第101話 後をつけたい王妃
宿に着いた一行は部屋に入るなり外から入ってくる音の大きさからこれで夜に眠れるのかと思うほどの騒がしさだったので魔道具を用意し快適に眠れるように準備をしていた。
この宿には食堂も無く、近くの酒場にでも行けと店主が言うので宿に泊まるメンバーは酒場に行く事にした。
酒場に着くと裸でテーブルに乗り酒をラッパ飲みしていたりとかなり豪快な客が多い。まあ、想像通りだなと思いながらも席に着いたライリーはカセムにこんな感じだったのかと尋ねた。
「まあ、ここに来るまでに既に荒くればかりだったから想像はしていたがこの酒場はいつもこんななのか?」
「そうだなあ。前に来た時もこんな感じだったとは思う。何せ、この町は印象が薄いんだよな」
「やっぱり飲み屋とかがカセムの趣味じゃないのか?」
「そうなんだよな。まあ、これから行くけどな」
「行くのかよ」
それを聞いた王妃は自分も付いていきたいと言った。
「カセムさん! 私も一緒に行きたいです! 連れて行ってください!」
「流石にあなたを連れて行くわけにはいかないな。ライリーと他の飲み屋にでも行ってくれないか?」
「え? どうしてですか?」
これにライリーが答えた。
「カセムがこれから行こうとしているのは多分、寝屋なので一緒に行ってもなあ……。そういう趣味があるなら別だが?」
「そういう趣味はありませんが朝廷では時々、目にします」
「目にします? 隠れてするものじゃないのか?」
「後宮があるのですがたまに火事かと思うような煙が吹き出している事があって部下を連れて様子を見に行ったらそれはもう……口にするのも憚れるような光景が広がっている事が時々あるのです」
「う~ん。それはまずいな」
「よくある話ですよ。恵まれた人間は時に酷い勘違いをします。それが醜い酒池肉林の宴となって悪臭を放ちます。それを隠すために香を焚いたり、その気にさせるために香を焚いたりします」
「いや、そうじゃない。魔族は香の扱いに長けていてな。香に細工をして洗脳をしようとする事がある。今までも何度かあったぞ」
「それも聞いたことがあります。でも自分たちは香の配合に自信があって洗脳されるような事はないと思っています」
「それはもう洗脳してくださいと言っているようなもんだな。どうして勘違いした権力者というのはいつもそうなのか」
「お恥ずかしい限りです」
「全くだが、それであの民のレベルの高さは凄い事だと思うぞ。俺の前にいた世界の国の民なんて政治の事は無関心で政府に好き勝手させた挙句に衰退していったからな。
自分たちに火の粉が降りかかった時だけ少しは行動するが既に効果が出ないほど悪化していた」
「国の衰退はあなたがいた世界でも似たようなものなのですね。善に基づいた行動をしている事を前提に考える事が出来るのは王国くらいのものですよ」
ふと、カセムが座っていた席の方を見ると姿が見当たらないのでソフィアにどこへ行ったのか聞いてみた。
「ん? ソフィア、カセムはどこへ行った?」
「もう行っちゃったよ。印象が薄い町だって言ってたのにさっさと食べて行っちゃった。欲望には忠実なんだよね」
「たいてい、男の場合は欲望が先で食欲が後だからな」
「そうなんだ。言われてみればライリーに夜這いしている人っていつも食べてしばらくしてから行ってるよね」
「そうなのか? というか千里眼で見ていたのか」
「これを見て」
そう言うとソフィアは魔道具を見せてきた。王国製の透視眼鏡でさっきまでいた街の闇ルートのものとは違い、レンズが筒状に延長されていて拡大して見る事も出来るようになっているものだ。
「これはさっきの街で渡された透視眼鏡と似たようなものか?」
「うん。もっと深いところまで見れて拡大表示も出来るよ。さっきの街で渡された後に王国の兵器工廠に似たようなものがないか聞いたら送ってくれたんだ」
「こんな便利なものがあったんだな。カセムはどうして知らなかったんだろうか?」
「普通は魔法を使って見るし、この眼鏡は魔法を使ってみるより精度も悪いから余程の重要な単独の潜入任務でないと使う事がないんだって」
「ああ。そうか、普通は端末を使うよな」
「ねえ、ところで夜這いは……あ! 王妃がいない!」
「おいおい。魔道具は持たせてるよな」
「うん。持ってるはずだよ」
好奇心に勝てなくなった王妃はカセムを追って行ったんだろうと思うがこの町で一人は流石にまずい。急いで金を払ってソフィアの魔法を使い、王妃の後を追った。
◇◇◇
カセムの後をつけている王妃は王宮ではいつも狙われていたので気配を隠す事には慣れていたのでうまい具合に距離を詰めている。
カセムとの距離も縮まり、店に入るところをしっかりと見た王妃がそのまま店に入ろうとしたところでライリーらが追いついた。
「ちょっと待った。あの店は大人の店だ。そういうところが好きな王もいるとは思うがいくらなんでもああいう店に入るには若すぎる」
「む~……でも、こういう荒くればかりの町のお店は興味を惹かれるものが多いのです」
「そうだなあ……そうだ、ソフィア。あの眼鏡が役に立つんじゃないか?」
「いいの? 王妃なのに?」
「いいです! 見せてください! これも王の務めです」
まあ、王妃ともあらば刺激的なものはもう見慣れてしまっているかもしれないので大丈夫かと眼鏡を渡すと興味深そうに眺めたあと、実際に装着してカセムの様子を見た。
するとカセムは店員と親し気に話しており雑な接客だが中々に楽しそうにしている。酒も驕り、何杯か飲んだ後に奥の部屋に二人とも行ったがこの先を見せるのも何なのでここまでだと王妃から眼鏡を取り上げた。
「あ! これからいいところだったのに!」
「まあ、そうなんだがわざわざ見る事もないだろう。国に帰ったらこれからいくらでも男の相手をする事があるだろ?」
「早すぎるって言ったのはライリーさんじゃないですか。それにこういう町の店だから見る価値があるんですよ!」
「まあ、見たところで自分の国とさほど変わらんぞ。欲望を吐き出す姿はどこでも似たようなもんだ。普段の営みは国や町によって違うけどな」
夜も更けてきたのでもう宿に帰るぞと言い、そのまま宿に戻る事にした。帰り道では王妃は不満そうな顔をしているが、誘拐でもされたら不満な顔じゃ済まない事になっていた事を言ったがそこは自分の責任だという事も分かっているというのでそれ以上は言わなかった。
実際、王国はそこまでは関与出来ないし王妃という立場である以上はそれも分かっていなければならないし、ライリーも自分で線引きする事であると思っていた。
とは言っても行動は子供っぽいところがあるので出来るだけの事はしてあげたいと思わせるのもこの王妃の魅力なのだろう。




