意図しない寄り道 4
長く、しなる尾を防ごうとするのは簡単なことではないけれど、場所が場所だけに、警戒する方向を絞りやすく、剣尾鳥のほうも捻った攻撃をしてくる様子ではないため、なんとか防ぐことはできていた。
僕たちに手を出すことは不可能だとわかり引いてもらえると、一匹に集中できるから助かるのだけれど、相手も自分の子孫を守ろうと必死になっているわけだからな。
さっきのだって、僕たちを餌だと思ったのなら、生存を図るための当たり前の行動だし。
もちろん、雛まで殺してしまうのはやりすぎかもしれない。しかし、ここで親鳥を殺したのなら、まだ一人前とは言い難い雛鳥も、他の魔物などに襲われるか、あるいは飢えて死ぬか、いずれにせよ、長くはもたないだろう。ならば、いっそ、と割り切る。
なにも、絶滅させようというわけではないのだから。
「この前のあれと違って、こっちの魔法を反射してくるような特性はなかったと思ったけど……」
ただし、魔物たちが魔王の影響で変質してきている、という可能性がまったくないとは言えない以上、用心するに越したことはない、か。
「《炸裂させる魔法》」
これなら、たとえ反射されても、普通の防御魔法で防ぐことができる。
正確に言うのであれば、反射されたところで、防御魔法で防ぐことのできるだろうくらいの威力で放つ、ということだ。
もちろん、それだと相手を削るのも少しづつしかできないわけだけれど、この程度であれば、魔力切れを起こすこともなく、戦い切ることができそうだ。
ただし、片方の翼をもぎ取ってしまうような戦い方をすると、墜落した剣尾鳥がもがくように暴れ、長い尾が無造作に振り回されると、周辺にも被害が及ぶ可能性がある。
エストのいる、つまり、僕たちの馬車は場所が離れているから大丈夫だろうけれど、近くをたまたま馬車が通りかからないとも限らない。それこそ、行商とか、あるいは、別の冒険者たちとか。
やるのなら、一撃で仕留めるような方法でなければ。魔族ではないし、僕には苦しめるような趣味もない。
そして、威力こそ低いけれども、その分、速度は上がっている。
もともと、速射性には優れる《炸裂させる魔法》だけれど、威力を低くしても、急所をつけば、一撃で倒すこともできるだろう。
ようするに、心臓とか、頭に当たる部分のことだ。
羽ばたきにより巻き起こされる風や、突撃しての急襲を防御魔法で防ぎつつ、異なる角度で《炸裂させる魔法》を打ち出しながら、急所というか、防御の意識の低い場所を探す。あるいは、死角か。
「結局、仕留める方向にいってるな……」
クレアからは、向こうが仕留めるまでの時間稼ぎをしてくれればいい、一匹づつ、順番に相手をしていけば問題ない相手だと言われていたけれど。
まあ、攻撃は最大の防御ともいうし、防御魔法だけで魔力切れ、とまではならないだろうけれど、倒してしまうほうがより良いというのは正しいはずだ。
クレアたちのほうには防御魔法を展開しつつ、自分の目の前にいる相手には《炸裂させる魔法》を放つ。クレアたちのほうには目を向けずとも、魔力探知で居場所がわかるため、目を向けていなくても、防御魔法の構築に支障はない。
別系統、それも、防御魔法と攻撃魔法という、逆の性質ともいえる魔法を、同時に展開するのは非常に大変だけれど、自分で決めたことだしな。加えて探知魔法も。
まあ、探知魔法に関して言えば、同時に処理するのは、いわば、必須の技能として、学院の低学年でも習うような技術だ。同時処理に問題が出るようなことはない。
とりあえず、狙い目はやはり尾の部分だろうな。あれが主な攻撃手段であることは明白だし、それ以外の突撃してくるような攻撃は、軌道も読みやすく、防ぐのも容易い。
「おっと」
