epilogue
「別れたんだ」
私に賢治が言ったのはしばらくしてからだった。武と沙織の2人は麻美が泣いた日に付き合いだしたって聞いていた。麻美が、わざわざ振ったんですから、付き合ってくれないと報われませんよ! と言っていたからきっと武にいいように言ったのだろう。だから賢治が別れたのは想像していた。
「好きだったのに、すげぇ好きだったのになぁ……」
賢治は悲しく笑った。その笑みが泣いた日に見せた麻美の別れ際の笑みに似ている気がした。でも、私はもう、偽るのをやめた。いつまでも賢治から動けないのは、もうやめた。賢治に対して動けなかったのは、あのとき、賢治を1人にはしたくなかったから。そして、私も1人になりたくなかったから。でも、もうそんなのは終わりだ。
もし、また私が賢治を好きになったとしてもその時はきっとまた違う形になるのだろうと思う。だからそんな賢治に言葉を投げ捨てた。
「疑似彼女とか平気で作ってたから、その報いじゃない? 振られる気持ちわかってよかったじゃない」
賢治は少し驚いた顔をしてニヤリと笑った。私もつられて笑った。もうすぐ冬になって、そしてまた季節は変わる。時間はどんな時でもとまらない。それがなんだか眩しかった。
「そう言えばもしかしてさ」
賢治はおもっていたより明るい声で言う。
「俺たち、きょうだいかな」
いろんなことが吹っ切れた表情に見えた。
「さぁね」
「それだったら、嬉しいかもな」
「残念。違うよ。お母さんに確認したもの」
「それは残念」
私たちのみんながみんな幸せになるときはこないかもしれない。楽しい出来事と同じくらいにつらい出来事もある。それを越えていく。私たちはそれを越えていく……。
完結です。
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