アマティスタの神官 13
もっと言うなら、切断しようとしているのかもしれない。
魔族の中には、加虐趣味を持っているものもいたみたいだから、まだ、判断はできないけれども。
「首に魔力を集中させて切断を防いだか。人間――」
「《炸裂させる魔法》」
余計な遊びなど挟むつもりは全く無い僕が選ぶのは、もちろん、最も速射性に優れ、威力のある魔法。
魔族との戦闘なんて、長引けば不利になることはわかりきっていることだし、ならば、初手から一気に仕掛けるのが合理的だ。
僕の放った《炸裂させる魔法》は軌道上にあったキャティネーレの伸ばされた指を吹き飛ばす。
やはり、キャティネーレ自身の防御魔法はそれほどでもない。操る魔獣、魔物は厄介だけれど、本体を倒せばその指揮系統もなくなるだろうし、統率されないただ集まっただけの魔物など、クレアたちにとっても物の数ではないだろう。
「ちっ、仕方ねえなあ」
後ろへ飛びのいたキャティネーレはこちらに魔物を押し付けて、自身は魔法陣を展開し始める。
おそらくは、別の魔物を呼び出すつもりなのだろう。
どうやら、キャティネーレが率いているこれらの軍勢は、もともとこの地にいたものがより集められたわけではなく、キャティネーレによってどこからか呼び出された軍勢らしい。それこそ、魔界などというところかもしれないか。
より正確に言うのであれば、どこからか呼び出された軍勢と、もともとこの地にいた魔物たちが合わさっているといったところだろうか。
「それらは、あなたがたの元いた場所――魔界から呼び出されたものなのですか?」
「いや。これは、俺の魔力によって具現化させたものだ。あれらと同じですでにここに個体として発生しているから、俺を殺ったところで止まることはねえ」
そういうことは、この魔法の根幹にかかわることなのではないだろうか。
そんなに簡単に他人、しかも、敵対している僕に話してしまって構わないものなのか? いや、相手は魔族だし、嘘かもしれない、むしろ、嘘である可能性のほうが高そうだ。
などと考えていたら――まあ、キャティネーレとの間には、もともといた魔物の軍勢が展開されていたため、結局、到達はできなかっただろうけれど――キャティネーレの描いていた魔法陣が完成してしまったようで、青白い光を発生させる。
「《炎を操る魔法》」
基本的に一度構築して発してしまえば、それ以上に軌道を操ることのできない《炸裂させる魔法》とは違い、生み出した炎であればある程度の軌道の調整は可能だ。まあ、《炸裂させる魔法》であっても、最初の撃ち出す段階であれば、軌道の変化も可能なのだけれど。
僕は迫りつつある魔獣の群れに向かい、炎を放射する。
あまり強すぎると周囲の地形にまで影響してしまうので、調整が難しいのだけれど、このままこの魔獣を放置していても、ここいら一帯が蹂躙されて、草木の一本生えていない状況になるかもしれない、そして、その可能性は高そうに思えた。
ならば、ここで一旦焼き払ったとしても、後から《花を咲かせる魔法》で植生を取り戻せばいい。
まったく知らない植物を生み出すことはできないけれど、知っている植物であれば、種はなくとも、新しく、それもすぐに、緑として取り戻すことは可能だ。
もともとのこの地の植生を完璧に把握していたわけではないけれど、アマティスタの人たち、言ってしまえば、エストに聞けば、この辺りの植生だって再現できるかもしれない。
「おまえに緑を愛する心はねえのか!」
キャティネーレの操る魔物の半数は殺しつくしただろうか、粒子になって消えたものもいれば、黒焦げの炭になって崩壊したものもいた。
その余波のせいでというか、周囲の草木にも多少では済まない被害を出してしまった。
たしかに、環境が変わるほどというか、まったく配慮しなかった闘い方は、後で治すつもりとはいえ、やりすぎかもしれないとは思うけれど。
