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邪教徒の塔

 んん……?

 気が付くと、石畳のようなものが目の前に広がっていた。

 ……どこだ、ここ。

 体を起こして……!?

 

「だわっ!?」

 

 横たわっている事はわかっていたので、体を起こそうとしたのだけど、手を突いたところに何もなくて、そのまま転げ落ちてしまった。

 

「いたた……なんだ、これ」

 

 思いっきり肩から落ちたので、左腕を痛めてしまった。くー……、HPが減るようなダメージじゃないので、少しすればしびれも取れると思うけど。

 辺りを見回すと、ずいぶんと殺風景な光景が広がっていた。

 部屋の形は三角形。窓には鉄格子、部屋にあるのは狭いシングルベッドと、鏡台、扉が二つ。

 片方の扉は開かず、もう一つは……――?

 

「トイレ?」

 

 なんと洋式の水洗トイレだ。隣に風呂桶もあって、完全にユニットバス。なんでだ。ファンタジーどこ行った。こんな光景、RDB時代でも見たことないぞ。

 窓から外をのぞけば、眼下には広大な森、俺の居る場所は、目測で地上ウン十メートル。

 つまりここは……。

 

「牢屋、か?」

 

 どうしてこんなところに居るのか。とりあえずテルヒロに連絡を取ろう……――は!?

 

「インスタンスダンジョン!?しかも、邪教徒の塔!?」

 

 驚きに、思わず口から頭の中の内容が出てきた。それほど、驚くことだったんだから、しょうがない。

 なにせ、ここは普通のダンジョンじゃない。ここからはパーティチャットはおろか、プライベートメールすら送れない。何故ならここはRBD唯一の言える特殊なギミックを持った、イカれたレイドインスタンスダンジョンなのだ。

 そのギミックとは、同じダンジョンに入ったパーティと、ボイスチャットでしかコンタクトが取れない仕様の珍しいダンジョンだ。パーティ間での新しい冒険を、という名目で追加されたこの場所は、リアルをないがしろにしないと攻略できない、と言われた大不評ダンジョンだ。

 もちろん、その後に後続で同じタイプのダンジョンは実装されなかった。

 しかし、なんでこんなところに?考えろー……思い出せー……。

 ――だんだんと思い出してきた。

 ブロッサムにパーティどころかクランを抜けろと言われるわ、後衛職の俺が一人でモンスターの跋扈(ばっこ)する森に放置されそうになったところだった。確か。

 しかも、まさかのニュウの裏切りもあって、大ピンチだったんだけど……。そうだ。邪教徒の塔。あの森で発生するイベント。『忘れられた遺跡』。そのつながりで俺はここにいる?

 いや、待て。だとしても、なんでいきなりイベントのラストダンジョンに居るんだ俺は。

 しかも、インスタンスダンジョンの中に休憩施設……というかユニットバスまで完備っておかしいだろ。

 えぇ……何がどうなってるんだ?

 ベッドに腰かけ、腕を組み、とりあえず現状を考察しようとしたところで。


 ――ギィ。


 鍵が閉まっていた方のドアが開いた。

 思わず身構える。何が出てくる……?

 扉をゆっくり開けて、出てきたのは邪教徒のローブを着た、何者かだ。そりゃそうだ。ここをドコと心得る。邪教徒の拠点の一つだぞ。

 その黒ローブの男は、俺を見るなりフードを取った。

 ……誰だ、こいつ。

 銀のザンバラ髪に、三白眼の目。少し頬のこけた白い肌は非常に不健康そうだが、その表情は歓喜に溢(あふ)れているのが判る。

 

「よかった、目が覚めたんだね。」

 

 俺を見て、ホッとした表情で笑いかけてくるが、俺はこいつを知らない。

 

「だ、誰……だ?」

「ん?……ああ、そうか。確かに君は僕のことを知らないね。まずは自己紹介をしよう」

 

 目の前の男はそう言って、部屋の中に入ってきた。

 

「僕はゼロゴ。この世界の邪教団の一人、ここを管理している者だよ」

 

 塔の管理……!?ってことは、こいつここのボスじゃねぇか。こいつが俺をここに連れてきたのか。だとしてもなんで……?待て待て……いや、ボスに名前なんてあったか?ここのボスって――。

 そうだ、いけにえ!いけにえ……いや、確かこのイベントは、いけにえに『魂喰の刃』を使って、それを糧に召喚される魔人だ。

 いやいや、待て待て。いけにえに使うのは魂だけだ。生きているいけにえを連れてくる理由がないじゃないか。

 やべぇ、こいつの目的が判んねぇ。

 と、俺の目の前で、ニヤニヤと笑っていたそいつは、ふと困ったように眉を下げた。

 

「え、ええと。君の名前も教えてくれるかな」

 

 ……え!?マジで自己紹介のつもりだったのか?

