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照弘の経験値

 ドラゴンは、俺を明確な敵と認識してくれたのか、首を向けて低く唸りだした。さっきネモが「自分がターゲットを取ってしまった」と言っていたが、どうやら完全にターゲットが俺に移ったようだ。

 

「よしよし……かかってこい!」

 

 自分を奮い立たせるように、俺は剣を軽く振るって大声で吠えた。俺がやる気なのが気に食わないのか、ドラゴンは視線を鋭くして睨んでくると、大きく口を開けて吠え返そうとした。

 ――あ、ヤバ。そういえばこいつの咆哮は、物理的に圧力があった。挑発しても、大声合戦では物理的に俺の負けだ。しかも、牽制レベルの威力じゃなく、下手に直撃すれば動けなくなってしまうダメージだ。

 う、どうする……?

 ふと、かつてやっていたゲームで紫苑と話していたことを思い出した。

 

「……っがぁー!すまん!死んだ!」

「どどんまい」

 

 それは、複数人で一緒にプレイできる、怪獣と戦うゲームを遊んでいるときのことだ。俺は、どうしても怪獣からの攻撃が避けられずに死んでしまうことが多々あった。

 もちろんペナルティも有り、同行してくれていた紫苑にもその弊害は与えられてしまう。迷惑をかけてしまうその度に謝る俺だったが、紫苑は笑いながら、一人で戦ってはその場を凌いで、俺のことを待ってくれた。

 いつも一緒に討伐してくれるのだが、毎度足を引っ張る俺としては、そんな醜態が申し訳なくて、紫苑に攻撃を凌ぐコツを聞いてみたことがあったのだ。

 

「紫苑、俺、こいつの攻撃をどうしても避けられないんだ。でも、紫苑は時々ノーダメージだったりするだろ?どうやって攻撃を避けてるんだ?」

「ふむ、照裕。逆に考えるんだ。当たってもいいさ、と考えるんだ」

「……ど、どういうことだ?」


 言っている意味がわからない。当たったら避けれないじゃないか?そんな俺の困惑に、紫苑は困ったように頭を掻いていた。


「……いや、まあわかってたけどさ。通じねぇか~」

「ん……?」

「俺が言ったことは置いとけ、な?

 あー、えっとな。照弘は攻撃避ける時に横とか後ろに逃げるじゃん?」

「そうだな」

「なんで?」

「なんで……って、攻撃から逃げてるから、かな」


 紫苑は、我が意を得たりと言わんばかりに自慢気に言葉を続ける。


「攻撃から逃げる、って要は攻撃範囲から外れる行動だろ?」

「まぁ、そうだな」

「基本的に怪獣のブレス、ってか攻撃は扇状なわけだ。ってことは、離れるほどに攻撃範囲が広くなって避けにくくなるわけだ。そこは分かるか?」

「ふむふむ」

「ってことで、攻撃範囲が一番狭いのって何処だ?」


 そこで、俺はピンときた。


「……そうか!口元!そういうことか」

 

 ――そうだ。俺が行くべきは、後ろじゃない。

 

「【スライドダッシュ】!」

 

 俺はアビリティを使って前へ、駆け出した。

 

「ガアァァァーーーーッ!」

 

 ドラゴンが吠える。万が一に備えて体を地面スレスレまで低く倒して、飛び込むように左肩を前に手甲を盾に構えて、タックルの体勢で駆ける。

 完全に避けれるかは、見えない音の波動じゃ見た目にはわからない。もし受けるなら、防御力の一番高い部分だ。

 ドラゴンの近くから砂埃が巻き上がり、咆哮が襲いかかってきた。砂埃は、音波の後ろから付いてきているのか、それとも同時なのか。見えない攻撃に、俺は迷う。

 行けるか……?――いや、行く!

