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人質

 『新緑の眼』:主に初心者のフォローをしているクラン

  ラルド(盾斧使い・クランリーダー・一号車リーダー)

  メシン(盾剣使い・回復役僧侶)

  タイジュ(サポート役僧侶)

  レグリンカ(狩人)


 『タイガーファング』:攻撃特化のクラン

  トネラコ(格闘家・リーダー・二号車リーダー)

  ネブチ(大剣使い)

  アミィ(魔法使い)

  フィンス(魔法使い)

  デネブ(盾斧使い・三号車リーダー)

  

 その他:

  キンカー(護衛依頼の依頼主)

 しばらく号泣した盗賊女――ニュウというそのプレイヤーの話によると、彼女は姉妹でゲームをしていたプレイヤーらしい。妹さんが最初にRBDプレイヤーであり、姉であるニュウは誘われるようにしてゲームを始めたのだとか。

 しかし、ゲーム開始から一か月もたたないうちに、『Open Eyes』事件に遭遇してしまった。さらには事故の影響でこの世界に来てから、すぐ盗賊に捕まったらしい。

 あわや殺されそうになったところで、妹を人質に、ニュウは盗賊の手先として働くことを提案されたのだという。妹は、今も盗賊のアジトで一人牢に入れられている。

 見ていないところでも無事かどうかはわからないが、少なくとも彼女が成果を上げる度に、一晩は一緒に過ごせる契約らしい。

 ちなみに、彼女(ニュウ)の見た目は俺達より若い。トネラコさんが年齢を聞いてみれば、15歳だとか。なお、妹さんの『ネモ』は8歳。

 今で良かったな。普段からそんな事尋ねてたら、現代日本じゃ面倒なことになるぞ?

 

「ひでぇことしやがる」

 

 それはともかく、ニュウの涙ながらの話を聞いて、トネラコさんが自らの左(てのひら)に右の拳を叩きつけ、激高した。

 8歳という年齢は、この世界なら働いていてもおかしくはない年齢ではあるが、色人種の血が濃い種族であれば、少なくとも年齢が二ケタを満たしていなければ未成年の扱いには違いなかった。

 常識的な冒険者の感覚で言えば、未成年の扱いは正しく保護対象であったのだ。トネラコさんが感じている怒りは、そう言ったところからきているのだろう。

 

「自分の犯した罪は、十分理解しています。この手にかけてしまった被害者もいます。

 でも、お願いします。私はどうなってもいいから、妹だけは、どうか助けてください……」

 

 縄も解かれたニュウは、土下座で頭を下げながら、そう懇願(こんがん)した。

 俺は、と言うと。――正直に言おう。面倒くさい。

 この世界に迷い込んだことで人質を取られ、巻き込まれるような形で犯罪に加担した件については同情の余地はある。

 ()むに()まれず、この世界の住人を害してしまった罪の意識を持っている。だから反省している。これも分かる。

 しかし、だからと言って盗賊の本拠地に殴り込む、あるいは忍び込んで捕まっている妹さんを助け出す。……果たして、そこまでの義理はあるか?

 悪いが、自分にそう問いかければ、答えは否、だ。

 何せ、俺たちもそう、余裕があるわけではない。いつ現実世界の体の容体が変わるかもわからないのだ。なるべく早く旅路を急いで、早い所戻る手段を確立させたいところだ。

 ラルドさんが、俺たちを見回して口を開いた。

 

「この話をどこまで信用できるかわからない。日程は狂ってしまうが、一旦メンバーと話し合いたいと思う。

 どうだろうか?」

「俺は今から乗り込んでも構わねぇぜ」

 

 おいバカやめろ脳筋。トネラコさんの暴論に、思わずそう口をはさみたくなってしまったのも無理はないだろう。

 俺がテルヒロに期待の目を向けると、テルヒロは「わかってるよ」と言わんばかりに苦笑して、頷いてくれた。流石だぜ。

 

「ラルドさん。俺たちも賛成です。他の人にも話を聞いてもらって、参加者を募りましょう」

 

 はいバカー。俺の希望した言葉はそっちじゃないー。

 俺は内心、がっくりと肩を落とす羽目になってしまった。

 そうですね。そういえば、こいつはドのつくお人よしだった。ド人よしだ。最近、二人でいることが多かったから、そうやってホイホイ面倒事に顔を突っ込む癖をすっかり忘れてた。

