捕虜
『新緑の眼』:主に初心者のフォローをしているクラン
ラルド(盾斧使い・クランリーダー・一号車リーダー)
メシン(盾剣使い・回復役僧侶)
タイジュ(サポート役僧侶)
レグリンカ(狩人)
『タイガーファング』:攻撃特化のクラン
トネラコ(格闘家・リーダー・二号車リーダー)
ネブチ(大剣使い)
アミィ(魔法使い)
フィンス(魔法使い)
デネブ(盾斧使い・三号車リーダー)
その他:
キンカー(護衛依頼の依頼主)
「……っは!?」
気が付くと、テントの中だった。
「大丈夫ゥ?」
「初めての街の外だもんね。ちょっと刺激強かったね」
傍から顔を覗き込んで、優しく声をかけてくれるのは、アミィさんとレグリンカさんだった。聞こえてくるガタゴト音で、今、動いている馬車の中にいるということが解った。
……え、もう出発してる?夜営は?
「今!何時!?」
他の人に働かせて自分は情けなく気絶していた、と言う事実に顔を青くして飛び起きる。そんな俺を、驚いた顔できょとんと見ていた二人だったが、やがてクスクスと笑いだした。
「もうすぐお昼休憩かね?テルヒロくんに聞いたけど、シオちゃん、昨夜はちゃんと寝れてなかったんだってね。
もう、ダメだよね?寝不足は美容の大敵なんだからね」
そう言って、レグリンカさんは俺のおでこをツン、と突ついた。
一方、アミィさんは馬車の天幕から顔だけ出して、
「シオちゃんが目ェ覚ましたァ!昼休憩入るぞォ!」
と大声で叫べば、馬車の周りから「おォ!」とワイワイと賑やかな同意が返ってきた。
……どういうことだ?
馬車が動きを止めたので、恐る恐る地面に降りてみる。
「大丈夫か、嬢ちゃん!?」「気分悪くない?」「ごめんなぁ!怖かったよなあ!」
「ひぃィ!?」
と、ワッ、と周りから冒険者達が近寄ってきたので、俺は思わず恐怖の声を上げてしまった。
「おらァ!一気に来るなァバカ共ォ!散れ散れェ!」
「ほら、シオちゃんはこっちね」
怒涛の熱気に思わず引きつった声を上げると、青筋を浮かべてアミィさんが壁になって男どもを蹴散らしていく。
そんな光景を呆然を見ていると、レグリンカさんに腕を取られた。釣られるままに着いていけば、三号車の休憩場所にたどり着いた。そこには昼食の準備をするテルヒロとタイジュさんの姿があった。
「シオ!もう、大丈夫なのか?」
テルヒロは、俺を見て心配そうな表情をしたものの、先程のNPC連中とは違って、ゆっくりした速度で近づいてきた。こいつは、いきなり近寄ったら俺が怯えることをわかっているのだ。相変わらず紳士か。
だから、俺はこいつを安心させるように、なんでもなかったように応えるのだ。
「おう。もう大丈夫。ごめんな、心配かけて」
「いや、大丈夫ならいいんだ。
……そうだ、ちょっと鍋の味付け見てくれないか?俺じゃ、上手くできてる気がしなくて」
「ん?……え、マジ!?ああ、タイジュさんの手伝いか。
――あ」
テルヒロの言葉を聞いて驚いた俺は、テルヒロの方に駆け寄ろうとして、後ろの気配を思い出した。足手まといの俺を介抱してくれたのだから。感謝の言葉くらいは言わねばなるまい。
いくら俺でも、そのくらいの礼儀はわきまえている。
「レグリンカさん。ご、ご迷惑をおかけしました」
俺は、レグリンカさんに感謝を述べると「いいの、いいの」とにこやかに手を振りながら二号車の方に向かっていった。
俺は、そんな彼女を見送ると、テルヒロの元へ向かった。
ちょうど彼らは、具材を切って鍋に湯を沸かしているところだった。香魔法のおかげで、魔法使いがいれば水の心配をしなくていいのは素晴らしいところだ。
すこし救って味を見る。【料理】アビリティが反応して、ヘルプメッセージが視界の端にポップアップする。
「んー、もうちょい塩。
……んで、あの後どうなったんだ?」
俺は味付けのアドバイスをしながら、気絶していた間の話を訪ねてみた。
「あの後は、結構ドタバタしたよ。ライズさんなんか、実は攻撃が通っちゃっていたのか?って勘違いした挙句、タンク失格だとか言って落ち込んじゃうし。アミィさんは、倒れたお前見て怒りだして男連中投げ飛ばしちゃうし。
最終的には、フィンスさんが水の魔法でその場の全員を洗い流して落ち着いたかな」
こっわ。アミィさん、本当に魔法使いか?(怒ってそうなときは)近づかんとこ……。
「シオが倒れたことについて、あの場のニオイがダメだったのはアミィさんたちが判ったみたいだから、とりあえず二号車に寝かせて、後は様子見しながら回復魔法で治療っていう方向になったんだ。
……あ、そうだ。捕まえたプレイヤー?は、とりあえずシオが起きるまでは話は進めないでおこうってことになって。今は、そこにいるよ」
そう言ってテルヒロが指したのは、三号車の馬車だった。
「そか。鍋は後4分くらい煮れば大丈夫」
俺は調理についてテルヒロに伝えると、三号車の馬車の天幕の中をのぞいた。
そこには芋虫がいた。……失礼。
簀巻きにされて、猿轡まで噛まされて、不意打ち目的で盗賊達と一緒にやって来た女プレイヤーが、その場に一人転がっていた。
「んむ!んむー!」
「うーん、これはひどい」
ちょっと話を聞いてみようかと思ったけど、これは勝手に放っちゃいけない奴だ。ついでに、このテンションで話されても俺が返せないだろう。
