第503話・執行者ベルセリオンVS大天使ウリエル
激しい勝負は地上でも行われていた。
石畳の上を高速で駆け抜けるのは、執行者ベルセリオンと大天使ウリエル。
東京湾大空戦で既に戦闘経験のある両者だったが、当時は魔導スーツを着てやっと互角未満。
だがこちらも、決戦前に母親の四条と親戚ポジの秋山が、甘えに甘やかした。
満足するまで撫でてあげ、お菓子やデザートもたくさん食べさせたのだ。
結果――――
「……東京の時よりずいぶん強くなったな、素であの時の魔導スーツ着用時かそれ以上。驚くよ」
「はっ、まだまだこんなもんじゃないわよ!」
両者は切り返し、同時に剣撃を打ち合う。
ベルセリオンのハルバードに対し、ウリエルは残っていた在庫の1級宝具で応戦。
出力で勝る大天使相手に、ベルセリオンは別の手を使う。
「”八界“ ”悠遠“ ”空蝉の影“––––」
「ッ!!」
あえて隙を晒すことを誓約とした、呪文の完全詠唱。
油断したッ。
ハルバードに、数倍以上の魔力が集中したのを見て、ウリエルは瞬時に防御姿勢を取った。
「『空裂破断』!!!!」
「ぬぅっ!!!」
吹っ飛ばされたウリエルは、ビルのエントランスへ突っ込む。
砂塵が舞う中、彼はヒビ割れた鎧を見つつ立ち上がった。
「僅かな隙を見逃さない詠唱、見事だ」
これ以上足止めされれば、宇宙船に自衛隊が到達してしまう。
もしそうなれば、せっかく煮込んでいるスープが鹵獲されかねない。
ウリエルはここで、とうとう本気を出すことにした。
「『高速化魔法』!!」
ウリエルの速度が、数十倍に跳ね上がった。
不意を突かれたベルセリオンは、ギリギリで剣を回避。
しかしそれは罠。
「『攻撃力強化魔法』!!」
剣を手放し、掌底突きを彼女の柔らかい腹部に叩きつけた。
「がっは!!」
たまらず吹っ飛んだベルセリオンは、建物の壁に激突。
血を吐き、崩落した壁と一緒に崩れ落ちる。
倒れた彼女に近づきながら、ウリエルは声を掛けた。
「茶番はいい、どうせとっくに回復したのだろう?」
彼の言葉と同時に、ベルセリオンは瓦礫を押しのけて立ち上がった。
「あのねぇ、いくら治癒魔法が使えても痛いものは痛いわけ。悶える時間くらいくれないかしら?」
「それは失敬、では――――続きだ」
両者の攻防が開始される寸前、ベルセリオンは視線を自衛隊の部隊に向けた。
非常に横やりや援護を入れたそうにしていたが、圧を掛けて止める。
理由は単純。
この戦いは、”ダンジョン運営”として戦った執行者のケジメだから。
今では忘れがちだが、テオドールもベルセリオンも、エクシリアも上級幹部として日本人を殺そうとした。
作戦の直前に、その過去から他国に警戒されていることも知った。
執行者はこの戦いで示す必要があるのだ。
自分たちは友好的な地球人に無害で、共生したいだけなのだと。
そのためにも、自衛隊の援護を受けずに単独で証明しなければならないと、執行者3人は結論付けた。
もちろん透や四条など第1特務小隊、引いては駐屯地の自衛官たちは全否定。
そんなことをしなくても信用すると言った。
だが、
『ここで私たちが過去にケジメをつけなければ、いつかどこかで禍根が残ります。これは移民であるわたし達が、日本にこれから住むための最後の試練なのです』
テオドールの強い言葉に、誰も反論できなかった。
結果、自衛隊は今回の大天使との勝負に介入しないこと、次元エンジン制圧のみに全戦力を向けることを強引に約束させられた。
全員胸中では執行者が重荷を背負うことに反対だったが、本人たちの言う”筋”は通さねばならない。
最終的に、決定の言葉は透が放った。
『わかった……俺たちは絶対に皆を手助けしない。ただし、それはお前らが優勢な内だけだ。もし死にかけるような事態になったら問答無用で介入させてもらうぞ』
ウリエルが再度突っ込んでくる。
薄々わかっていたが、強くなったのは何も自分たちだけではない。
上がり幅こそ執行者よりずっと小さいが、ウリエルも日本食を食べたことにより栄養状態が無意識に改善。
ベルセリオン単独ではかなりキツイ相手だった。
――――ガギィンッ––––!!!
ハルバードと剣が鍔ぜり合う。
こちらは完全詠唱を込めなければ、出力で勝てない。
この先で最悪破壊神イヴとも戦うことを考えれば、ここでの消耗は避けたかった。
防御を突破される寸前、ベルセリオンは不敵に笑う。
「アンタ、何か忘れてるんじゃないかしら?」
「…………何をだ?」
「わたし達は、無料でラーメンの具材と作り方を与えたのよ? アンタ騎士なんでしょ? ”貸り”を返すのを忘れたとは言わせないわよ」
「チッ……! お前、私に勝つことが目的じゃないな?」
全てを察したウリエルは、一旦剣を離した。
「何が目的だ、執行者ベルセリオン。自衛隊が手出しをしてこない事から……お前らは過去の清算代わりに、我々へ勝つことが目標と見えていたが」
「それはあの子……テオドールが掲げた目標、わたしの目的は違う」
「ほう、聞こうじゃないか。言っておくが貸しは1つ、それさえ返せば今度こそ貴様を殺す」
ウリエルの言葉に、ベルセリオンは口元の血を拭いながら返す。
「簡単よ、それはね――――」
ベルセリオンの言葉に、大天使ウリエルは今まで見せたことの無いほど表情を歪ませた。
「私に…………!! そんなふざけた真似をしろと言うのか!!!」
「もし断るなら騎士失格、選びなさい」
「ッ…………!!!!!!!!!!」