 ……とはいえ、全員が全員が乗り気になっているこの空気で俺が口を挟めるわけでもなく。

 ニュウは、こちらが手助けをする流れになっている事にきょとんとしていたが、徐々に「味方が増えた」ことを理解していったのだろう。またもやボロボロと涙を流して感謝の言葉を紡ぎだした。俺以外の三人は、そんな彼女を見て微笑ましそうな顔をしていた。

 俺?大丈夫。(テルヒロシールド)はってますよ。

 言うまでもないが、この世界でも子供の拉致監禁、奴隷扱いなどは禁忌レベルの犯罪である。他の冒険者面々はおろか、荷物を狙われたはずの雇い主のキンカーさんでさえ、依頼期日の遅れがあっても商会で保証するから助けに行くべき、なんて言葉まで飛び出す始末だ。

 こうして俺達一行は、依頼を一時中断して、ニュウの妹のネモを助けに行くことになったのだった。

 ……ところで、皆さん忘れてませんかね。盗賊のアジトってことは対人戦ですよね?俺が、昨夜どうなったのか、とか。覚えてねえんだろうなぁ。

 まさか、一回血なまぐさい現場を見て、もう慣れただろう、とか思ってるんじゃないかなぁ?

 とほほ。

 

 *--

 

 ニュウのことは後で考えるとして、まずは盗賊の対処を行うことにした。なんと全員が討伐に乗り気だ。なんでも、盗賊の討伐は冒険者の義務らしい。マジかよ。

 ちくしょう、こいつ突発イベントだな間違いねぇ。

 それはともかく、ニュウが言うには、盗賊のアジトはラカーマ第一野営場の近くにあるらしい。そのため、部隊を二手に分けることになった。

 まずはキンカーさんの依頼を予定通りの日程で進める第一部隊。こちらには馬車をすべて寄越(よこ)すことになるので、一号車隊、二号車隊が着くことになった。

 実は、盗賊側にもまだ襲撃計画があるのだとか。それは、襲撃に失敗したと見せかけて、フォウニー近辺で安心しているところに再襲撃をかけるというもの。

 これに対しては、予定通りの日程で進む事により、盗賊らの行動の裏をかく目的がある。ニュウが裏切っている事を知らない盗賊側は、予定通りの行動をするはずだ、と言うのがラルドさんとニュウの意見だ。

 つまり盗賊側にとってニュウの部隊は、いわば捨て駒。戦力の確認のために使われていたのだとニュウ自身は言う。とはいえ実際、トネラコさんたち相手では最初の襲撃も上手くいかなかっただろうことは最初から予見されていたらしく、ニュウは隙を見て離脱するつもりだったのだとか。

 じゃあなんでバックアタック狙っていたのかというと、とりあえず一撃加えておかないと逃げることは許されなかった、というニュウの言葉。それに首を捻るも、その言葉を(いぶか)しんでいるのは俺だけだったのでこれは置いておく。

 そしてもう一方、盗賊に急襲を仕掛ける第二部隊。こちらには、トネラコさんをリーダーにして、三号車隊全員とニュウが組み込まれた。

 地理的な案内のため、ニュウの参加は不可欠だった。また、リーダー格としてラルドさんではスピードが足りないので、トネラコさんがリーダーになっている。

 なんで俺とテルヒロがこちらに組み込まれているかと言うと、ネモのためだ。同郷の者が多い方が安心するはずだ、というトネラコさんの意見が全面的に通ってしまった結果になる。ちくせう。

 そんなこんなで足掛け半日をかけて、既に通り過ぎたはずのラカーマ第一野営場に、日が暮れる前にとんぼ返りでたどり着くことができたのだった。

 ――ちなみに、さっき言った通りキンカーさんは別行動だ。当然、馬車もそちらにすべて回されることになる。

 何が言いたいかと言うと、馬車がないので、徒歩だ。クッソ疲れた。

 陽が沈んでも足を進める強行軍。道中何度もエンカウントしたリーウルフの血がこびりついたブロードソードを振って、血のりを振り払うテルヒロは、すっかり一人前の冒険者にも見える。

 死体は残らないのに、血が残る理不尽よ。くさい。


「お疲れさん。今日はここで一泊して、明日は盗賊団を急襲するぞ。テルヒロ、着いてこい。テントを立てる」

「はい」

 

 未だに元気なトネラコさんはそう言って、テルヒロと一緒に寝床を作りに行った。俺とニュウは、晩飯作りだ。

 うんうん、適材適所だね。……だから、ちょっと待っててくれるかな。

 

「あの、大丈夫ですか?」


 心配そうに俺に声をかけてくるニュウ。ふふ、これが大丈夫に見えるかね?俺の今の様子を見て、そんなことが言えるニュウもまた、脳筋組だな。いや、俺の【フィジカル】が低いだけです足手まといでごめんなさい。

