知らないイベントの進捗
「……っかー。腹減った」
「はは。まぁ、いい時間か。昼飯でもつまみながら、今後の予定でも話そうか」
ギルドを出た頃には、ちょうど昼時に入っていたらしく、テルヒロが腹を抑えてひとりごちた。
俺は、そんな彼に苦笑を漏らして、とりあえず辺りを見回した。
「うーん、何を食うかな」
「あー……胃に優しいやつで頼むわ」
「はいはい」
まだ二日酔いは継続中らしい。とはいえ、食欲が有るのはすごいと思う。俺は、二日酔い中は何も食えないからな。こいつのアルコール耐性すげえな。
周囲を見回していると、何か大鍋で湯がいている屋台を見つけた。おかゆか、スープの類かな?あれなら胃に優しそうだ。
「テルヒロ、あそこ。あの緑……あ、いや黄色い屋根の屋台のやつなら良いんじゃないかな」
「んん~……?あ、あれね。了解。じゃあ、ちょっと行って買ってくるわ」
「よろ。俺はあれ、あそこの木陰で待ってるわ」
「分かった。……あっちぃな、今日は」
テルヒロが屋台に向かって走って行くのを見届けて、俺はコソコソとひと目のつかないところでテルヒロを待つことにした。
実際、今日は暑い。この辺りの地域は、そんな設定はなかったはずなんだけど。日差しを避けるように公園の木陰へと向かう。
ふと、視線を巡らせて周囲の動向を探っている――人の視線が気になってからの癖だ――と、視界の端で何かが動いた気がした。
思わずそちらに視線を向けると、俺とは別にコソコソしている存在がいた。
――その姿を見て、俺は一気に血の気が引いた。
相手は俺が見ていることには気づいていないらしく、そのまま路地裏に姿を消していった。俺は、その姿を呆然と見送ることしかできない。
よしんば彼の後を追ったとしても、俺一人では――少なくとも、今の俺一人ではどうしようもないことが明白だったからだ。
「おまたせ、シオ。……ん?どうした?」
しばらく呆然としていると、背後からテルヒロが両手にお椀を持ってやってきた。俺は、その声に我に返った。
「……あ、ああ。ちょっと、うん。緊急事態、かな」
「は?」
俺はお椀を受け取り、思わずスッと素直な解答が口をついて出てしまった。そんな俺に、眉を潜めて訝しげな声を出すテルヒロ。
不安から、オブラートに包まない不安を漏らしてしまったことに、失言を悟る。下手な心配をさせてどうする。
「……テルヒロ。ギルドにもう一度行こう。飯も、あっちで取るぞ」
「お、おう?分かった。何か確認漏れがあるんだな」
さすがテルヒロ。分かってるじゃないか。ただ丸投げとかじゃなくて、まずは言うことを聞いてくれるところは嫌いじゃない。俺はこく、と頷いて袖をひっつかんでギルドへと急いだ。
ギルドで備え付けの机――パーティ募集待ちだったり、受付待ちだったり、待ち合わせだったりで使われる場所だ――で食事を摂る俺とテルヒロ。
俺は目的を先に果たすことにし、その間にテルヒロは食事を摂っている。
「ズズッ……はふ、はふっ……っ、あ"あ"~……染みるわ~……」
テルヒロは、二日酔いで疲れているくせに空腹を訴えている胃に、オートミールのようなものをゆっくりすすりながら、安堵の息を吐いている。スプーンはついていないので、木の椀に直接口をつけて啜っては、ほっこりした笑みを浮かべている。
ちなみに、俺が選んで、テルヒロが買ってきたものの正体はこれ。
【白麦粉の団子汁】(重量 1 / 食べ物)
作成者:NPC販売
品質 :低
効果 :HP回復(MAX HPの10%)。
説明 :白麦の粉を水で捏ねた団子をお湯で溶かして作られたスープ。
俺の【鑑定】ではこれが精一杯だったが、特におかしな材料が使われているものではなかったので安堵したのは、テルヒロには内緒だ。
なにせ、隣にあった緑の屋根の屋台が不穏な単語だったからだ。屋台の正面には「鍋物」という単語しかなかったわけだが、その脇にあった素材を俺は知っていたのだ。
……まぁ、言及はしないが、虫、に属するものだと思ってくれていい。うん。
それはともかく、俺はこの団子汁を同じく啜りつつ、ギルドの依頼板を見て、張り出されている依頼を隅々まで目を光らせていた。
「……ふー。シオ、確認って、依頼だったのか?何か、あったか?」
ゆっくりとはいえ、所詮は小鉢一杯の汁物。あっという間に完食したテルヒロは、俺の様子を見てそんな質問をしてきた。
うん、まぁ依頼を見てるのは間違いないんだけどね。見ているのは"有る"ものじゃないんだな、これが。
「いや、なにもない」
「ん?じゃあ、もう大丈夫ってことか?」
大丈夫……って、「"何もない"から異常事態は杞憂だった」って判断かな。違うんだな、これが。