 俺は躊躇(ためら)わずに一歩を踏み出して、体を加速させ続ける。

 

「――グッ――あぁあっ!」

 

 一瞬、左腕に圧力を感じて思い切り弾かれるものの、俺の体は半回転しつつも無事にドラゴンの元にたどり着くことができた!

 俺の眼前に、黒い体が迫る。俺は痛みを堪え、剣を振りかぶって、叫んだ。

 

「っ……【スラッシュ】ゥ!」

 

 振り下ろされた剣は、しかし先程と違って切り裂くことはなく、鉄棒で壁を叩いたかのように金属的な音を立てて弾かれた。

 さっきよりも硬い……!?何でだ!?

 攻撃が弾かれたことで、踏み込んだ勢いが反動で体に襲いかかる。跳ね返る剣に引っ張られ、大きく手を上げて仰け反ってしまい、俺の体がドラゴンの目の前に投げ出されてしまった。

 まず……!?

 ドラゴンが大きく口を開けたところで、その横っ面(よこっつら)に斧が飛んできて叩きつけられる。

 (うめ)き声を上げてドラゴンが怯み、その動きが止まった。助かった……!俺は、その間に体勢を立て直してその場を飛び退く。

 そんな俺に、ネモから叱責が飛んだ。

 

「テルヒロさん、コンボミスってる!攻撃を受けたらチェーンがつながらないって言ったでしょ!」

 

 あ、そうか。攻撃を【スライドダッシュ】で回避して、【スラッシュ】でカウンターを取ることで、回避をしながらチェーンコンボを決めていたつもりだったが、回避中に咆哮が掠ったおかげで、俺が放ったのがただの【スラッシュ】になってしまった状態で攻撃していたんだ。

 結果、最初の攻撃よりも威力が下がってしまったから、表皮で弾かれてしまったのか。

 

「ごめん、気をつける!」

「攻撃することに集中しないで!攻撃を避けて、時間を稼ぐことを優先して!」

「了解!……っ!?【ハイジャンプ】!」

 

 話しているうちに体制を立て直したドラゴンが尻尾を薙ぎ払って攻撃してきた。これは、懐に飛び込んでもしょうがない。今度は高く跳躍する【ハイジャンプ】で回避する。

 避けたところで、俺に向けてドラゴンが口を開く。空中だから避けることができない、と思っているのだろうか。だが、さっきと違って、俺は体制を崩しているわけじゃない。

 ネモは、こういう時のために、俺にあのアビリティを取らせたわけだ。

 色々アビリティを取らされた時は、よくわからなかったが、こうやって実践すると、自然と使い所が分かった。

 

「【ワイヤージャンプ】!」

 

 ドラゴンの尾の近くの瓦礫に向かって、俺は左腕を向けてアビリティを宣言する。瞬間、俺の体は腕の向けた方向へ急加速し、ドラゴンの頭を飛び越えるような動きでブレスを回避できた。

 そのまま一直線に飛んでは瓦礫に直角の着地を決める。

【ワイヤージャンプ】は指定した場所へ"ジャンプ"するアビリティだ。

 地面で練習していた時は、普通にジャンプしたときより少し早い程度の移動速度で、しかも普通にジャンプする時と違って、視線と手を進行方向に向けないといけないから、手間もかかって、到底必要なアビリティだとは思わなかった。

【ハイジャンプ】を習得できたのが一番最後だったから、組み合わせで使うのはほとんど初めてだったが、【ハイジャンプ】を覚える時に、【ハイジャンプ】を使ったら必ず連続で使うことを厳命されていた。

 つまり、この事態を想定した練習だったわけだ。助かった。

 

「……!テルヒロさん!こっちに戻って!」

「え……わかった!」

 

 何故かはわからないが、突然ネモが俺を呼び寄せる。俺には理解はできないが、ネモには俺にはわからないタイミングが有るのかもしれない。

 俺は、素直に彼女の元へ駆け戻る。

 

「どうした?」

「時間稼ぎ終了。交代が間に合ったよ」

 