剣尾鳥も、いつまでも倒れない、離れて行かない僕たちにしびれを切らした、というより、苛立った感じだろうか。
その一撃は、今までのものより早く、重いものだった。
しかし、予備動作が大きく、軌道も一直線に僕を刺し殺そうとするものだったため、避けるのは難しいことではなかった。
防御魔法で防ぐこともなく、真っ直ぐに伸びてきたその尾は、勢いを止めることなく岩壁にぶつかり、間抜け、と言ったら悪いのだろうけれど、突き刺さったまま、抜けなくなってしまう。
いずれにせよ、瞬間的に相手の動きが止まったことは事実。
僕は《拘束する魔法》よりも先に《斬撃を飛ばす魔法》によって、尾の先の剣状の部分を切り離した。
これで、脅威度は数段下がる。
「《炸裂させる魔法》」
防御をクレアたちのほうだけに集中できるのなら、攻撃魔法の威力も上げられるし、狙いも正確にできる。
放った《炸裂させる魔法》は剣尾鳥の魔力防御を貫いて、一撃で仕留める。
もちろん、魔族ではない剣尾鳥が、そのまま空中で塵になって消滅することはなく、地面に落下してゆく。
僕はその行く先を見届けることなく、クレアたちのほうへと振り返れば。
「いい加減、眠ってろ」
丁度、シュロスが、同じように尾の先の部分を切り飛ばしたところだった。
自身の尾が切断された剣尾鳥のあるかないかの動揺した隙を、クレアの《炸裂させる魔法》が打ち抜く。
「これで終わりでしょうか」
巣の中から雛鳥が飛び出して、襲い掛かってくる様子は見られない。
「親鳥を失ったこの子たちが、この先生きてゆけると思いますか?」
巣の中の剣尾鳥の雛は、まだ尾も短く、硬度も足りず、庇護無しに生き残れるとは思えなかった。巣立ちにはまだ早い時期だろう。
「申し訳ありませんが、これも自然の摂理です。あなたたちも私たちの生きる糧となってください」
これから、しばらくは鳥肉かな。
主たちのいなくなった剣尾鳥の巣の中には、腕輪や指輪など、光物が詰まっていた。
鳥にはそういったものを収集する習性があるからな。
「見てください、ルシオン。硬貨もありますよ」
拾い上げたクレアの手の中に見えるのは、金貨に銀貨。
銅貨は見られなかったけれど。
とはいえ、価値が高いほうがあったのならば十分過ぎる。
「装飾品の類には……魔力が込められていたりはしませんね」
そうであったなら、防具として役に立つから、より高値で売れた、もしくは、僕たち自身でも使えたかもしれないけれど。
とはいえ、これらは磨けば、それだけでも装飾品として一定額以上では買い取ってもらえるだろう。
魔物が所持していたということは、冒険者の落とし物だろうか。
もしくは、食料と見做して殺され、食べられたのち、可食部分ではなかった宝飾品――衣服の類は、巣の材料にでも使われているのだろう――だけが残ったのか。
「御者の方に買い取ってもらいましょうか」
街で売ってもいいけれど、せっかく、お世話になった人だし。
「そうですね。では、その前に磨いておきましょうか」
唾液の痕やら、擦れ傷などが残っていては、売り物にはならないだろうから。
とはいえ、この程度であれば――あの馬車のようになっているのでなければ――《修復する魔法》でも十分に補修することはできそうだ。
専門的な知識はないけれど、今見える形状から、元の形を推測することは可能だし。
「シュロスは、意外に、磨くのが上手いですね」
クレアもそうだけれど、僕の半分くらいの時間で、しかも綺麗に終わらせている。
「意外にってどういう意味だ。俺の飯の種はこれだからな。こういう作業は慣れてんだよ」
シュロスが腰の剣を見やる。
そういえばそうか。シュロスにとっては、金属を磨くというのはお手の物、というか、日常のことだった。




