第520話・現代最強の自衛官VS史上最強の魔導士③
――――愛知県上空、C-2輸送機内。
編隊を組む5機の国産輸送機C-2の中で、新海透は息を呑んだ。
「マジモンの怪物同士の戦いだな…………、こええよ」
「えぇ、見たところほぼ互角……現状では1佐が少し優勢でしょうか」
宙に浮かぶ魔法陣をスクリーン代わりにして、第1特務小隊の隊員は戦闘を見ていた。
映像を出しているのは、富士山頂で錠前のサポートを終えた執行者エクシリア。
さしもの彼女も、アノマリー同士の戦いを見るのは初めてだった。
「次元防壁による絶対防御を持つ錠前に対して、イヴは『魔装結界』を使うことで対抗しているようね」
この言葉に、反対側へ座る茶髪の少女が挙手。
「はーい、それなんですかー?」
HK416A5を抱えた久里浜の無邪気な問いに、エクシリアは邪険にすることなく答えた。
「簡単に言えば、薄い結界を自身の周囲に纏わせて、相手の結界術を中和する高等技術よ」
「それって難しい技なの?」
「結界術の才能が無いと、有効な出力まで上げることはできないわね。四条衿華は第4エリアでエンデュミオン相手に使ったんじゃない?」
この問いに、四条は困り顔で返した。
「わたしのアレは、ベルさんを眷属にしてるからできた付け焼刃です。今イヴが行っている精度と比べたら大人と幼児の差です」
「錠前1佐の防壁を攻略するほどの出力と精度、そんなに出すのムズイんすか?」
坂本の疑問に、エクシリアは即答した。
「そうね、イヴの魔力総量は直観でわたしの5倍以上。神眼を持ってるから精度もこの場の誰とも比較にならないレベルよ。常人ならフルパワーの錠前に対抗なんてできない」
それもそうだった。
どんな存在であれ、錠前勉という男の前では戦いにすらならないのが普通。
対してイヴは、互角に戦いを展開していた。
その上で、魔力に精通する透は1つの疑問を出した。
「2人とも結界術が得意なら、なんで『魔導封域』を展開しないんだ?」
魔導封域――――
戦闘用の結界術の極地であり、その会得者は数人といない。
効果は絶大で、封域内であれば全ての魔法が先手扱いとなる。
事実上、ずっと俺のターンが可能な空間に相手を閉じ込められるのだ。
「それはわからないわね、展開したら勝負がつくからかしら」
「じゃあ尚更だろ、勝負がつくならサッサと使うのが常道だ。お互い警戒してんのかな……」
久里浜が前のめりになる。
「そもそも、その『魔導封域』ってやつを2人同時に展開したらどうなんの? エクシリアさん」
「…………わからない、記録では封域使い同士の戦いなんて無かった。予想だけど、互いの結界が相殺し合うんじゃないかしら」
「マンガみたいに押し合いが発生して、精度が高い方が勝つ……的な?」
「そうなるかもしれないし、逆に反発し合って崩壊するかもしれない。だとしたら2人がまだ使っていない理由になるけど……」
スクリーンを見たエクシリアは、額に汗をかいていた。
同様に、結界術を使える四条が疑問を出す。
「わたしが使う簡易なものでさえ凄い魔力消費量でした。お互い、魔力の浪費を嫌っているのでは?」
「それは無いわね、錠前勉は魔眼。イヴは神眼。それぞれ特殊な眼を持ってる。あの2人にとっては封域でさえ消費量が自己補完の範疇の可能性が高い」
「肉体の治癒に使う魔力も込みで、ですか?」
「当然ね、そもそも……錠前勉と破壊神イヴの封域がぶつかり合ったら、一体なにが――――」
言葉の途中で、坂本がスクリーンを指差す。
「ねぇ、これ来たんじゃない?」
画面の奥で、錠前とイヴ。
それぞれが、互いに指で印を結んだ。
「「『魔導封域』」」
使った…………!!!!
お互いから発生した結界が、重なるように周囲の空間を広く飲み込んだ。
結果は――――
「お互い動かないぞ!!」
「押し合いが発生してるんだわ!! 互いの魔法が先手を取り合って相殺してる!!」
エクシリアの読みは当たっていた。
錠前とイヴの封域は、互いが先手を取り合って打ち消し合う。
どちらかの封域が崩壊すれば、どちらかの先手攻撃がどちらかに命中し、どちらかが致命傷を負う。
「「ッ…………」」
一見互角に見えたそれは、やがて目に見える形で異変として現れた。
紅と蒼の結界がせめぎ合う中、片方が一瞬だけ揺らいだ。
原因は不明。
そして、それは致命的な一手となった。
――――パリィンッ――――!!!
「ッ」
「フン」
打ち勝ったのは、”蒼い結界”。
その瞬間、錠前勉の首に深い切り傷が生まれ、鮮血を飛び散らせた。




