偽善者と生み出された魔導
注意):読者のマイナス評価が多くなると思われる今話、色々と思われるかもしれませんがブックマークだけはそのままでお願いしたいです。
特殊思考内
誰一人として、形を保ったまま存在することはできない思考の世界。
体感速度を何倍にも速め、刹那を那由他へと引き延ばすその場所で……俺はあることを行っていた。
「(──これで完成だ!)」
《ん、おめでとう》
寝言。
見ている夢が現実に反映し、無意識状態で発する言葉のことである。
一種の反射運動とされるのだが、反射であるためか内容に纏まりがあるわけではない。
……と、寝言に関して本当に細かく語りたいわけではなかった。
──夢についての話がしたかっただけだ。
かつてリアと出会った際、彼女は夢を自由にコントロールしていた。
見たい夢を見て、実際に夢の中で体を動かして体験を行う。
夢の中で自覚を持って行動する……いわゆる明晰夢を見れるのだが、リアはそれにプラスして、感覚まで夢の中で自由にできた。
例えば冷えた飲み物を飲んだなら、飲み物が舌を通る味覚や、冷たいグラスに触れた触覚、それに飲み物自体の嗅覚など……本来夢では感じることの難しい物を、当然のように感じ取れるのだ。
細かい理屈を求めているわけではないし、本題に行くとしよう。
俺は何度か、眷属たちによって魔法使いの資格を奪われかけるという事態に陥った。
感情共有によってアッチの感情は抑えられていたのだが……どうやら、少しずつ蓄積されていったものが、溜まりに溜まって、ということらしい。
メルとして、今までは沈静化に努めてきたのだが、もう眷属たちに我慢を強いることも止めにした。
彼女たちの中で渦巻いていたソレを──ついに取り除く時が来たのだ。
《ん、でも長期的な使用は見込めない。無理矢理な部分が多過ぎた》
「(とりあえず、ってとこだな。一部を除いた現実との完全リンク、普通にやるならもう少し格が欲しいところだ)」
加速させた思考の中で、創り上げたものを思う。
だだっ広い空間に、ポツンと置かれた巨大なベッド。
その大きさの物を地球にある物で例えるならば、オランダにあるとされる世界最大の物と同等の大きさだ。
家四軒分ともされているギネス級のベッドが、その空間には置かれていた。
「(……いちおうあれでいいんだよな?)」
《ん、大きさはこれからも拡張できる。それに、部屋も格が上がれば整えられる》
ま、リープがそういうならそれでいいか。
素人が細かいことを考えるより、何故か詳しいリープに任せた方が安全だろう。
それじゃあ、と俺は眷属を呼びに行く……はずだったんだが──
《ん、ちょっと待って》
「(どうした、リープ?)」
《ん、大切なことを言い忘れた》
「(……大切なこと?)」
存在が不確かなリープだが、それでも真剣な様子がなんとなく思念から伝わってくる。
《ん、貴方は今回、真の意味で夢と現実の境界を無くした》
「(まあ、そうなるみたいだな)」
例えるなら、VRだ。
行ったことは全て仮想現実のことであり、それを止めれば残るのは経験のみ。
五感全てが再現され、受けた痛みすらも感じられるはずなのに、目を醒ませばそんな傷はどこにもない。
──まさに、夢の技術であろう。
まあ、VR内でVRを発明してどうするとも思えるがそこはどうでもいい。
今回やったことにより、夢のような、は現実とイコールになった……らしい。
《ん、だからおめでとうと言った。【怠惰】の人格、わたし『リープ』の活性条件を満たしたことを祝して》
「(おお! そりゃあたしかにめでたいことだったみたいだな)」
《ん、以降は貴方が{多重存在}を使うことで顕現が可能。肉体のイメージはこちらで行う予定》
「(うんうん、それは別に構わないぞ。……それに、あんまり美少女を創れる自信がないからな)」
関係ないが言っておこう。
|{多重存在}によって生まれた存在、彼女たちのイメージはあやふやなものだった。
俺の想像力だけで美少女は生みだせず、外部からの補助によって誕生したのだ。
え、どんな補助かって?
二人が誕生したのはまだ飛ばされる前だったから、ログアウトして画像やイラストを俺好みに合わせて作ったものを覚えてログインして、具現化したんだ。
{多重存在}に登録してたんだし、まあ普通こうなるか。
「(それじゃあ、今度こそこのことを伝えにいくよ)」
《ん、いつか貴方が呼んでくれることを待っている》
「(……本当にヤバい奴からだぞ)」
俺独りが全てを相手取る?
──イく前に逝っちまうだろうが!
故に、俺は数を制限しなければならない。
調子に乗って全員纏めて、なんてことをしたら死ぬのだ。
絶対に後悔はしないようにしなければな。
◆ □ ◆ □ ◆
夢現空間 会議室
「──と、いうわけだ。今まで本当にすまないことをしていたと思う。今回の案だって、ある意味では逃げにも取れる選択だ。だが、それでも好いと言ってくれるなら……俺も覚悟を決めることにし──って、おい。ちょっと待ってくれ」
一部の眷属を集め、俺の決意を発表した。
現実での本番はできないが、代わりに仮想空間でならば本番をすると。
まだ全員とヤる気はないし……怖い。
絶対に受け入れてくれる、そう信じられる者を集めてそう告げた。
先ほどの部分が締めの予定だったが……途中で少しずつ眷属たちが近づいてくる。
すでに後ろにも回り込まれており、このままでは拘束されてしまう、という段階にまで事態は深刻化している。
「メルス様……そのお言葉だけでわたしたちはもう限界となりました。メルス様の中で蓋が外れ、一気に感情が送られてきたのが原因なのでしょう。──責任、取っていただけますよね?」
「ご主人、それでは──」
「我らと、始めましょう」
「……ああもう、分かったよっ! ただし、それでも順番にヤるからな!」
同人誌か! と言いたいぐらいの急展開に見えるが、実際にこの場の眷属たちは長い間耐え続けていたのだ。
荒い息を吐きながら、艶めいた声で俺を求める眷属たち。
頬が紅潮し、俺の体を弄る指は、何かを探すように淫靡な動きをしていた。
それもこれも、俺の覚悟不足が招いた結果なのだろう。
覚悟を、今試される時!
「魔導解放──“繋ぎ紡ぐ円環の間”!」
そして、会議室に閃光が走る──
工□展開? いえ、主人公は童貞ですよ?
全ては夢のお話、主人公が突然ダンディになるわけでも話の中で工□展開にばかり行くようになるわけでもありません。
たまにこの話の影響が今後にありますが、基本的には今までと似た感じで物語は進みます。
──誰が主人公の淫夢を見たか、それはご想像にお任せいたします。





