第2話:最初の一手
異世界に来た。
金なし、コネなし、チートなし。
あるのは幼なじみの彼女と、微妙に役に立つかもしれない俺の知識だけ。
——いや、これ普通に詰みじゃない?
とりあえず生きるためには、食うしかない。
食うためには、稼ぐしかない。
「……で、何を売る?」
剣も魔法も使えないなら、やることは一つ。
商売だ。
問題は、元手ゼロってことなんだけど。
まあいい。
ゼロから始めるのは、慣れてる……わけじゃないけど、知ってはいる。
これは、俺の“最初の一手”の話。
——異世界で最初に稼ぐ方法を、今から考える。
森の中は、想像以上に静かだった。
いや、正確には——
静かすぎた。
風の音も、鳥の声もある。
だがそれ以上に、「何か」が潜んでいる気配が濃い。
「……ここ、長居しない方がいいな」
神城レイジは周囲を見渡しながら呟いた。
「うん……なんか怖い」
隣で彼女も小さく頷く。
正直、同感だ。
武器もない。
食料もない。
あるのは服と、使えないスマホだけ。
——完全に詰んでいる状況。
普通なら。
「とりあえず、移動する」
「どこに?」
「人がいる場所」
当たり前の答え。
だが、それしかない。
レイジは地面に目を落とす。
足跡。
わずかに踏み固められた土。
「こっちだな」
「え、わかるの?」
「“人が通ってる跡”くらいはな」
嘘ではない。
ただし、それを見つけるのは“普通”ではないが。
彼は歩き出した。
数時間後。
「……助かった」
思わず本音が漏れる。
視界の先に、小さな集落が見えた。
木でできた簡素な建物。
煙突から上がる煙。
明らかに人の生活圏だ。
「ほんとに人いる……!」
彼女の声に、わずかに安堵が混じる。
だが——
「油断するな」
「え?」
「ここが“安全”とは限らない」
むしろ逆だ。
この世界が本当に異世界なら、
ルールも倫理も違う可能性が高い。
無警戒で入るのは、自殺行為だ。
村の入口。
粗末な柵と、槍を持った男が一人。
「……止まれ」
低い声。
警戒されている。
当然だ。
見たことのない服装。
武器も持たない二人組。
怪しいにもほどがある。
「旅人だ。道に迷った」
レイジは即座に答えた。
事実だが、すべてではない。
「身分証は?」
「ない」
「金は?」
「ない」
男の目つきが変わる。
完全に“不審者”扱いだ。
(……まあ、そうなるよな)
レイジは内心でため息をついた。
ここで嘘を重ねても意味はない。
信用がゼロどころかマイナスになる。
なら——
「代わりに、提案がある」
「……何?」
男の眉がわずかに動く。
食いついた。
「この村、困ってるだろ」
「……は?」
「物資か、流通か、人手か。どれかは知らないけど」
完全な当てずっぽうだが
「全部だ」
被せるように言われた。
一瞬、レイジは言葉を止める。
「……全部?」
「ああ」
男は苛立ったように舌打ちした。
「まず物資だ。森の中の村だからな、まともに作れるもんが少ねえ。食い物も道具もギリギリだ」
指で村の奥を示す。
「次に流通。街まで遠い上に、道中は魔物だらけだ。運べても量はたかが知れてる」
「……なるほど」
「で、人手だ」
男はレイジたちをじろりと見た。
「若いやつは危険な外に出る。残るのは年寄りとガキばっかだ。回すだけで精一杯だ」
吐き捨てるように言う。
それで終わりだった。
だが、その短い説明だけで——
(十分だ)
レイジの中で、いくつかの仮説が組み上がる。
「……いいね」
「何がだ」
「全部揃ってる」
「は?」
男の顔が怪訝に歪む。
レイジは、ほんの少しだけ笑って
「それ、解決できるかもしれない」
沈黙。
風が吹く。
男はしばらくレイジを見つめ——
「……お前、何者だ」
「ただの商人志望だ」
嘘ではない。
今この瞬間から、そうなるつもりだからだ。
結果から言えば、村に入ることはできた。
条件付きで。
「日没までだ。それまでに役に立たなければ追い出す」
「十分だ」
レイジは即答した。
——時間制限付きのチャンス。
むしろ、わかりやすくていい。
村の中。
歩きながら、レイジは観察する。
(建物は古い。補修されてる跡が多い)
(道具は最低限。余裕はなさそう)
(人の数……少ないな)
そして——
(活気がない)
これが一番大きい。
貧しいだけじゃない。
“回っていない”。
「ねえ、何かわかった?」
彼女が小声で聞く。
「だいたいな」
「ほんとに?」
「たぶん、ここ——」
レイジは少しだけ笑った。
「“売るものがない”」
しばらくして、村長の家。
中には年配の男が一人。
警戒心むき出しの目。
「……話は聞いた。で、何ができる?」
レイジは迷わず言った。
「この村に、“売れるもの”を作る」
「……は?」
当然の反応。
だが、構わない。
「今あるものを使う」
「そんな都合のいい話があるか」
「あるさ」
レイジは窓の外を指差した。
森。
広がる自然。
「資源はある。問題は——」
一瞬、間を置く。
「“売り方を知らない”だけだ」
空気が変わる。
村長の目が、ほんの少しだけ鋭くなる。
「……続けろ」
(よし、乗った)
レイジは内心で小さく頷いた。
ここからが勝負だ。
武器も、金もない。
だが——
言葉と発想はある。
「まずは、小さく始める」
レイジはゆっくりと口を開く。
「今日中に“初めての利益”を出す」
彼の最初の一手が、今、動き出す。
第2話、読んでいただきありがとうございます!
無一文からのスタート、そしてようやく人のいる場所へ。
……と思ったら、当然のように警戒されるという現実。
異世界、優しくない。
でも主人公にとっては、ここからが本番です。
戦えないなら、考えるしかない。
そして出てきた答えが——
「売れるものを作る」
シンプルだけど、一番難しいやつですね。
この先、主人公は“ゼロから利益を生み出す”ことに挑戦していきます。
うまくいくのか、それとも速攻で詰むのか。
次からは、どのようにしてレイジが動いていくのかどうぞご期待ください!




