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第五十六話 兎と餅と失くした記憶

 



「餅月・輪廻の蛇(ウロボロス)。あーあ、せっかくたこ焼き誘ってくれたのに、こんなやつのために行けなくなるとは……」


 町から離れた林の中、ツキウサは呟いた。

 はぁ、と大きなため息をついて見下ろした視線の先には奏と戦って吹き飛ばされた月の兎が魔法によって拘束されていた。


「こんなやつとは何だ!ニンゲンに肩入れする裏切り者が!」

「あのさぁ、あんた立場わかってんの?」

「ぐ……今に見ていろ」


 縛られた兎は忌々しいと言った顔でツキウサの顔を見上げる。ツキウサは縛り上げた兎を担ぎ上げると森の中へと歩き始めた。


「な、何をする!」

「ちょっと閉じ込めとくだけよ。死にゃしないわ」




 ~~~~~




 その後、何事もなかったかのように俊太の家に帰ってきたツキウサ。


「あーやっぱ地上の食べ物は美味しい」


 ツキウサは俊太が持って帰ってきたたこ焼きをおいしそうに頬張っていた。俊太は頬杖をつきながらたこ焼きを次々口に運んでいくツキウサを眺めていた。


「それ、啓が調子乗って焼きすぎたやつだから好きなだけ食べていいぞ……そういや月の兎って何食べてんの?」

「月の兎は餅ばっかよ。ただお腹が膨れるだけの味のしないお餅。栄養バランスだけはいいんだけどねぇ」

「……それ、楽しいのか?」


 そこまで食に執着があるわけじゃないが、味のしない餅だけを食べる生活なんて想像ができない。給食と夕食が同じ時にもちょっと嫌な気分になるのに、毎日同じものなんてありえない。


「ほんとにねーどうかしてるよ、あーあどうせなら焼きたて食べたかったなー」

「たこ焼きは熱々に限るよ。俺は猫舌だからあんま得意じゃないけど」


 だからツキウサはこっちの食べ物にやたらと執着してたのか。と俊太は一人納得した。


「いいないいなー」

「何してたんだよ。せっかく啓が来ていいって言ってたのに」

「ちょっとお仕事をね〜、はーこれから忙しく……あれ?なんでこんなに色々やる羽目になったんだっけ?」


 ん?と食べながら考えるツキウサ。家で受け継がれてきた鍵のこととその用途を知って、地上まで逃げ出した。ただ、隠したらすぐに月に戻るつもりだった。でもやっぱり地上の食べ物が気になって、たまたま俊太と会って……

 そこまで考えたツキウサはぶんぶんと首を振った。起こってしまったことをアレコレ考えるのは性に合わない。


「いや知らねーよ。俺になんも言わずに好き勝手やりやがって」

「あれ?拗ねてる?」

「拗ねてねーよ!」


 もう知らん。なんなんだこいつは、図々しいし自分勝手で自由奔放だし、やたら距離感近くて構って欲しそうなのに、誘ってもついてこないし。俊太は机を叩いて立ち上がる。


「俺疲れたからちょっと寝る、勝手に入ってくんなよ!」


 そう言って部屋を出て行ってしまった。バタンと勢いよく扉が閉まる。

 一人残されたツキウサはたこ焼きを残してソファに体を投げ出した。


「もどかしいなぁ……昔はもっと素直に喋れたのに……」


 自分以外が誰もいない部屋でツキウサは呟く。俊太に初めて会ったあの時は難しいことは考えずただ遊んでいればよかった。今は違う。しがらみが増えすぎた。俊太に記憶をなかったことにする決断をしたのは自分だ。それなのに、自分は忘れることができなくて、もう一度俊太と一緒にいたくて、こんなことになってしまった。


「昔って……やっぱり俺が知らないことが……」


 廊下でツキウサの呟きを聞いた俊太は下唇を噛みしめていた。