たとえば、薬草が生えていたとして、それも無差別に燃やしてしまったのだから。
「もちろん、あります。しかし、今僕がこのようにしてあなたの魔獣たちに対処しなければ、結局は蹂躙され、同じか、もしくは、もっとひどい有様になっていたのではありませんか?」
たとえば、前回の戦いにおいてキャティネーレが去り際に召喚していった植物型の魔獣が再び召喚され、この地に根付くことになってしまったらと考えると、なにがあるか、どんなものを運んできているかわからないやつらを、およそ生物は生き残れないだろう高熱で焼き尽くしたことを、後悔はしていない。
「ちっ、いかれた野郎だ」
「お互いさまでは?」
そして、そうすることのメリットはもう一つ。
今僕が躊躇しなかったことにより、キャティネーレがこれ以上新たな魔獣――すくなくとも植物型のものを生み出すことに、躊躇いをもたらせるかもしれない。
キャティネーレの魔力は、僕より上とはいえ、無限ではない。
そして、消費量的に考えて、召喚するのと焼き尽くすの、どちらのほうが燃費が良いかと言われたら、後者のほうが圧倒的だ。
だとすれば、無駄な魔力消費を抑えるべく、現状の戦力だけを叩けばいいことになる。
そうなれば、すでに召喚されてしまっている、巨大な植物の魔獣を除いて、一対一の状況にまで持ち込める。
そして、あちらは、シュロスに任せている。
まあ、最後に残っているあの一体が、最も厄介そうだということはおいておいて。
背後に感じる魔力と音などから、振り向かずとも、シュロスはまだ、それからクレアとエストも戦闘中だ。
そして、僕とキャティネーレが一対一になったことは、シュロスはともかく、クレアとエストには伝わっているはず。
ならば、こちらに増援をよこすまいと、引きつけるようにして戦ってくれているはずだ。
現状、キャティネーレからは、キャティネーレのもの以外の魔力を感じられない。僕の魔力探知の精度を疑わないのであれば、だけれど。
「《魔物を使役する魔法》」
「《炸裂させる魔法》」
僕へ向かって行け、とでもいうかのように伸ばされたキャティネーレの腕を伝ってきた巨大な、いくつもに股別れしたムカデのような魔物と、僕の魔法とがぶつかり、魔法を受けた一頭が消し炭になる。
しかし、それぞれが別系統の脳、あるいは核ででも動いているのか、他の頭は健在で、むしろ、自身の身体の一部だったものを消し飛ばされたことにより、怒りすら露にしているようだ。
どうやら、再生能力を有してはいないらしいというところに安堵しつつ。
「《炸裂させる魔法》」
続けてもう一発。
有効だとわかったのなら、繰り返すのが定石だ。
しかし。
「えっ」
今度は、僕の《炸裂させる魔法》が命中したはずの一頭は、顕在。
ダメージを負った様子もない。
「ぐっ」
その瞬間的な硬直が致命的な隙となり、直後には、腕に痛みを感じていた。
見れば、僕の左腕に、そのムカデのような魔物が牙なのか、刃なのかを食い込ませていた。
「《空気の刃を飛ばす魔法》」
即座に頭を切断したものの、食らいついた頭が離れないので、力で無理やり引き剥がした。
血が溢れ出し、ひどく痛む。そのうえ、なにやらふらつきそうになる。
これは、毒でも盛られたか?
「よっし、入ったな」
気合を入れて顔を上げれば、キャティネーレが勝ち誇った顔をしていた。
この程度で、すでに勝った気になられても、とは思いつつ、治癒魔法を使用しても、傷口は塞がれど、痛みが引く気配はない。
やはり、毒の無効化は、通常の治癒魔法では困難か。聖典を所持している、エストのように神職に着いている相手でなければ、完全な解毒は難しいだろう。
急ぐ必要が出てきた。
しかし、焦れば勝ち目はない。
僕は毒が回らないよう、噛みつかれた部分を結界で遮断する。




