第514話・吶喊、無人イージス艦隊
空母を含む地球艦隊の前衛には、11隻の艦隊が展開していた。
ステルスを意識した形状に、高性能のフェイズド・アレイ・レーダー、各種VLSや主砲を装備したこれらは、元中国人民解放軍のイージス駆逐艦だった。
先の戦いでアメリカのEMPによって無力化され、解放軍の艦隊は壊滅していた。
だが終戦と同時に損傷が軽微だったもの、あえて攻撃しなかったものを徴収。
破壊された電子機器を修復して、日米が接収していたのだ。
「無人イージス艦隊、敵空中艦隊との距離65キロ! 極超音速対艦ミサイル、発射始め!!」
日本側の遠隔コントロールの下、055型イージス艦を筆頭とした中華神盾艦が攻撃を開始。
VLSから対艦ミサイルを矢継ぎ早に発射しながら、前進を続けていく。
しかし――――
「敵艦隊より高エネルギー反応、迎撃されています」
エンジェル・フリートは、主砲のビーム砲で正確に対艦ミサイルを迎撃。
マッハ5で螺旋機動を行う最新ミサイルが、まるで通じていなかった。
艦隊防空能力で言えば、まや型イージス艦に匹敵するスペック。
これまでの天界のお粗末な戦闘からして、信じられない進化だった。
「山口司令、どう見ますか?」
『かが』艦長の問いに、艦隊司令の山口は顎に手を当てた。
「単純に切り札を出してきたことと、未知の”探知システム”が存在する可能性が高い」
山口は、先の中国戦でデュアルバンド・レーダー搭載機の存在を言い当てた。
今回も、直観ではなく確信があるのだろう。
「ワイバーンからSFじみた空中艦隊への変貌、察するに連中の母星で使ってた兵器と見て良い。エネルギーはダンジョンから供給されていると執行者が話してくれた。となれば――――」
レーダー上で、こちらの撃った対艦ミサイル60発が全て消え去る。
何発かはすり抜けたが、艦隊を覆うバリアに呆気なく防がれた。
「向こうに”索敵・探知”に特化した天使がいて、そいつが艦隊の火器管制を担っているのかな?」
「執行者いわく、魔法も万能ではありません。論理的には可能でも……対艦ミサイルの迎撃なんて、脳が焼き切れてもおかしくないと思いますが?」
「我々が相手しているのはファンタジーだ。こちらの理解や物理法則は通じない。以後の行動は敵にイージス艦相当のスペックがある前提で進める」
「はっ!!」
次いでレーダー画面に動き。
まっすぐ伸びて来た熱源が、1隻の052D型駆逐艦へ命中。
あっという間に蒸発してしまった。
「I-6、被弾しました。反応ロスト」
これで確定した。
敵の主兵装は大口径のビーム砲。
誘導弾と違って、迎撃の手段が無い。
「続いてI-7、I-1の反応ロスト。轟沈です」
この報告に、山口は無線機を取りながら呟く。
「高空にいるのにこっちの主力が狙えないのは、大気圏内だとビームが減衰して射程が不足すると考えて良さそうだ。バリアはその射程を補う盾かな?」
無線機のスイッチを入れる。
「通信手、作戦を次のフェーズに移す。『ジェラルド・R・フォード』に信号を送れ」
◇
一方のエンジェル・フリートは、戦術が完璧に機能していることに満足気だった。
地球軍の攻撃力は上級魔法を上回るが、これなら肉薄まで稼げる。
「さすがコカビエル様だ、あの高速のミサイルを全て探知してしまうとは…………!」
山口の読みは当たっていた。
ウリエルが出力特化、サリエルが偵察特化といったように、天使にはそれぞれ得意がある。
コカビエルは、索敵特化の天使だった。
その探知範囲は上位の大天使すら上回り、事実上イージス艦と非常に近いレーダーを備えていた。
艦隊はコカビエルとリンクし、極超音速対艦誘導弾をアッサリ対処したのだ。
また、彼の魔法の性質上――――対象が遠いほどに探知が行いやすい。
つまり、地球軍が主力とするミサイルがほぼ無効武力と化していたのだ。
「敵艦隊まであと150キロか、その半分ほどまで詰められればこちらの砲の射程だ」
荷電粒子砲は、大気圏内では効果が薄まってしまう。
宇宙空間ならまだしも、地球上では射程でミサイルに劣る。
「だが鉄壁の盾と共に前進すれば、いかに優秀な弓兵と言えど対処不能。驕ったな、地球じ――――」
直後だった。
「駆逐艦戦隊にダメージ!!」
「ッ!?」
ブリッジのガラス越しに、陣形を形成する駆逐艦が見える。
100メートルほどの艦だが、激しく燃え上がっていた。
「魔導砲、各ブロックに延焼中……火が止まらないようです」
言っている最中に、駆逐艦の砲塔が爆発で吹っ飛んだ。
豪炎の嵐が艦を包み、ゆるやかに墜落していく。
コカビエルは、額に汗をかいた。
「パッシブによると……、直上だと!? バリアは――――」
見れば、艦隊を覆うバリアに小さな穴が開いていた。
そしてまた、目の前で穴が1個増える。
「巡洋艦被弾!! 火災発生!!!」
「艦載機を上げろ! 対空戦闘用意!!」
コカビエルは知りようがない。
何が襲ってきているのか、何が起きているのか。
答えは、150キロ先の洋上にあった。
”その艦の主砲――――通常にあらず”。




