第10話 巨狼討伐戦
銀次は元いた世界でも戦場というものを目の前で見たことがあった。だが、今目の前で起きている戦いはそんなもの比にならないほどのものだった。
怒り狂った叫び声。草木が虚しく焼けていく音。獣の遠吠え。そして、次々に倒れていく騎士達によって作られた真っ赤な血の絨毯。それらは、世界の、人間の悍ましさを忠実に再現しているようだった。
度重なる爆撃と斬撃を受け、狼はかなり弱ってきてはいた。だがそれでも抗い続ける。
「最終段階に入る。私が前に出てけりをつける。皆のものは後衛にて援護に徹しろ。」
前衛の騎士たちはタイミングを見計らい後ろへと下がった。
テュールは馬を降りると、1人狼へと突撃を開始した。そして、狼の頭上へと勢いよく跳んだ。
「炎界 "爆炎の陣"」
テュールが掲げた武器が爆炎を纏いそれをそのまま叩きつけた。それは、狼ごと辺り一帯を呑み込み、火の海と化した。
全身を焼かれもがき苦しむ狼にさらに追い討ちをかける。
「 "轟雷炎刃"」
轟く雷と先ほどと同じ爆炎を纏いそれを凝縮させ、それを振るった。轟音と共に狼の右の前足が高電圧高熱の刃によって切り落とされた。狼は今までにないほどの苦痛の唸り声をあげた。
「5年前の仕返しだよ、フェンリス。痛いだろう?今楽にしてあげるよ。これで終わりだ。」
武器を両手で強く握りしめ高く掲げた。すると、今まで放ってきた炎たちが剣先に集まっていく。
「"紅蓮の燼滅"」
テュールの放った爆炎は、巨狼に直撃し葬り去った。
銀次たちを含め誰もがそう思った。
だが、あろうことか爆炎は跳ね返されこっちに向かってきた。いち早く反応した銀次は、破壊の力を使って打ち消した。
そして、その先には、1人の男が立っていた。男は肥満気味の体通りの膨れた指で、橙色の散らかった髪をさらにかき散らす。
「あ〜れ〜今のを防ぐか〜 一体どんなげんりだ〜よ〜」
男は驚きつつも不満そうに銀次を見つめる。
「ひょっとして ひょっとすると君〜 今ちまたでゆうめ〜な ハリマ ギンジ くんでしょ〜 噂通り創界術を無効化できるんだね〜 すごいね〜 便利だね〜 でもでも〜噂通りなら〜・・・」
男はあっという間に距離をつめ、銀次の目の前にきた。
「創界術が使えないんだよね〜 邪魔者ははやいうちに殺すべし〜」
だが、それに合わせ、フリートが銀次の前に出て剣を抜いていた。
「悪いが銀次は殺させねえぜ」
フリートが男に斬りかかった。だが、男には何事もなく代わりにフリートが後方へと吹き飛ばされた。
「そこまでだ。執行人 バーディック。」
テュールが武器をその男、バーディックに向ける。
「お前がかばった巨狼はこちらで討伐命令が出されている危険生物だ。いくら、お前の上司、上位貴族ヴラドの指示とは言えど危険生物を飼うほどの権限はないはずだぞ。」
「残念だが、騎士団になんと言われよ〜と生きて連れ帰れとの命令なんでね〜」
「このことは、上に報告し早急に対処させてもらう。それなりの覚悟をしておくようにと伝えておけ」
「へいへ〜い、伝えておきますよ〜」
軽々しく言い放つと、一緒に来たもう1人の人と共に空間移動を使い巨狼を連れ帰った。
「先ほどは助けていただき感謝の言葉もありません。私としたことが倒しきったと思い油断してしまった。」
「僕たちもその前に助けられたのでこれでちゃらってことでいいですよ」
「それよりもさっきの男とは知り合いだったようですが・・・」
「ああ、先ほどの男は上位貴族 第三席 ヴラド・ドラクレアが雇っている執行人の一人のバーディックという男です。」
「執行人?」
「執行人というのは、上位貴族が自分ではできないような厄介ごとを代わりに引き受ける人たちのことです」
「そうだったんですか。」
「あいつ、おそらく創界術だったんだろうがかなり厄介な能力を使えるみたいだぜ。」
フリートが汚れをはたきながらこちらへと来た。
「ああ、そのようだね。これから先は厳しい戦いが続きそうだ。僕たちももっと頑張らないといけないね」




