第19話 特訓④
そして5日目のあさが来た。
「おはよう、諸君。今日も元気に特訓といこうじゃないか!」
相変わらずのテンションを毎朝保ち続けるアリー。そして、フリートと銀次の背中を少し強めに叩いてかつを入れた。その瞬間、二人には昨日と同じような緊張感が全身を強張らせ奮い立たせる。
一人は、今日はどんな恐ろしいメニューになるのかという恐怖からの緊張を。
一人は、今日こそは自分の現状を打破しなくてはという焦りからの緊張を。
「まずは昨日と同じで対人の特訓だ!」
「くそ、またあの苦痛を味あわなきゃいけないのかよ。もうこりごりだぜ。」
昨日の特訓は思い返すだけでも鳥肌ものだった。それを今日も引き続きやるとなるとかなりな心構えと決意が必要だ。
だがしかし、彼らには、もはや逃げるという道を選択する権利がなかった。この先の敵に、運命に勝つにはそれを乗り越えたとしても勝ちを約束されないほどの強大な壁だからだ。
「だが昨日とは少し変化を加える。今日は、お前達には武器なしの素手のみでやってもらう。そして、俺はほとんど手加減なしでいく、当然 攻撃系の創界術も使ってな。」
「武器なしで...武器ありの時ですらまともに攻撃できてなかったっていうのに...それに加えてほとんど手加減なしなんて僕たちにはまだ早いんじゃないですか?」
当然抱くであろう疑問を銀次は控えめながらも投げかける。
「確かに、お前らの実力的にはまだまだ早すぎる。だが、ゆっくりと丁寧に教える時間は俺らには残されていない。こちらから行かずとも敵はすぐに刺客を送ってくるやもしれない。もしかしたら、ここを出る前に、あるいは明日にでもな。だから、早い段階である程度の力は身につけなくてはならないんだ。」
「アリーの言うとおりだな。それに俺様達だって昨日とは格段に成長してるはずだ。なんとかなるさ。」
怖気付いてしまっていた銀次とは打って変わって、フリートは、今度こそやってやるぞと気合いを入れ直していた。
フリート達に遅れを取るわけには行かないと覚悟を決めたつもりだった。だが、根の部分での弱さは何も変わっていなかった。思い描いた強い自分は、理想の中から現実に抜け出してくることはなく、そこにとどまるだけだった。
でも諦めるのはまだはやい。まだ終わったわけじゃない。
「フリート、アリーの攻撃は船で見たとおりまともにくらったらお終いと考えたほうがいい。だから、僕は破壊の力でなんとしても創界術を使った攻撃を阻止する。だから、フリートは基本的に攻撃に徹してくれ。」
「ああ、わかったぜ。けど、そんなにうまくいくか?」
「わからない。でも、やるしかない。」
「さてさて、話し合いもその辺で切り上げてもらおうか。時間は限られているからな。 さぁ、いくぞ!」
アリーが前に拳を構える。それに合わせて、2人も構え、鉄拳が繰り出される瞬間を見逃さまいと全神経をアリーに注ぐ。
海岸の方から冷たい潮風が三人の合間を吹き抜ける。
そして、アリーが、フリートが、ほぼ同時に動き出す。一瞬遅れて銀次も動き出す。
身体能力じゃあとてもかなわない銀次だが、昨日の特訓の成果もあってか、次元の違うと思っていた二人の動きにも反応することはできた。
アリーは、高速で間合いを詰めると、初撃は、大振りの右ストレートを放った。鉄界と瞬界で強化された ただのパンチだったためフリートが正面に入りガードした。だが、アリーの繰り出した弾丸を思わせる高威力の鉄拳は、ガードなどものともせずに後ろにいた銀次ごと後方へと殴り飛ばした。
二人は、上手く受け身も取れないまま少し離れた所にあった岩へと叩きつけられた。
「ガードしてこの威力だってのかよ。昨日のあれはほんのお遊び程度だったってこったな。銀次、まだやれるか?」
下敷きになった銀次の腕を掴んで起き上がらせる。
「僕なら心配いらないよ、まだやれるさ。けれど、予想以上に強いパンチだった。やっぱりあれも破壊の力で創界術を消したほうがいいね。」
「なら任せたぜ!」
銀次とフリートは、距離を詰める。ある程度近くまでくると、今度は、ごうごうと燃える火炎を纏った拳が襲いかかる。
すんでの所で、銀次の右手が炎の世界をはじめとするアリーの創り出した世界を破壊する。
滅びゆく世界は火花を散らしながら、互いの体も勢いで吹き飛ばした。
「昨日よりも格段と成長しているな。俺の拳が完全に見切られている。だが、これならどうかな⁉︎」
拳を頭上に振りかざすと、それを思いっきり大地に叩きつけた。
その凄まじい鉄拳は、いとも容易く地面を割り、揺らがせた。
