探すことになり困っていたベアトリスに真っ向から求婚してくれた。

 白い結婚を理由に離縁するまでの三年間、オリバーなら一緒に過ごせそうだと想像できたからだ。


「団長に嫌われていなくて安心しました」

「嫌ったりなんてしないわ」


 自分の袖で涙を拭ったオリバーが、まっすぐにベアトリスを見つめる。


「初日に「愛することはない」と言われるとは思っていませんでしたが、こうして話し合えて良かったです」


 涙を浮かべていたせいか、青い瞳がキラキラとしていて綺麗だとベアトリスは感じた。


「なので、正しく夫婦になってください」

「うん?」

「納得してくれて助かります」

「あ、いえ、今のは納得の「うん」ではなくて……って、あれ……?」


 既視感のあるやりとりをしながら、ベアトリスは気づけば柔らかな敷布の上に倒されていた。

 視線を上げれば、先ほどまでよりずっと近い距離で、オリバーの青い瞳に覗き込まれている。


「団長……いえ、二人きりのときはベアトリスと呼んでも良いですか?」


 低い声がベアトリスの名前を呼んだ。

 オリバーは敷布に広がったベアトリスの赤い髪をすくいあげると、そのまま口元まで持ち上げて口づけを落とした。

 ベアトリスは、見上げる顔が見慣れたもののはずなのに、まるで別人のようだと感じた。

 まだ若い騎士ではなく、男だった。


「もし嫌であれば、無理強いはしません。でも、俺はこういった意味であなたのことを慕っています」


 けれど、少し自信のない様子も入り交じり、それを可愛いと感じてしまう。


「えっと……」

「俺のことを、男とは見れませんか?」

「そ、そんなことは……」


 むしろつい今さっき、男なのだと感じてしまった。


「愛しています、ベアトリス」


 すぐ耳元でオリバーの低い声が聞こえて、ベアトリスはもう何も言えずにいた。



 新婚夫婦の夜の帳は降りた――。




オリバー視点の余談に続きます。

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