第7話 支配された町
約半日後、三人は次なる町、 ダンバル にたどり着いていた。この町は、今まで見てきたどの町よりも殺伐とした雰囲気で、どこか人を寄せ付けないものがあった。
「これも、貴族の影響なのかしらね」
「そうだとしたら、ここの貴族もやっぱり良い人ではないみたいだね」
町の中心部へ来ると、そこには人集りができていた。何があったのかと覗くと、中年ぐらいの男が磔にされていた。そして隣には斧を持った白服の大男が満足そうに笑みを浮かべていた。
「おとーさぁぁーん、死んじゃいやぁぁ。誰かおとうさんを助けてぇぇー」
人集りの前列で泣き叫ぶのは1人の少女だった。
「ダメだ、ミラちゃん。今は我慢するんだ。ここで逆らったらミラちゃんまで巻き添えになっちゃう。そんなことしたら命をかけたあいつも報われないよ」
少女ミラの隣にいた男が泣き叫ぶ少女の口をなんとか押さえ込んだ。
「うるせぇガキだな、お前も一緒に始末するか。」
斧を持った大男が不敵な笑みを浮かべて歩み寄った。
「どうか、娘だけは勘弁してください。私ならどんな罰でも死でもうけいれますから。」
「そうか、どんな罰でもって言ったな。」
「ならばー」
十字架に縛り上げられていた男は鎖を外され自由となった。
「ここにいる人間を1人殺せ、そうすれば娘は、いやお前の命も保証するとしよう。さぁ、殺せぇ」
「すまない、誰か。誰か殺させてくれー。娘を、ミラを助けたいんだー!」
「貴族ってのはつくづくグズやろうばっかだぜ!」
「まったくその通りだわね」
人混みの中から三人が姿を現した。
「どうやら僕たちの出番のようだね」
「誰だ、お前らは!この俺、アラク・ディオール様に逆らおうってのか。あぁ?」
「僕たちは元々あなたたち貴族に従っているつもり最初から全くないから逆らうってのとは少し違うかな。言うならば、受けるべき当然の裁きを下すって感じかな」
「当然の裁きだぁ?旅びと風情が舐めたもんだなあ!そんなに殺されたければ殺してやるよ。」
大男アラクは、その巨体を生かした大きな斧を軽々と持ち上げると三人に向かって大きく振りかぶった。
「おらあぁぁ、くらいやがれえぇぇ!」
「ここは俺様に任せとけ!」
前にでたフリートは、勢いよく振り下ろされたその斧をいとも簡単に、片手で受け止めた。
「どうした、こんな軽い斧の軽い攻撃で俺様を借り殺せるとでも思ったのか?甘いぜ、五流野郎!」
「この俺の大斧を片手で止めただと?あり得ない!あり得ないぞー!なんなんだお前たちは!!」
「俺様たちはな、おめぇらみたいな悪を裁く断罪師だぜ。この町の人々を苦しめたことを、その親子に辛い思いをさせたことを一生後悔して、懺悔しな。」
「これで終わりだぜ!」
フリートがとどめの拳を振り下ろそうとした。
その時、アラクはまるで勝ち誇ったかのように高笑いをした。
「ハッハッハッハッ、お前たちは最後まで気づかなかったみたいだな。だいたい貴族であるこの俺が創界術を使わないなんておかしいと思わなかったのか?」
「お前、一体何をする気だ?」
「俺が得意とする創界術は『爆界』、つまり爆発だ。そして、俺はいつでもこの町の人間を殺せるように町の至る所に術で作った爆弾を仕掛けてある。ほら、あの赤い屋根の建物のあたりを見てみろ。」
フリートたちの後ろの方にあった赤い屋根の建物を指差した。
「ボンバー」
ドカンッッ
爆炎が広がると同時に赤い屋根の建物は木っ端微塵になり煙が立ち上った。その威力は、前の世界で見たことのある手榴弾以上のものだった。
「どうやらハッタリではないよね。これが町中に仕掛けられているんだとしたらやばいわ。」
「今頃気付いたってもう遅い。俺は最初からこうなることを想定して戦うと見せかけて全ての爆弾を起動させたんだからな。あとは俺の合図次第でこの町は火の海となる。そうなりたくなかったらおとなしく俺の言うことをきくんだな。」
「って言ってもすぐにでも死んでもらうだけだかな。ハッハッハッ」
「ソフィア、爆弾を止める方法はないのかい?」
「町中の爆弾全てを無力化するのはまずもって無理でしょうね。でも一つだけ確実に被害を出さずに救うことができる方法があるわ。」
「一体それはなんなんだい?」
「あいつが術を発動するよりもはやくー」
「殺すことよ」
「殺す、か。それしか方法はないんだね?」
「えぇ、しかもあなたの術を無効化する力でないと、殺す前に爆弾を使われるわ。」
「そうか、わかった」
銀次はゆっくりとアラクに近づいていった。
「おいおい、話を聞いていなかったのか?それ以上近づいたら爆弾を爆発させるぞ⁉︎この町が火の海になってもいいっていうのか?」
「これしかみんなを救う方法はないんだー」
銀次は一瞬で間合いを詰めると、アラクをつかんだ。
「馬鹿な奴だな。町中を火の海にしてやる」
「ボンバー」
町の人々が悲鳴をあげるが、数秒たっても爆発は起きずにいた。銀次がアラクに触れて術を無効化しているため、合図が爆弾本体に届かなかったのだ。
「どうなってやがる、なぜ爆発しな い ー」
アラクが喋り終わる前にその首は胴体と切り離されていた。
「術の無効化。それが僕の力ー、破壊の力だからだよ」
* * * * * * * * * * * * * * * * *
銀次たちは、ことを済ませたあと町の外れにある高台にいた。
銀次は短剣の手入れをしていた。あの男を殺した時の光景が、音が、匂いが、感触が...未だに離れず鮮明に何度も思い出しては繰り返す。
「アラクは確かに悪い奴だった。でも、あの時殺したのは本当に正しい行いだったのかな?」
「でも、あれは仕方なかったわよ。だってあそこで殺してなかったら今頃誰かが犠牲になっていたはずよ。」
「何いってんだ、2人とも。人を殺したことが正しかったかどうか?そんなのダメだったに決まっているだろ!いい奴だろうと悪い奴だろうと1人の人間の命を奪ったのはまぎれもない真実だぜ」
2人は下を向く。
「だがな、そのお陰で救われた命だってあるんだ。あのままだったら俺様たちだって殺されていたかもしれないし、町人だってきっと被害を受けていた。」
「俺様はな、あいつを殺したのが良いことだなんて全く思わねえよ。だけどそのお陰で助かった命だってある。正義と悪ってのは、きっと表裏一体だけれど紙一重なんだよ。だから、俺たちは、いや、この世の人間は正義の味方になんてなれやしない。それでも、正義の味方に近づこうと足掻き続ける。そのくらいでいいんじゃねぇか?」
「あんたって真面目に考えている時もあるのね。しかもそんなに長ったらしく」
「あぁ?俺様だってこのくらい言えて当然だ。」
「まあまぁ、要するに僕らは断罪師でいいって事だよね?」
「どんなにまとめたらそんなに短くまとまっちまうんだよ。まぁでも仕方ねえから今日のところはそう言う事でいいぜ」
「せっかく頑張ったのに報われないわね。」
「うるせぇ、細かいことはいいんだよ」
正義と悪はいつだって紙一重。それは、この三人だって同じだ。