今も海老反ってもがいているし、言葉にならない声でむーむー言って暴れてる。これ、猿轡でも外そうもんなら、猿轡解いた俺の指に噛み付いて、指の3~4本くらいは持っていかれそうな勢いだ。
というか、電光の魔法を食らったこともあってか服がボロボロのままだから、捕虜と言うかもうすでにこれ、完全に奴隷的な奴にしか見えない。
……とりあえず、ご飯食べ終わってからにするか。俺は見なかったことにした。
「んむぅーー!!」
俺が、一つ頷いてテルヒロの元に戻ろうと天幕を閉じたところで、一際大きい声が天幕の中から聞こえてきたのだった。
*--
「おとなしくしていろよ。お前にはいろいろ聞きたいことがある」
昼食後、休憩がてら盗賊女の尋問をすることになった。参加メンバーは、ライズさん、トネラコさん、テルヒロ、俺だ。
ライズさんは、低い声ですごんで言い聞かせると、盗賊女は顔を青くしてコクコク頷いた。……首元に、ライズさんのダガーが添えられているから、あまり激しく動くと斬れちゃうと思うんだけど。スプラッタはもう勘弁だよ。
ライズさんは、女盗賊の髪を鷲掴むと、そのダガーで猿轡を切って外した。
「ぶはぁっ!っ、た、助けて!殺さないで……!」
「そいつはお前さん次第だ」
話せるようになって、最初の言葉は命乞いだった。
そりゃそうだ。助けを乞うて近づいて、その実はだまし討ちのつもりだったわけだから。その場で殺されてもしょうがないくらいのことをしている上、今生きているのもたまたま俺たちがいたからなのだから。
ついでに、ひょっとしたら乱戦の中死んでたかもしれないけど、結果、気絶して。目が覚めれば芋虫にされていて、今や刃物を突き付けられてる。
中身が俺たちと同じ日本人であれば、恐怖は一入だろう。ライズさんの気迫は、見てるだけでも、俺も少し怖い。
「こいつ、本当にお前さんの仲間だったのか?」
周りが見知らぬ相手ばかりだろう。目線は忙しなくキョロキョロ動いて誰に焦点を当てるでもなく、顔を青くしている彼女は、どう見ても俺たちのことを知らないように見える。
「仲間、とではなく同郷です。余り憚って言うことじゃないですけど、俺たち、故郷を探して冒険者になったんです」
念の為、前もってテルヒロと話していた俺たちのバックストーリーを、ライズさんとトネラコさんに話す。果たして、異世界からの訪問者という体の身の上が通じるかわからないので、捏造話を共有しておいたのだ。
内容はこうだ。
冒険者ギルドもない場所で、生活のためにダンジョンに潜っていた俺たち二人は、【転移】の罠に引っかかってしまった。目が覚めればお互いに離れ離れの上、見たこともない地に来ている。その後、無事ラカーマで奇跡的に合流できた俺達は、元の家に戻るために、冒険者ギルドに登録して力をつけ、故郷の情報を集めているのだ。
そして、目の前の女プレイヤーは同郷の可能性があるので、助けてほしかった、とこういう流れだ。
使い古されたゲームのシナリオを継ぎ接ぎにしたようなバックストーリーに、ライズさんもトネラコさんも「むむむ」と唸る。何が「むむむ」だ?
「お前たち、苦労してたんだな……」
「見ず知らずの土地で二人きり、か。そりゃ、少しでも手掛かり欲しいよなぁ!」
なんか、すごく信じてもらえたようだ。二人とも、――というか、女プレイヤー以外の全員から、同情の眼差しでこちらを見られている。
……確かに、結構お涙頂戴に内容を脚色しているので、琴線に触れればそうなろうだろうけど。思ったよりも真剣に信じられてしまったような雰囲気に、騙していることもあってすごく心が痛い。
ライズさんの手は、まだ盗賊女の髪をつかんでいるけど。
俺が、この辺りでは見ないタイプの色人種だったことも説得力があったらしい。
と、いうのもこの辺りの色人種は混血が進んでおり、大体どこか別種族の特徴があるのだとか。俺やテルヒロは、ゲームのキャラメイクのシステム上、ハーフが作れなかった。この大陸では珍しい、純潔の色人種と言うわけだ。
ちなみに、目の前の盗賊女も純正の色人族。これが決め手となって、無意味な説得力が増したようだった。
さて、聞きたいことはいくつかあるが、相変わらず俺は、怖くて話しかけられない。例え、拘束されて囲まれている現在、確かに危害を加えない確約があったとしても、そもそも俺には、他人の目がどうしても怖いのだ。
そういうわけで、尋問もテルヒロに頼んでいる。テルヒロが話す口なら、俺は話を聞いて考える頭だ。
「ニュウさん」
テルヒロが口を開くと、まさか名前を呼ばれると思っていなかったのか、盗賊女が目を開く。
「――あんた、なんで」
「ニュウさん。俺達も、"プレイヤー"です」
その言葉を聞いて、何を思ったのだろう。限界だろうと思うまで目を開いた盗賊女の目じりから、るる、と涙があふれた。
一言だけで泣き出すと思わなかったのか、ライズさんもトネラコさんも呆気に取られていた。
彼女がどんな生活を送っていたのかはわからない。でも、テルヒロの一言は、彼女にとって、きっと待望の言葉だったんだろう。
ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。
本編に絡む話にする予定がないので、ここでサラッと解説しておきます。
この世界では、冒険者ギルドに登録せずにダンジョンに潜っては、事故に合う孤児は結構な社会問題だったりします。
そういった社会事情もあり、シオくんの捏造は信用されたのでした。




