~マンション(共同住宅)の物語 其の1 「生贄・血祭り」
江川親子により、安仁屋さんの半月の精神科・心療内科での
治療は、まったく無駄になった。
メンヘラばばぁと小学生に言われ、親に録画され、配信され、
安仁屋さんの心は乱れに乱れ、物事の善悪も、もう被害者意識
のみで、すべてが敵に思えて、自衛するしかなくなっていた。
糞餓鬼どもも笑って逃げていたが、安仁屋さんは江川の糞餓鬼
だけに狙いを定め、信じられないスタミナで元気な11歳を
追い詰め走り続けていた。
それは鬼そのもので、生配信している馬鹿親も、自分の馬鹿
息子が追われていることに気づいた。
配信になったまま、息子を救いに敷地共用部中庭に向かった。
「安仁屋、やめなさい!」と叫ぶ馬鹿親。
半泣きになって逃げる糞餓鬼。
マンション4階共用廊下から、70歳になる現在の理事長
張本が、その光景を眺めていた。
張本は、マンション内で騒ぐ子供たちに、よく喝を入れ、
副理事長江川中心に秘密裏に編成された自警団に「理事長
70歳定年制」を提案され、理事長の座を追い落されそう
になっていた。
心の中で「江川の馬鹿息子、捕まれ!」と念じながら
見ていた。
その希望は叶い、馬鹿親の糞餓鬼が安仁屋さんに捕まった。
安仁屋さんには11歳の男児には見えていない。
安仁屋さんは容赦なく糞餓鬼に向かって言った。
「お前は生贄だ!血祭りにしてやるからな!」
生配信は馬鹿親のポケット内の真っ暗な映像で音声だけを
拾っていた。
それは後に、されていた蛮行は残らず、未成年への恐喝
の証拠だけが残るという、ずるがしこい江川に利用される
証拠となってしまう。
捕まった糞餓鬼江川は、両耳を千切れんばかりに広げられ
鼻頭が当たるか当たらないかのドアップの距離で、
血走った目の安仁屋さんに、こう言われた。
「お前は生きて小学校を卒業できない。罰が当たるからな。」
馬鹿親が走って来て、傍まで来たが子供のために体当たり
する気力もなく損得しか頭にない馬鹿親は「やめろ!」と
至近距離で言った。
安仁屋さんは、そんな江川の頬を全力でひっぱたいた。
その瞬間、廊下の塀に身を隠しながら複数の住民が拍手を
した。
中には野太い声で、「親子とも殺してしまえ!」と言う声も。
マンション住民で江川をよく思っていない人は、相当数
いたからである。
安仁屋さんは、たじろぐ江川を追いかけ、近くにあった
植木鉢で殴ろうとしたが、追いかけてきた実母が体当たりで
それを止めた。
江川の馬鹿息子は、小便を漏らし泣いていた。
その姿を見て、同級生や年下の子供たちは、瞬間にイジメの
対象を見つけた。
虎の威を借る江川の息子は、翌日からランドセルを複数持た
される、パシリに成り下がるのであった。
興奮冷めやらぬ安仁屋さんを母親が部屋に戻すとき、理事長
張本は一言「あっぱれ!」と叫んだ。
そして、マンションのいたるところから安仁屋さんの鉄槌に
拍手が起こっていた。
それを聞いた江川の配下にいたママさんたちは江川親子を
おいて部屋に帰っていった。
「過ぎたるは及ばざるがごとし。」
理事長張本は、そう言い残し「チョレイ!」と意味不明な
叫び声とともに部屋に消えていった。