 同時に、背後で閃光が走った。俺が振り返ると、ドラゴンに二人の冒険者が取り付いていた。ドラゴンも、既に俺達を見ないでその冒険者達と大立ち回りをしていた。

 戦っている一人はトネラコさんだ。両手にダガーを持って、俊敏(しゅんびん)に周囲を駆け回って撹乱(かくらん)している。

 もう一人は見覚えの無い男性だ。光沢の有る黄色の鎧に両手で大剣を握って、トネラコさんに釣られて背を向けたドラゴンに斬りつけるコンビネーションが映える。

 

「あれは、トネラコさんと……?」

「オル=ゴールドン。フォウニーの冒険者ギルドマスターだよ。

 ふぅ、ギリギリだったね」

 

 確かに、もし一撃でも受けてしまえばまずかったのは間違いない。あのコンボをミスった一瞬は、ネモに助けてもらえなかったら致命傷を受けていたんじゃないか?次は、もっと慎重に動かないと、あいつにダメージを与えることはできないだろう。

 と、思っていたらネモが大きくため息を付いた。

 

「勘違いしてそうだけど、立ち回りの話じゃないからね。結果的にノーダメだったから、そっちは十分。そうじゃなくて……。

 ああ、体感したほうがまだ早いか。ちょっと素振りで……【スライドダッシュ】2回分足らずだから、【スラッシュ】を2回降ってみて」

 

 ……?何だからわからないが、言われたとおりにしてみる。

 

「【スラッシュ】!【スラ――ぐぅ……っ!?」

 

 その場で剣を振るうも、二回目の【スラッシュ】の発動はできなかった。それどころか、視界がぐるりと回り、自然と足に力が入らなくなり膝から崩れ落ちてしまう。

 気持ち悪い……。吐き気すらしてきた。これは……覚えがある。

 

「スタミナ管理。あれだけアビリティ連発してればそうなるって。しかもチェーンコンボミスってるから、普通にアビリティ連発したスタミナ消費の倍率かかっちゃってるし。

 前もって『スタミナ回復促進剤』飲んで、上手くチェーンコンボができたらあれだけ動いても大丈夫だけどさ。

 大物と戦ってるとテンション上がるから、スタミナの体感なくなるんだよね」

 

 ネモが指差すのは、未だに縦横無尽に駆け巡って戦うギルドマスターとトネラコさんの姿。

 そうか……スタミナ管理は紫苑にも呆れられていた。紫苑からアクティブアビリティを使わないように言われたのも、その辺りが原因だった。

 スキルの連発が行われているように見える、目の前で繰り広げられる一流の冒険者の動きに、俺の未熟さが突きつけられているような感覚になる。でも、いずれはあの域まで、行く。

 今のまま、この世界で紫苑を守りきれるとは思えないからな。あいつを守れるようになるまで、もっと、強くならないと。

 

「とはいえアビリティ全開で逃げないと、アイネトの攻撃は避けられないからね。あの二人でも、持って2分。

 残り時間は僅かだけど、もう一回くらい出番あるから、スタミナは回復しておいて」

 

 俺は、ネモからスタミナ回復剤をもらって一気に飲み干す。酸味の強い、ビタミンC補給的な味が口の中に広がる。これで、1分後には完全回復できているはずだ。

 と、休憩を始めた俺達に声がかけられた。

 

「その心配はありませんぜ」

 ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。

 

 テルヒロくんの思い出の元ネタは怪獣バスターズだと通じないだろうし、怪物狩人の方ですね。

 余談ですが、亜空間タックルには苦しめられました。よく当時は片手剣~太刀でプレイしてました。

 一人ですよ、もちろん。ふふ。

 とりあえず今は一人でママタロサァンを倒す装備を作っているところです。 

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >>ように左肩を前に手甲を盾に構えて、タックルの耐性で駆ける。 耐性→体勢
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