 俺は、そいつ――ゼロゴの言葉に、ポカンと呆気にとられた。だって、邪教徒の塔に弱小プレイヤーを連れてきて軟禁して、情報をよこせ(自己紹介)、って絶対何かよからぬことを考えてる、って思うだろ?

 しかし、俺が口を開かないことに、ゼロゴは本気で困っているようだった。

 

「こ、困ったな。何を話せばいいんだ?その……名前、教えてほしいだけ、なんだけど」

 

 最初のスカした表情はどこへやら。視線はあちこちに飛んでるし――俺はそこに居ないよ――、言葉尻はどんどん小さくなるしで、観てみて痛々しい。しかし、どこか懐かしいこの感じ。

 ……そうだ。"俺"だ。

 そう思うと、ふ、と肩の力が抜けた。

 視線は、やはり合わせることはできないけど。俺は言葉を紡いだ。

 

「し、シオ……」

「塩?塩がどうしたの?」

 

 アクセントが違う。絶対勘違いしてる。

 

「そ、そうじゃなくて、名前」

「……?……あ、ああ、シオ!君の名前!」

 

 俺の言葉に、少し考えて、手を打って理解する。動きがいちいちわざとらしい。いや、違うな。これはクセだ。リアクションを取らないと、ほかの人に意図が伝わらない……精一杯のアピールだ。

 そこはかとなく懐かしい空気に、思わず俺は笑みを浮かべた。

 

「そ、そう。名前。シオ」

「そ、そっか。そっかそっか。シオちゃんね」

 

 あ、それはあかん。なんか背筋が寒くなった。

 

「ちゃんは、やめて」

「えっ……あ、はい。じゃあ、シオさん、で」

「あ、ありがと」

「うん……」

 

 そこで、会話が止まった。

 ああー。ダメだ。話が続かない。――でもわかる。難しいよな、異性との会話。"怖い"もんな。

 判るから、俺から話題を出す。

 

「なんで、ここに」

「えっ?あ、ああ、うん。なんというか、助けた、つもりだったんだけど」

「たすけ……?」

「うん。シオさん、襲われそうだったから」

 

 ……まぁ、確かに。あの場面でさらわれたことで、俺はブロッサムの脅威から逃げられたわけで。あそこで誰かの助けがないと、俺は危ない所だった。

 

「あ、ありがと……」

「……!う、うん。恩返しできたようで、良かった」

「……恩返し?」

 

 俺、何かしたか?聞き返すと、ゼロゴは苦笑して答えた。

 

「やっぱ、わかんないか。僕、フォウニーで助けてもらったんだよ。覚えてる?」

「――!あ、ああー!ああー!」

 

 こいつ、あのアイネトを召還した集団の一人か!確かに、助けた!一人だけ、水薬(HP回復ポーション)使って助けたな!

 あの後、反応が消えたからちゃんと逃げたのだと思ってたけど。

 

「あはは、よかった。思い出してくれた。

 道中で、どうもおかしな雰囲気――あ、これ、邪教徒のアビリティなんだけど。誰かを害しようとして抑えてる気配を探ることができるんだ。

 多分、『禁じられた遊び』とか、『秘められた思い』とかに出てくる邪教団が使ってたアビリティだと思う」

 

 ははぁ。そんなものあるのか。

 邪教団は、いろいろなチェーンクエストで遭遇する団体だ。時に、どうやってターゲットを選んだりしているのかと思ったけど、そんな固有アビリティがあったんだな。

 NPCだけが持っているアビリティなんて、設定だけだったり名前がついていなかったり、あるいはスルーされてたりで不明なところ多かったからな。

 でも、邪教団のアビリティで察知できるくらいの殺意持ってたのかブロッサム。怖。

 

「た、助かった。ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして。でも、これからもう大丈夫だよ」

「え?」

「だって、ここから出なければ、誰も君を傷つけないから」

「……え?」

 

 ―― 一難去ってまた一難とはこのことだ。目の前のゼロゴは、さも当然と言わんばかりにとんでもないことを口にした。

 

「ずっと、ここにいていいんだから、ね」

 ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。

 唐突に出てくるRDBのクソ要素。そういうところがユーザー減らすんだぞ、と。

 でも実際できたら一回やってみたいと思いません?マゾゲーは魅力を持っている。

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