 ~~~~~




 その夜、ツキウサは一人、高層ビルの上で月を見上げていた。月から伸びた一筋の光。その光が屋上に魔法陣を描いていく。


「やぁ、わざわざ出迎えてくれるなんて、流石、私の婚約者」

「それ以上近づかないで。何しに来たの」


 光の中から手を振りながら現れたのはツキウサの婚約者、ソーマ。

 ツキウサは光の槍を作り出してソーマの喉元に突き付ける。


「ふっ、わかっているくせに」

「アンタほんっとにキモい。さっさと帰って。地上のことあんなに嫌ってたじゃん」


 ツキウサは喉元に突き付けた槍を限界まで突き付けたまま動かない。


「そうだ。わざわざこんな穢れた地上に降りてまで迎えに来てやったのだ……」

「誰も頼んでな……いっ!?」


 ツキウサの反応を上回る速さで隣に立っていたソーマは耳元で囁く。


「鍵はどこだ?」

「っ!……どっかに落としちゃったのかも」


 飛び退いたツキウサは槍を構えて臨戦態勢に入る。


「嘘を吐くのも相変わらず下手だ。大方どこかに隠したのだろう」

「だったら?見つけてみれば?」


 気丈に振る舞うツキウサ。しかしその手は震えていた。


「いや、その必要はない……ふむ、そろそろか?」

「何を言って……」


 その時、ツキウサのポケットから軽快な着信音が鳴り響く。取り出したスマホの画面は俊太からの着信を示していた。


「俊太?もう寝たはずじゃ……」

「出ないのか?」


 なぜか知ったような口でスマホを指差すソーマ。


「俊太……?」

『ッ、ツキウサ!』

「俊太!一体何が……」


 通話ボタンを押すと画面はビデオ通話に切り替わった。そしてそこには縛り上げられた俊太の姿があった。


『ソーマ様、対象の捕獲を完了しました。これより都へと移送します』

「ッ!アンタたち……俊太は関係無いでしょ!」

「さあどうする?返してほしければ鍵を持って私の屋敷まで来い」

「このッ、クソ野郎ッ」


 ツキウサは吐き捨てると一目散に俊太の家の方へ駆けだした。


「行かせると思うか?」


 ソーマが一瞬にしてツキウサの目の前に立ち塞がる。ツキウサは槍を握る手に力を込めて一閃、ソーマの胸に突き刺す。


「邪魔ッ!」

「餅月・吸収(アブソーバー)


 光の槍でソーマの体を躊躇なく突き刺す、はずだった。槍が貫いたのは魔法によって現れたソーマの「餅月」。

 月の兎独自の魔法である「餅月」は自らの魔力で形成した餅を自在に変化させて扱う魔法。使用者の発想と十分な魔力量があれば攻防一体の強力な魔法となる。

 しかし、餅月同士をぶつけ合う、となると話は変わる。より扱いが高度な方が相手の餅月を吸収することができる。

 槍を伸ばして距離を取ったツキウサは魔力を流して餅の主導権を奪い返す。


「拘束しろっ、“輪廻の蛇(ウロボロス)”」


 餅は蛇に形を変え、ソーマの体に纏わりつく。


「おっと、主導権は渡さない」

「きゃっ、嘘でしょ……っ」


 ツキウサに対抗して魔力を流して主導権を取り返したソーマ。

 纏わりついた蛇の顔が槍の持ち手に現れると、ツキウサの体を拘束していく。


「はなせっ」


 どれだけ魔力を込めても、ツキウサは餅月を操ることができない。


「一体どこから、こんな魔力が」


 自分が全く抵抗できまいまでに圧倒な量の魔力をソーマが持っていた記憶はない。何か、魔力量の底上げをしている。ツキウサはそう直感した。


「アンタ、何かおかしなことしてるでしょ。私をここまでする力、なかったはず」

「我が婚約者の実力はよく知っている。無策で降りてくるわけがないだろう。我らが神の力をお借りしたのだ」


 両手を広げ、自信満々に言い放つソーマ。ツキウサは立ち昇る魔力に異質なものを感じ取った。


(神の力……?うちのツクヨミ様はこんなのに手を貸したりしない、ソーマの家柄を考えると、チャンドラ様?なんでそんなことが……)


「気になるか?要求通り鍵を持ってきたら返すついでに教えてやろう。拘束は私がいなくなれば勝手に解ける。では、屋敷で待っているぞ、サクヤビメ殿?」

「ちょっとまだ話は終わって……!」


 ツキウサを見下ろしながらふわりと浮かび上がったソーマは夜の闇へと消えていく。

 それを見ながらツキウサは無力感に苛まれる。地上を守るために鍵を持って降りてきたのに、結局自分のせいで大事な人を人質に取られ、それを見ているだけしかできない。


「……くそっ」


 月夜の晩、兎の声は風に吹かれて消えていった。




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