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~マンション(共同住宅)の物語 其の1 「感謝されない頑張り。」

井川は最悪の朝の中、痛む足を引きずりながら、始業3分前に

汗だくで出社した。


状況も、事情も、考えることなく、ただ時間だけを見て、

「ぎりぎりとは重役出勤だな!もっと早く来いよ!」と、

仕事を一切教えないイジワルか先輩社員が大きな声で言い

放つ。


返答する気力もない井川は「はい。」とだけ回答し、PC

をデスクにおいて、ようやく椅子に座った。


脚の痛みがじんじんしてきた。本来なら病院に行く

レベルの損傷であるが、ヤングチームの発表をするため

抜けられないでいた。


9時の朝礼後、携帯の留守電を再生する。

江川からのヒステリックな「すぐ連絡ください!」を

うんざりした思いで聴きながら、その江川の集合郵便

受けが、安仁屋さんに破壊された事実をもうすぐ江川

は管理員から伝え聞き、直ちに電話してくることだろ

うと思った。


そう思った1分後、金切り声に興奮した江川からの

「安仁屋をマンションから追い出せ!朝のうちに

資料持って来い!」の電話に、井川は心が折れそう

だった。


必死に絞り出すように「江川さん話は良く判りました。

資料のお届けは14時以降になります。ご理解ください。

壊された郵便受けについては理事長に相談して対応方法

考えますから。」と回答した。


しかし江川は、今夜中に謝罪に来させろと騒ぎ立てる。

マンションの保険ではなく、自費で修理させろと息巻く。


井川はうんざりしながらも、「検討しておきます。」と

だけ言い、外出のようがあると言っていつになく強気に

電話を切った。


ヤングチームの発表は、気合が乗る訳も無く、淡々と

プレゼンし、上司からもチーム員からも評価を下げられ

てしまった。パワーポイントは井川がひとり作ったのに

感謝はされず、業務の間に作成したのに褒められもしな

かった。


痛む足は見て判るくらい紫に変色してきた。

しかし、普段30分程度の距離を1時間かけて江川を

訪ねた。が、留守であった。

「くそっ!急ぎでないなら郵送でも、メールでも良かった

じゃないか。何が書面で急いでだ!」と中庭で独りごとを

言った。


壊れた郵便受けを見て、やるせなくなった。


安仁屋さんの郵便受けに、江川からの手紙が入って

居るのが見えた。


「もう勘弁してくれ!」

井川は、もうやってられないと思い、抜け出せない沼に

脚を突っ込んでいるような気持ちになり、どんよりと

淀んでいた。

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