 どういうことかと言うと、馬車半日の距離を、徒歩半日で駆け抜ける強行軍に疲労困憊の俺は、野営場にたどり着くや否や、地面に突っ伏して動けなくなっていたのである。ぐぴょい、ぐるしい。

 これ、明日とか筋肉痛やばいんじゃないのかな……。

 まぁ、そんな泣き言を言ってもしょうがないのだが。一人モチベーションが低いことを悟られても厄介だし。

 

「かっ、回復するまで、もうちょっと待って……」

「あっはい」

 

 さしあたっては割り振られた仕事を完遂しよう。俺が休憩をお願いすると、ニュウは快く了承してくれた。

 ……俺が口が上手けりゃ、俺の代わりにニュウに仕事(料理)全部任せてサボれたりするんだろうけど、俺が彼女を顎で使えば、今はテルヒロ達にも俺のモチベーションの低さがバレる可能性がある。

 そうなると、一人だけの力ではない俺は「なんだこいつ」的な目で見られることだろう。こんな、パーティの体を為しているような人数の中で針の(むしろ)とか、勘弁だ。

 何より、なんとなく嫌な予感がするので、テルヒロの飯を任せたくないんだよな……。

 俺は、とりあえず最低限動ける程度まで回復するまでは、待ってもらうことにした。ついでに治癒系統のアビリティも使ってレベル上げしておこう。

 それにしても、こんなにきついならパッシブアビリティで体力の底上げとかするべきなんだろうけど、やはりステータスポイントに余裕がない。

 しかし、盗賊のアジトかぁ……ゲームなら、イベントクリア時に【イベントボックス】がもらえるんだけど。

 イベントに関して、その辺のシステム的なサポートをしてくれる、天の声もGMメッセージもヘルプポップアップも出てない今、物理的に盗賊のアジトにあったりするんだろうか。ARウィンドウが使えるのなら、その辺りのシステムメッセージもちゃんと出てほしいもんなんだけどな。

 【イベントボックス】が何かというと、廃人御用達のコンテンツ……いわばガチャ――ランダムでアイテムがもらえる宝箱的なアイテムだ。

 極めて確率が低いものの、もらえるアイテムのリストの中には「魂のしずく」というものがある。効果は、特殊なステータスポイントの付与。技能ポイントと言う、アビリティ取得にしか使えないステータスポイントが、なんと1点貰えるのだ。

 下位のパッシブアビリティは、取得のために消費するステータスポイントが全て1点なので、パッシブアビリティがほしい時には、喉から手が出るほどほしい一品である。

 問題としては、譲渡(じょうと)不可であること。もし、イベントボックスがあったとしても、他の人が出してはダメなのだ。自力で当てないといけない難易度が、厳しい。

 こういう時は物欲センサーやらビギナーズラックやら――俗にマーフィの法則ともいわれる、欲しいと思っている人には手に入らず、必要だと思っていない人に良く出る現象――が働くことが多々あるからな。

 さて、よけいなことに頭を使っていたらいい加減、体のだるさも取れてきた。

 俺はむくり、と体を起こすと、手持無沙汰に料理の準備だけはしていたニュウに顔を向けた。

 

「……えっ、何してるの」

「あっ……はい。料理をしようとしたんですけど」

 

 いつの間にか泣きそうな顔になっているニュウの手元には木の皿があり、その上には真っ黒い物体が鎮座していた。知ってる。あれ、『しっぱいした料理』だ。

 あーあ、やっぱりな。

ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。


シオくんの様子がおかしいと言うか、今までに比べて態度がすごく悪いと感じるかと思いますが、意図的なものです。

個人的には、人見知りには"陰陽"があると思っています。シオくんは私と同じ"陰"の人見知りです。


1. 自分が他人一個人を恐れているのは、その他人が自分にいい感情を持っていないからだ。

2. だから自分も疑心暗鬼になることに違和感が持てない。

3. 結果、悪態で自己防衛をする。

4. しかし、それが外に出ないようにする外面を維持しようとするので、話し辛い。


こういう、ある種身勝手なロジックで他人と話すのが嫌な人が陰の人見知りとカテゴリしています。

私の場合は、これが被害妄想である、と考えるようにしてから、徐々に改善されていったのですが、今でもまだ不意に心のシオくんが出てきますね。

そんなわけでシオくんの悪態は、昔の自分を思い出すようで書きやすくもあり、こっ恥ずかしくもありです。

長文失礼しました。

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