そして、今度は拳のラッシュを地面に繰り出す。
砕いて、砕いて、砕かれた大地は、形を失いながら礫となって飛散したり、ヒビが入りそのまま地割れを起こした。
それはやがて、銀次とフリートの足場まで崩していった。後方へ逃げようとした時には、すでに遅く、足の踏み場はなかった。
「まずいぜ。このままじゃ2人ともやられちまう。銀次、悪いがあとはまかせたぜ!」
そう言うと、銀次の足を掴んで力一杯、安定した大地が残っているところまで投げ飛ばした。そして、崩れゆく地面に引きずり込まれ岩石の下敷きになった。
残された銀次は、砂埃の舞う戦場に目を凝らして、相手の出方を伺う。
そして、数秒の後に拳の衝撃波が銀次に襲いかかる。それを、難なく破壊する。
それと同時に、アリーが瞬界で急接近。さらなる鉄拳の追い打ちで決着を目論むも、銀次が破壊の力で術を解いて、勢いの弱まった拳を捌いて反撃の蹴りをかました。
「別人のように強くなったな。お前は仲間のために戦う方がつよくなるタイプのようだな。フリートの治療も必要だし取り敢えずは終わりだ。」
その言葉を聞いて、終わった、という安堵と今までの不安を凌駕するほどの自信を得ることができた。自分にもできることがあると。
アリーと銀次は、たいした傷は負っていなかったのだがソフィアが治癒した方がいいと言ったのでしてもらうことにした。
「よっこらせー。はー、重い重い。よくこんななの下敷きになっていきてられるねー。」
「はは、すまねえ。」
生き埋めになったフリートは、ロゼの血の荊によって無事に救助され、治療を受けた。
「ようやく連携がとれるようになったな、2人とも。もう俺1人なら余裕で相手できるほどにはなってるよ。特に銀次、お前はかなり強くなったな。これでもう、自分だけ力不足なんて思わなくて心配せずにすむな。」
アリーは、満足そうにゲラゲラと話す。
「はい、ありがとうございました。おかげで自分に自信も、少しだけれどもついた気がします。」
「へっ、俺様だって格段に強くなったぜ。ヴラドって奴にだって俺様の剣技をぶちかましてやるぜ。」
「ああ、ヴラドは必ず倒さなきゃならない奴だ。昨日、街を歩いている時に小耳に挟んだんだが、奴はいま、執行人たちを招集しているらしい。理由はわからんが何やら事が大きく動くのはほぼ間違いないだろう。」
銀次は、改めて自分の踏み入れた世界の壮大さと壮絶さを実感して息を飲む。事は、今までのように運良く切り抜けられるような規模では無くなっている。一歩間違えだけで死にさえ直結しかねる。
「向こうでは、俺たちの仲間があと2人現地で合流する手筈だ。だが、それでもまだ戦力差はかけ離れている。」
「ヴラドはアリーさんやロゼさんよりもずっと強いんですよね?それに加えて手練れの執行人もいて、勝ち目なんてあるんですか?」
「少なくとも勝てる可能性はゼロではない。これから合流する俺たちの仲間はヴラドにも遅れをとらないほどの奴らだ。どちらも性格は終わっているがな..。」
思い返せば思い返すほど呆れるしかない性格だったと語る。
「たしかに、グレゴリーはともかく、あの自称フェミニストのロリコン髭メガネ野郎は、私やソフィアにまで害を及ぼしかねないわよ。正直、あいつはヴラドなんかよりも怖いよ。」
「確かに、ちょび髭ダンディのロリコン度も図りかねないが、イかれ女の方がやべえよ。気性が荒いと思ったらすぐ泣き喚いて、泣いたと思ったら大声で笑い叫んで、おまけに周りまで巻き込んできて飛んだ迷惑女だよ。」
過去の記憶を思い返しただけで身震いする。
「グレゴリーは、ただ感情が豊かすぎるだけよ。あとはどこをとっても可愛らしいお姉さんじゃない。」
「あれが感情豊かなだけって言うなら、ノーマンのおっさんだって過度な子供好きのお父さんって言ったところだろ。」
「あ、あれがお父さんですって?あんなのがお父さんなんて御免被るわよ。」
対するロゼは表情を一変させて、この場にいない髭男を全否定する。
その後もしばらく二人の論争は続いた。途中で止めに入るか迷いましたがすでに第三者が入る余地はなかった。
だが、この論争を聞く限りでは、いくら二人が強いと認めている人たちだったとしても、とても期待できるような助っ人とは思えなくてならなかった。
これから出会うであろう二人の印象は、銀次はもちろん、ソフィアも、フリートでさえもおそらく最底辺にまで落ちていたことだろう。
論争劇を繰り広げた二人とそれを見届けた見届けた三人は、昼休憩を挟み軽く特訓をした後に、宿舎へと戻り、5日目を終えたのであった。




