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絶望のキッズ携帯  作者: 白瀬隆
キッズ長崎に来る!
27/30

我が家

ダイニングテーブルに三人が座っている。ガキはプリンを食べながら獣と化しているが、少し勢いがない。嫁はそれをぼんやり眺めている。俺はガキに、何とか明るい未来を提示できないか考えた。オンラインゲーム。PC。こいつが欲しいのはそれだけだろうか。

「お前、ゲームとPCの他にほしいものは何だ?」

「お金」

即答だった。ジジイの方は金持ちだと聞いていたが、お小遣いなどはババアが管理しているのだろう。あのババアだ。今のお小遣いがいくらか聞くのが怖い。俺は恐る恐るいくらもらっているか尋ねた。

「月五百円」

繰り返すが中一だ。友達がボーリングにでも行くと言い出せば、このガキは出待ちすることになる。いや、そこまで辿り着く前にお腹が空いたら対応できない。行き倒れになる可能性がある。何にせよこれ以上話をすることはできない。爽やかな話題に切り替えていこう。

「将来の夢を考える話を忘れてたな。確かにお金が欲しいという理由も納得だ。ただデリヘル経営というサービス業は忘れてくれ。俺がババアの餌食になるかもしれないし、意外とババアも昔そこで働いていたかもしれない。気にするな。大人の宅配ピザみたいなものだ。なかなか豪勢なピザだと思っておけばいい。仮に働いていなかったとしても、ババアなんてシーフードピザだ」

ガキが震え始めた。つい描写が詳細になりすぎるのは俺の悪い癖だ。

「PCを使った仕事はどうだ?」

「何かあるの?」

「俺の翻訳だってPCでしか仕事しないし、客とのやりとりもメールだけだ。もっともプログラマーなんて高度な仕事なら、専門的で給料も高いんじゃないか?ただ一つ言えるのは、安定しないんだよな」

ガキの顔色が曇った。安定した日々に憧れがあるんだろう。確かにストレスを毎日溜め込んでは爆発させているガキにとって、穏やかな日々が将来の夢なのかもしれない。


安定といえば公務員だ。しかし事務系はIT系とは縁遠い。何か技術職などないだろうか。俺はPCを取り出しGoogleを開いた。しばらく検索を続けると、一つ見つけてしまった。警視庁サイバー犯罪対策課の職員を募集している。こんな仕事があったのか。公務員でありながらIT系に特化していなければならない仕事。廃人街道を突き進んでいるこのガキにこそ向いている。俺はガキに画面を見せた。ネットの世界で住む自分がネットの世界で戦うということに興味を持っているのだろう。返答は早かった。

「給料はいいの?」

公務員の給料は最初は安いかもしれないが、ちょうど結婚を考え始める頃には十分に妻子を養っていける程度に稼げるはずだ。結婚し、子供ができ、郊外に家を建てる。車は高級ではないかもしれないが、そこそこのもので家族を連れて旅行に行く。そんな人生だと思うとガキに伝えた。ガキがプリンを食べる手を止めて真剣に俺に尋ねた。

「どうやったらなれるの?」

人生設計が中学生にどれだけ大事なのか分からないが、魅力を感じたことは確かだ。お小遣いが少ないと金に弱いのだろうか。とにかく俺は嫁と進路を考えることにした。


おそらくサイバー犯罪対策課の定員も少ないだろうから、学歴はかなりものを言うだろう。関西の大学は激戦区だ。しかし私立では学生の数も多いし、頭一つ飛び抜けるという意味では採用が難しいかもしれない。狙うなら国立だ。ただ京都大学を受けるなんて真似を不登校児のクソガキがしたら、清水の舞台で全裸にされて飾られるだろう。大阪大学を受けても同じだ。通天閣に吊るされる。そこら辺は外そう。

「とりあえず工学部に入れ。ただ関西で受験するっていうのはかなりの覚悟がいる。学校も行ってないお前が今から勉強を頑張れるか?」

「大人になったら、家を建てて暮らせるんだよね?」

「ああ。いい家庭が築ける」

ガキの目は真剣そのものだ。

「頑張る」

好きなことを仕事にしたい。そして幸せな家庭を築きたい。いい夢だと思う。俺は何で歯学部に入ったんだったか。似たようなものだった気がする。俺の夢は敗れたが、お前の夢はこれから広がっていく。お前が夢を持った瞬間にそばにいれたってことが、何となく俺に夢をくれた気がするよ。お前の夢が叶うこと。小さな俺の夢だ。

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