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鳥籠のうた  作者: 石戸龍一
13/19

P:イカロス

雑踏の中で白倉先輩を見つけた。彼女はスーツを着た男性と一緒にいた。一緒に歩きながら話していたが、決して親しそうではなかった。先輩は相手からお金をもらって、すぐさま別れた。何が二人の間であったのか、どういう契約が交わされていたのか、即座に察することが出来た。


私は彼女の肩を掴まえた。


「かんな!?なんであなたがここにいるのよ!」


「そういうことはやっちゃダメだって……先輩だってわかってるでしょ?そんなことしても何にもならないって、その後に来る虚しさを知ってるくせに!」


「わかったような口きかないで!何なのよ、いきなり!」


先輩は私を突き放した。ひどく興奮していて、私に憎悪の視線を向けていた。


「ふん、何よ。私が何したってあなたには関係ないでしょ?私は自由なの。どんなことしたっていいんだから。かんなはいつもそうよね。自分で自分のことを縛って、私まで縛ろうとする。それが、あなたの世界観ってやつなの?意味がないとか、生きることがつまらないとか、それよね?馬鹿みたい!そうやってやせ我慢して自分の人生を台無しにしている!それが正しいって思いこんでいるんだわ!見てるだけでイラつくわ!どっか行ってよ!消えて!消えてったら!」


先輩の言葉に真実らしいところは一片も無かった。本人すら、偽りだと薄々気が付いているようだった。


「なんでそんな目で私を見るのよ?なにか、私が本当に悪いことをしたみたいじゃないの。うざいったらありゃしないわ」


「じゃあ、なんでそんなに怒るのよ。あんただって頭じゃわかってるのよ。私の言うことが正しいって」


「……それが希望なのよ!私の生きる糧なの!ええ、知ってるわ!幻滅なんてもう何度も味わってきた!でもね、それでも何をするか決めるのは私の意志なの!あなたじゃない!私はそれでも選び続けるの。いくら裏切られたって構わないわ。それ以外に道は無いんだから。これが白倉みほの幸福なの。何度だって繰り返すしかないのよ」


敗れることを知りつつもやめられず、生に対して幻想を抱き、不条理な挑戦を続ける自由な人間の末路が、そこにはあった。希求している時だけが幸せで、いざ手に入るとたちまち失望する。


落ち着かない中間的な生の在り方。中間的な幸せ。あたかも自殺者のような、飛び降りる前の憂鬱と、墜落した後の無残な死との境界にある、落下しつつある瞬間のみに定立する多幸感――狭間の幸福。


イカロスの神話を思い出した。イカロスは偉大なものに反抗し、蝋で出来た翼で飛び立った。しかし、翼は太陽の光で溶けて、遂には落下して死ぬ。イカロスは幸せだったろうか?


選ぶ者の勇気と、堕ちる者の悲惨さ、自由な人間の過酷な運命……。自由とは何だったのか?自殺者の夢ではなかったか?自殺、屋上、上履き、つばさという少女――。


「何よ……。さっきからずっと黙って……なに考えてるのよ」


「白倉先輩。あんた、つばさは幸せだったと思う?」


「は?つばさって、この前飛び降りたっていう……。知らないわよ。なんでそんなこと聞くの?」


「だってつばさは自由だったから。たとえ、もたらされたものが死であっても、先輩の考えならそれが幸せなんでしょう?だって、つばさは自分の意思で、自由意志に基づいて、死を選択したんだからね」


先輩は明らかに狼狽えていた。強がってはいたが、明らかに困惑していた。張り付いたような不器用な笑顔が物語っていた。


「あなたっていつもそんなこと考えてるの?あはは。かんなって人間じゃないみたい。ついていけないわ」


私も苦笑した。だって、つばさも同じことを言っていたのだから。

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