~マンション(共同住宅)の物語 其の1 「安仁屋さんの公園デビュー」
担当者井川の胃潰瘍が軋み、胃のピンホールから熱い血液が漏れ零れるような不快な思いに救急車を呼ぶか呼ばぬか迷っている頃、今や夫も実母も逃亡し、ひとりくらしの安仁屋さんはマンション内での奇行だけはやめようと自分に言い聞かせ、徹していた。
その分、二駅離れた公園に行き、全身全霊を込めた形などどこにもない超フリースタイルの舞踊をしては、鳩を蹴散らしていた。
その公園に長く居つく歯が2本しかないホームレスの老人が、運動と言う名目で、安仁屋さんの狂乱の踊りを真似、笑いながらひょっとこ踊りに興じていた。
そして安仁屋さんは、全ての苦しみや悩みを忘れたいのか、それを聴いた知識人が「ん!サンスクリット語か?」など気取ったことを一言言っていたが、当然そんな洒落たものでは無い。
只々安仁屋さんに振り注ぐ、天からの授かりもの に従って乱舞しているのである。
「あぁああぁぁああぁおろろろろろぅろうぅシャバダバダバダシャバダバダァ…ゲリラっ!」
奇怪なことを口走りながら、鳩を追う。
先月、その公園の近所の幼児たちが、面白がって「あぁぁぁしゃばしゃば、ゲリラ!」と聞こえるままに口走り、最後の「ゲリラ!」だけはハッキリ聞こえるので、その部分だけ、安仁屋さん、ホームレス、幼児が一斉に「ゲリラ!」と叫んでいた。
幼児の親が、それに気づき、進まない全力疾走で子供とその友達を引き離した。
5秒沈黙後、安仁屋さんは再び思う儘踊り始めた。
誰も怖がって公園に行かなくなったが、「基地外が公園を占拠した」と都市伝説が広がり、やんちゃな中学男児が録画しに来た。
「おぉろろろろろろろぅ!パペポピィぷぺぷぺぽろろろろぉ…」と叫び走る様を中学生はYOU TUBEにUPした。
「恐怖!OBHN公園を乗っとる!」
そのようなタイトルで拡散され始めたのであった。