「いや、そうじゃない。有って然るべきものがないから"異常事態"なんだ」
「有って然るべきもの?」
「ああ。このままじゃ、この街から出られないどころじゃない」
最初にギルドで依頼板を見ていた時は、ギルドランクアップのための依頼を探していた。
この町でやることは、たった一つ。次の街『キンブシ』に向かうために、ギルドランクを上げることだけだったからだ。何がおかしいのか、を教えるためもあり、ここで、俺はテルヒロに今後のスケジュールを話すことにした。
主に、俺が食べ終わる時間を稼ぐためもある。俺、猫舌なんだよ……。何だよこの汁物。何時まで経ってもくっそ熱いんですけど。表面に油張っているわけでもないのに。味?塩粥の薄いやつって感じだ。食べやすいのは間違いない。
――さて。
目的地は『闇界の洞窟』の最奥100階層なわけだが。このダンジョンは王都『ブーンカッケー』の国立図書館に隠されている。王都に向かうまでには、今いるフォウニーからキンブシを経由する必要がある。
フォウニーの存在価値は、最初のクラン作成場所であること、アカウント倉庫の開設に他ならない。ちなみにこの2つは、当然と言ってもいいが冒険者ギルドの本部の有る王都でもできることだ。
途中で立ち寄ることになるキンブシに関しては、王都に向かう直通馬車が有るからだ。装備を整えたり、サブイベントを熟すなら他の街――いつぞや話題に出た火山街『ヤイタイ』に向かってもいい。
でも、俺達は別にゲームを楽しむためにこの場にいるわけではないので、最短経路でとりあえず『闇界の洞窟』を開放し、何時でもチャレンジできる環境を整える。その後は、地下100階を目指すべくレベル上げをすることになる。
そういう訳で、なにはともあれ王都を目指すのが第一目標となるわけだ。当然、各町で目指すのは、次の街へ向かう護衛依頼をオープンすること。
ぶっちゃけてしまえば条件はギルドランクと、規定の依頼――巷ではキークエストと呼称される依頼群だ――が終わっているかだけなので、根本的にやることはギルドで様々な依頼を終わらせることだけに終止する。
そういう言い方だと、RDBのゲームの底が知れるような言い方だが、これはRTAレベルで急いだ場合の攻略手段だ。いろいろな寄り道をすることで、色々なギミックと出会うことができるので、元プレイヤーとしては、ぜひともこうした命の危険がない環境であれば、隅々まで楽しんでもらいたいところだ。
それはともかく、今の俺達には護衛任務をオープンする依頼を熟すことが最優先なのだが、その肝心のキークエストが張り出されていない。ラカーマのギルドの時のような、すべての依頼が時期によるものになっている可能性も考えた。……それはそれで、どこかで詰みそうだから怖い話では有るのだけど。
しかし、先程路地裏で見た男の姿で、改めて掲示板で確認するものが増えたのだ。それが有るはずの依頼『古びた洋館の調査』の有無。そして、無いはずの関連依頼の有無だった。
これらは俗に、チェーンクエストと呼ばれている一連の依頼であり、古びた洋館の調査を受諾し、クリアするところから話は始まる。クリアする度に、関連性のある依頼が次々と張り出され、とある遺跡の調査の最後にクライマックス――ボス戦が発生する一連のイベントなのだ。
そして、今掲示板に貼ってあるのは紛れもなくチェーンクエストの途中で発生する『失われた古書を探せ』。件のチェーンクエストの途中で発生する依頼だったのだ。
つまり、何者かがチェーンクエストを発生させ、進めているということだ。
これの何が問題なのか。それは、俺達はこの街に来てまもなく、当然チェーンクエストを発生させる環境も下地もないのに、誰かが進めているチェーンクエストの影響を受けていることが問題なのだ。
チェーンクエストは、当然その形式上、急を要する内容が含まれることが多々ある。そのため、システム的にギルドランクアップと護衛任務を始めとする街を移動する依頼が全て依頼版から消失してしまうのだ。
何よりも。何も準備もできていないまま、チェーンクエストのボス――レイドボスの戦闘にかち合う可能性が大きいということだ。
ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。
ユニーク5,000を超えました。ひとえに皆様から読んでいただいているおかげで、色んな方々の目につくことができたからかと思います。
一層の精進を心がけてまいりますので、今後とも宜しくお願いいたします。
最近の見直しは、シオくんのさりげないアプローチforテルヒロくんムーブを追加で差し込むことですが。
おかげで誤字報告頂いております。いつもお世話になっております。すみません。




