E:REBIRTH
――予感があった。
何事も普段通りの教室で、ノートの上にペンを走らせながら、私は無音に耳を傾けた時に聞こえる耳鳴りのような音に、変に神経を高ぶらされていた。
気分が安定しない。思考がまとまらない。ちゃんと授業を聞かなければならないのに、何かが脳内で位置を占めているせいで、肝心の内容はすぐさま外に出て行ってしまった。私自身であっても認識することができず、何か悪魔的な存在でも憑りついているようで、言語化すら不可能で、不気味な予感だけがただ向こう側から到来していた。
午後の空色が雲間から差し込んでいた。私はふと窓の方を見た。なんとなく、この予感から逃れるように、視線を外に向けた。
「高宮さん」
つばさと目が合った。
しかし、彼女は上下反対だった。つばさは落下していた。いや、下に向かって飛んでいたのかもしれない。
ほんの刹那、つばさは穏やかな微笑を零して、私を見つめた。屋上、境界線、上履き、そして詩――。
鈍い音、微かに揺れる足元、数秒の静寂と、空間を支配する異様な雰囲気。誰かが絶叫した。徐々に声が大きくなっていった。みんな窓際に寄って、凄惨な現場を見ようとしていた。悲鳴に悲鳴が重なって、誰もが事態を理解していた。先生は急いで教室を出て、隣の教室へ助けを求めに行っていた。
私は下界を見下ろした。
綺麗な花が咲いていた。つばさは花びらのように肉片を散らし、丸い円形を描いていた。その点描は一部では重なり、別の部分では適度に離れて、まるで蓮の花のような姿を披露していた。
少しずつ赤い水面が波紋を描きながら広がり、あたかも、彼女の肉を海辺に咲く可憐な花のように飾り立てていた。
死んだ。つばさは自殺した。本当に飛び降りたのだ。
彼女がいた教室には誰もいなかった。かつてつばさが使っていた机に、花瓶が置いてあって、一輪の赤い花が挿してあった。2、3枚ほど花びらは散って、木目に彩りを添えていた。
私は茎を指でなぞり、幼子の頬を撫でるように、脆い花びらを触った。花は薄っぺらい蝋細工のような感触で、私の体温で溶けてしまいそうだった。私は泣いていた。つばさの机の上に透明な粒をいくつも落としていた。
「なによ……。本当に死ぬことないじゃない……」
なぜ私は泣くのか?この結末を望んでいたのは、なにより私ではなかったか?あれほど自信たっぷりに生を呪っていたのは、この高宮かんなだったのではないか?
わからない。私には何もわからない。
この涙だけが事実であり、感情の乱れを伝える唯一の証しだった。