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【更新不定期化】AllFreeOnline~才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します~  作者: 山田 武
偽善者と決意交わる水着イベント 十月目

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偽善者と赤色の紀行 その01



 赤色の世界



 迸る灼熱の液体が、世界の半分以上を占めている世界。

 とても熱く、粘つき、時々溢れ出して放たれる……想像力が豊かな人ならば、ナニを想像するだろうか。


 ──近づいたら普通に死ぬけどな。



「……ふぅ。だいぶ戻ってきた」



 真の賢者モードの理由が分かったので、どうにかいつものテンションに戻せた。

 俺に知的キャラは似合わないし、どちらかというと既に痴的キャラがピッタリだ。


 世の中を偽善だけでやっていけると思っているのなら、それはそれで恥的キャラかもしれないな。



 再び赤色の世界に訪れたことに特に理由はないが、ただ熱い所に好き好んで追いかけて来る眷属はいないんじゃないかと思ってな。


 それに、俺を座標として使う転移は封じてあるから、ここに来るには<次元魔法>を自力で使えなければ駄目だ。


 俺はすでに冷却飲料を飲んでるし、体へ魔力の膜を張っている。

 熱さに関しては、普段からへっちゃらなんだけどな。



「折角なんだし、観光でもしていくか? 前はカグ関連のことですぐに帰ったし」



 もうこの世界の調査は終わっているし、原住民との対話を試みるべきだろう。

 空白地帯を埋めるのは終わっているし、そろそろ始めるべきなんだ。


 ──毎度お馴染み、偽善活動の時間だな。




 現在、空の上を移動中だ。

 龍魔法をベースに生み出したドラゴン(透明化の能力持ち)の背中に乗り、悠々と旅を進めている。



「やっぱり、立ち乗りの方が面白いな!」



 ドラゴンの上で直立している俺だが、なんとも全能感が込み上げてくるんだよ。


 ファンタジーの定番であるドラゴンの背中に乗っているからか?

 それとも、乗り物の上に立って騎乗しているからか?


 どちらにせよ、俺はドラゴンの背中に立っていることには違いないな。

 吹き荒れる暴風は結界魔法で弾いているので、寒いとか吹っ飛ぶという問題はない。



「……ん? この反応はもしや……」



 <八感知覚>で掴めた場所に視界を飛ばしてみると、そこでは揉め事が起きていた。


 魔物が原住民を狙い、襲っているのだ。



「よし……じゃなくて、コノママジャ、魔物ニ殺サレテシマウ。助ケニイカナイト!」



 棒読みでそう言ってから、ドラゴンを魔力へと還元し──その場へ瞬時に移動した。



  ◆   □   ◆   □   ◆



「どうして、どうしてこんなことに!」


 少年は、焦っていた。

 背後から迫る者から逃げるため。


『肉、飯、ウマウマウマ……!』


「く、来るなよー!」


 少年の後ろからは逞しい赤い肌を持つ、少年より少し背の高い魔物が追いかけてくる。


 その魔物はとある場所でホブゴブリンと呼ばれる魔物に酷似しているが……今の少年には、それを考えている余裕はなかった。


 少年の言葉は魔物に、魔物の言葉は少年に伝わらないことだけが唯一の救いだろう。


 自身を明確な餌として追っていることを知れば、少年の逃亡への意志も減少していたと思われる。


「ボクは絶対に、アレを見つけなきゃいけないんだ!」


 少年が魔物に追われてまで求めようとした物がある。


 それは、病に効くとされる薬草であった。


 少年と親しい者がある病に侵され、突然倒れてしまう。

 少年はその者を救うため、近隣の家や近くの場所に薬草が無いかを懸命に捜索した。


 ……だが、その甲斐虚しく、薬草は魔物たちが蔓延る山の上にのみしか生えることの無い物であった。


 少年は必ず救う、そう言い残して薬草を求める冒険に旅立った。


(だから、こんな所でへこたれるわけにはいかないんだ!)


 再び覚悟を決め、少年はホブゴブリンに立ち向かう。

 家から拝借してきた包丁を抜き、震える手で押さえ込んで構える。


 ホブゴブリンには、山に向かう途中で見つかってしまった。


 故に少年はまだ薬草を確保しておらず、このままでは何もできないまま逃げ帰ることになる。


(……嫌だ。もう逃げるのは止めた。例えこの後何が起きようと、僕の命を失おうとも、薬草だけは絶対に届けてみせる!)


「う、ウォォォォォォォォォォ!」


 竦んだ体を大声で無理矢理動かし、ホブゴブリンへと突撃する。

 そのまま殺せれば重畳、そうでなくとも避けてくれればそのまま奥に進める。


 ──そのような、甘い考えであった。


「ォォォォォ──アガッ!」


 少年の咆哮を止めたのは、ホブゴブリンが握り締めていた棍棒であった。


 前に突き出していた包丁もろとも、少年の顔に棍棒は命中し、再び後方へとビリヤードの球のように弾き飛ばされる。


 いくつかの木々にぶつかりながら、長い苦痛に耐えた少年は、どうにか命を繋ぐ。


「…………カホッ」


 カヒュー、カヒューと漏れる息。

 少年は確かに命を取り留めた……が、それ以外が無事とも言っていない。


 内臓をグチャグチャに潰され、木々によって腕や脚もおかしな方向に捩じれており、喉には折れた包丁の欠片が刺さっている。


(……動け、動け動け動け動け動けよ! 頼むから! 薬草を届けれることさえできればどうなっても構わない! だから、今だけは動いてくれよ!)


 無情な世の中が奇跡を起こすはずも無く、少年の眼前にはホブゴブリンが立っていた。


『ソレジャア、早速、頂キマス!』


(うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)


 ホブゴブリンは少年よりも一回りも二回りも太い腕を伸ばし、少年を持ち上げる。


 そして大きな口をガバッと開けて、そのまま少年を口に収めようとした。


 少年が神や悪魔に願うことを止めたその瞬間──誰も救わなかった者を偽善が救った。


「──はい、ちょっとストップで」



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