第527話・ダンジョン制圧フェーズ開始
――――市ヶ谷、地下司令センター。
「まったく冷や汗をかかせてくれる、錠前め。勝てるならサッサと決めんか」
額を汗で濡らした四条陸将が、椅子に脱力したように体重を預けた。
他の幹部自衛官たちも、かなり消耗した様子だった。
今回の戦いは、万全の錠前でやっと勝てるレベル。
下手に横やりを入れれば、逆にそれが邪魔になりかねない。
彼の理解者である四条陸将は、戦いに水を差そうとする連中をずっと押さえていた。
『お互いに肝を冷やされましたね、四条陸将』
スクリーンの一部に、空母『かが』からの通信が映る。
声の主は、同じく防大で教鞭を振るった山口海将補だった。
「アイツは昔から調子に乗ると碌なことにならんからな」
『だが今回も勝った。それが、狂人である彼を自衛隊が飼っている理由でしょう?』
「錠前は単独で国家転覆が可能な男だからな、在野に放つよりも公務員をしてもらった方が良い」
『全くです。では陸将、作戦は次のフェーズに移って良いですかな?』
山口の問いに、四条はうなずくことで肯定。
「連合艦隊は東京湾入り口まで前進!! 作戦第3段階、”ダンジョン上陸”を開始する!!」
その号令と同時に、連合艦隊は30ノットへ加速。
各国の航空母艦から、次々と艦載機が発進して行った。
「コントロールよりライトニング3、発艦を許可する」
「了解、発艦する!」
Z旗を掲げた『かが』から、航空自衛隊のF-35B戦闘機が轟音を立てて発進。
上空の編隊へ合流した。
一方で、隣を航行するロシア海軍所属、重航空巡洋艦『アドミラル・クズネツォフ』も必死に煙突から黒煙を吐いていた。
「おい急げ! 西側に後れを取るんじゃねえ! サッサと発艦許可を出せ!」
「無茶を言うなよパイロットさん、この艦はドックから引っ張り出したばかりなんだ。30ノット出すのに時間が掛かる」
「このオンボロめ!」
数分ほどしてから、ようやくSU-33艦上戦闘機が発進を開始。
編隊へ加わった。
「やぁ、色男たちが勢ぞろいだな」
上空で編隊を組んで待っていたのは、フランス海軍所属のラファールM戦闘機。
こちらも国産原子力空母、『シャルル・ドゴール』を発進させていた。
彼らは蒸気カタパルトを使えるので、既に全機が上がっている。
「はっ、カエル野郎に言われたんじゃ形無しだなぁ」
そう早速煽ったのは、航空母艦『プリンス・オブ・ウェールズ』を発艦したイギリス海軍所属のF-35B戦闘機。
「訂正しよう、ライム野郎共を除いてだ」
「ようし、先にゴングを鳴らしたのはテメーらだ。ロックオンアラートでチビるんじゃねえぞ?」
相変わらず犬猿の仲な2国。
そこへ割り込むように、下方から別の戦闘機が高速で編隊へ入ってきた。
「なんだ喧嘩か? やるなら混ぜてくれよ。UFO相手は退屈だったんだ」
原子力航空母艦『ジョージ・ワシントン改』を発進した、F-35C戦闘機だった。
さらに追いかけるように、数十機の米軍機が編隊を囲んだ。
「やめとけジャック、もうじき”彼女”たちが上がってくる。バカな大人の痴態を可愛いお子様に見せるんじゃねーよ」
編隊長の言葉が無線に響いた時だ。
下方の空母『かが』では、最後の艦載機が発進しようとしていた。
それは、日本が誇る最強の艦載機だった。
「お姉ちゃん、決戦は錠前が勝ったみたい」
「まぁそうなるとは思ってたわ、あの男が負ける姿なんて想像できないもの」
メカメカしい魔導スーツに身を包んだ、執行者テオドール。
並びにベルセリオンだった。
彼女らは『かが』の飛行甲板に立つと、スーツ越しに魔力を放った。
「こちらFA・テオドール! 発艦許可願います!!」
「同じくFA・ベルセリオン! 発艦許可を!!」
『FA・テオドール、ベルセリオン。発艦を許可する』
「よし来たぁ!!」
瞬間、飛行甲板に爆風が吹き荒れた。
足裏のジェットを噴射した2人は、あっという間に音速を超えて飛翔して行った。
甲板の作業員たちが、手を振って少女たちを見送る。
「うお! はええ!!」
「さっきも見たが、相変わらずファンタジーだな」
800キロで巡行する連合航空部隊の先頭に、2人の執行者が躍り出た。
足裏からジェットを噴射し、機械的な翼で姿勢を制御。
異世界美人姉妹が空を飛ぶ、文字通りのファンタジー。
『テオドール! ベルセリオン! 聞こえるかしら?』
「師匠! 聞こえますよ!」
念波で離れた場所にいるエクシリアが、交信を送ってきた。
『錠前がイヴを殺したことで、ダンジョンの機関と制御AIが暴走を開始してる。近づけばそのまま第5エリアに転送されるのは変わらずだけど、防衛線が出現してる!』
「防衛線?」
『宙に浮かぶ島のような砲台よ! でも想定内! アンタたち連合航空隊の任務はその砲台を破壊して、わたしと第1特務小隊、そして第1空挺団を送り込むこと!』
「了解です!」
見れば、遥か先に巨大な積乱雲が浮かんでいた。
あの真下に、ダンジョンがある。
神奈川方面から侵攻するC-2輸送機の援護が、最初の任務だった。
米軍機のパイロットが、無線で喋った。
「色男たち、準備は良いか? こんなに集まれる機会は滅多に無いぞ?」
「異世界美人姉妹も忘れるなよ?」
「全機、東京を開放するぞ!! 天使とダンスだ!!!」
連合航空部隊が突っ込んで行くと同時に、世界中へ電波が発進された。
発信源は、C-2機内の女性自衛官。
「さて、仕事を始めましょう」
四条衿華が、ヘルメットに付いたカメラから配信を開始した。




