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第97話 牧場でひとやすみ

 村の宿で迎えた朝は暖かい日差しの差し込む部屋で清々しい気分で向かえる事が出来た。前の街はどういうわけか曇っている日がほとんどだったので久々に晴れている朝である。

 窓の向こうには草原が広がっており、無数の牛が見える。実にのどかな景色で向こうの方に手を振る女性が見えた。


 望遠鏡で見て見ると昨日、夜這いに来るような気がしていた宿屋の娘だった。部屋に来ることは無かったので少し残念な気もする。

 しかし、田舎で見渡す限り草原と農場なので視力が良いのだろうか? これだけ距離があるのによく見えるものである。


 身支度を整え食堂に向かうと既に準備されており、娘ももう宿に戻ってきている。娘は料理を運んできた。


「はい。おまちどう。ゆっくり眠れましたか? それとも三人も相手するのは大変だった?」


 宿の娘に尋ねられたライリーは答えた。


「相手も何も酔った後に寝ただけだからな。あれだけ酔っているのに運動は無理があるな」

「そうなんだ。確かに何杯も飲んでたもんねえ。今日はコッソリとどうですか? もう一泊くらい出来るんでしょう?」


「ほほう。まあ確かに昨日、夢でお告げがあったんだがもう一泊くらいは大丈夫だと思う。あのお告げは不思議でな。大抵、ああいうのがあった後は王国から似たような連絡が来る」

「ふふ。なら私も楽しみにしています」


 妙な気配を感じたソフィア達がライリーの座っているテーブルに集まってきた。


「ねえ、今、何の話をしていたの?」


 ソフィアに尋ねられたライリーは答えた。


「いやな。夢でお告げがあってこの国の王都には王妃を連れて行かないようにというのと、敵に察知されないように一か所に泊るのは二日が限度、移動速度はゆっくりとと言っていた話だ」

「ふ~ん。お告げの内容はともかく、何か怪しいなあ」


 話を聞いた王妃は言った。


「先ほどの街ではお楽しみだったのに今宵もですか? では今日は酔わないようにしてください。私もお供しますので!」

「いや、流石に王妃を相手にするのは気が引ける。それに俺をよく見ろ。自分の父親より歳上じゃないか?」


「確かにそうなのですが、年上という感じがしません」

「ん? そうなのですが? 何で王妃をしているんだ?」


「ああ。両親が生きているのにどうして即位しているのか? ということですか?」

「そう……ああ、でもそういう国もあったな。若い娘を早めに即位させて親はコントロールしやすい立場になって政策を立てるという」


「ええ。仰る通りです。私の国もそうしています」

「でもよ、普通は結婚してから即位させるんじゃないのか?」


「う~ん……その普通というのがよくわからないのですが、どうして結婚と即位が関係しているのですか?」

「え? 結婚してから即位した方が他の国の貴族にも示しが付くとか見栄えが良いとかあるんじゃないのか?」


「それは大分、昔の話ですね。多分、ライリーさんのいた世界では結婚が権威を示す手段にもなっているんだと思います。この世界ではお互いの深い繋がりを意味するのでしていようがしていまいが関係ないです」

「そうなのか。王国とその近くだけの話かと思っていた。他の国でも大体、そうなんだな」


 やはりこの世界は思ったよりも全体的に進んでいるというのが分かったところでこれ以上、詰められると今夜の楽しみが消える可能性があるので適当に牧場にでも行く事にした。


◇◇◇


 宿からすぐ近くにある牧場に行くと前の世界でよくある牧場よりも大分、牛が多い。柵に近づき、見ていると牛が寄ってきた。

 どういうわけか、柵のこちら側にも牛がいてそれも寄ってきたので馬に何て言っているのかを聞いてみた。


「また牛が集まってきて俺のズボンを前後左右から舐めているな。何でオス牛のところに行かないんだろうか?」

「何かあるんだろうな。どうしてだ?」


 馬が牛に尋ねると意外な答えが返ってきた。


「こんな事を言ってるぜ」


『オス牛はね、あの向こうの方の柵が見える? あの柵から向こうにいるの。私たちは子供のお休み期間だからこの辺りにいるってわけ。

 それに牛同士だと時期が来たらいつも一緒にいるし、話したかったら柵の方に行けば話せるでしょ。でも、あなたみたいな珍しい旅人は暇な私たちにとっては楽しみの一つになるのよ』


「だとよ」

「じゃあ、この二人も珍しいだろう。ソフィアは貴族令嬢でその隣に居るのは国の王妃だぞ」


『まあ、珍しいっちゃ珍しいけどあなたみたいに他の世界から来た人間の方が珍しいよ』

「何で他の世界から来たって言ってないのに分かるんだよ?」


『あら? 知らないの? 私たちは人間は雰囲気の違いを感じているの。あなたは明らかに違うわ。だから他の世界から来たのが分かるの』

「ああ。だからモンスターとか妖精が珍しいって言ってくるのか」


『そういう事ね』

「で、それは分かったんだがいつまで舐めているんだ。水たまりが出来ているんだが?」


『私たちはいつも草を舐めているから舐めるのは得意なのよ』

「そうは言うがキリがないな。牛が多すぎる」


 確かにかなり多い。チーズやバターを作るためのドーム状の納屋からは煙が上がっているが大きさがもう納屋というより工場である。


 見てみようと思い、近づいてみるともう工場の大きさである。中に入る事は出来るのかと近くにいた村人に尋ねてみたが、今は加熱処理をしているところで中に入っても蒸し暑いどころじゃないし匂いもかなりキツイので代わりにと保管庫の方に案内された。


 そこには無数のチーズが乾燥中で一個当たりの大きさもかなりのものである。バターの方も随時、作られており容器からは甘い匂いがしていた。


「甘い匂いで美味しそうだね。これって宿のバターと似ていると思うけど、ここから来てるのかな?」


 ソフィアの疑問に村人は答えた。


「ああ。そうだよ。この村には幾つかこういった場所があるけどアンタたちの泊っている宿で使っているバターとチーズはここから出荷されているね」

「じゃあ、その他のは王都や他の町に出荷されているんですか?」


「そうだよ。この辺りは涼しいし、いつも乾燥しているから牛たちにとっては過ごしやすいのさ。乳も沢山出るしね」


 その後、この道をずっと歩いていくと高台に出るからそこからの景色を見るといいというので馬に乗って行く事にした。

 すると、この村にある牧場と農場はかなり広大なのが分かるのが地平線の先まで牧場も農場も続いていた。


 ここまでの面積を機械もほとんど使わずに管理しているのは凄いことであるが見ていると魔法を使って省力化しているのが分かる。

 運搬や散水が魔法を使って行われており、前の世界のように機械にそこまで頼らずにしている。


 そして、のどかな景色を眺めてぼうっとしていると日も落ちてきたので宿に戻る事にした。さて、今夜はどうなるのやら。

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