翠緑の伯爵
「つまり、お金を置いて出ていけと言いたいのですか?なんの権利があって言うのか疑問だ」
面倒なので直球で詰問した、馬鹿には遠回しは効かないと思ったから。
案の定、顔を歪めて笑い合う夫婦。
状況を知ってか知らずか、ビビは鼻を垂らして転寝している。
これほんとうに女か?
「父上、貴方ボケるには早くないですか?この家の事情をお忘れてみえる」
濃緑の瞳を真っすぐ向けてやれば、愚鈍な父は「ハッ」とした顔になり見る見る青白い顔になった。
うん、思い出したみたいだね。
トントンとボクはテーブルを突きながら続ける。
「母が伯爵を受け継ぎ、この屋敷を作って維持してきた。そして、ボクが最期を看取って爵位と力を引き継いだ。この意味がわかりますよね?さてさて問題だ、我が家の家具が外に出せない理由、金品がないのに食べ物に困らない理由……父上、答えて?」
父は目を逸らしブツブツと何やら呟く。
義母が訝しい顔で夫をみやり、チラリとボクの顔を見て「ひっ!」と悲鳴を上げる。
僕の方を見て怯える、人の形ナリはとっているはずだけど……。
食堂の壁際に控えていた執事とメイドが手振りで何か言う。
ん?ああそうか蔦が生えてしまった、修行不足だね。
ウネウネ数本生えた蔦の先に実った琵琶を捥いで食べた、凄く甘い。
感情が高ぶるほど美味しい果実が育つのは何故かなぁ?
「父上、聞こえないんだけど?」
実をもうひとつ毟り取り嚙み砕いた、今度は林檎だった。
「こ、この家は生きている……お前が出ていけば枯れて消え去る。それはお前が、いやドリュアス、様が当主だから……正当な翠緑の伯爵だから……です」
「うん、正解。気に入らないならば、出ていくしかないのはお前達だよ」
ガジガジと林檎を噛み砕き微笑む。
「ま、待ってくれ!追い出されたら困る!俺はともかくこの二人が」
「僕には関係ない、立場から言えばそいつらは木に集る害虫だ」
冷たく言い放せば「人でなし、悪魔」そんな暴言が飛んで来た。
うん、人とは少し違うから合ってはいるのかな?
「仕方ない慈悲をあげよう、2択だ。下働きとして仕えるか、虫として駆除されるか選んで良いよ?僕は優しいだろう?」
そもそも家に入れる義理などないんだからね。