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姉 妹


 激しい爆発音と共に固く閉じていた目を、俺はゆっくりと開ける。

 開いた目に真っ先に入ってきた光景は、あまりにも非現実的な光景。


 俺の頭上…遥か上空で、桜色の髪の美少女と桃色の髪の美少女が傷だらけになりながら、一進一退の激しい攻防を繰り広げていた。


 遥か上空に居る彼女達の会話が絶対に聞こえるはずがないのに、何故か不思議と俺の耳に入ってくる。


「お願いクーちゃん、そこを退いてッ! アッくんの傍に行かせて! アッくんとお話させてよっ!」


「絶対に嫌。あの人を裏切った貴女を…お姉ちゃんを近づけさせる訳にはいかない」


「私はアッくんを裏切ってなんかいないよっ! 何度も説明したでしょう? 私は…私達は騙されてっ──操られてた(・・・・・)だけだって!」


「出た。お姉ちゃんの言い訳。ほんとイライラするっ!」


「言い訳じゃないもん! 本当の事だもんっ!」


「すぐそうやって子供みたいに…。だとしても、お姉ちゃん達があの人を…アルト兄さんを傷付けた事に変わりはない」


「だっ、だからそれは──」

「黙れっ! 性悪淫乱女(クソビッチ)ッ!!」

「ひぃ!」


 上空にいる彼女達の表情が分かる筈ないのに、これまた何故か手に取る様に分かってしまう。


 実の妹に凄まれ、大粒の涙を流して怯む純白の少女。


 そんな姉を憤怒と軽蔑。

 憎悪と狂気を孕んだ瞳で睨む、漆黒の少女。


 漆黒の少女が声を絞り出す様に、実の姉に問う。


「お姉ちゃんに解る? 最も信頼してた人達に裏切られ、本当に大好きだった──心から愛してた人から酷い事を言われ、目の前で自分ではない誰かと情事に耽る、恋人の姿を見せ付けられる人の気持ちがあッ!!」


「ひっぐ…。だって…だって…だってぇええ…」


「ほら、また直ぐそうやって…。もういい。終わりにしよう…」


「やだぁ…やだぁ…やだああ…!」


 漆黒の少女が手を翳す。

 掌から真っ黒い靄みたいな影が出現し、純白の少女を襲う。

 純白の少女もまた、咄嗟に白光する巨大な盾を出現させ応戦する。



「喰らい尽くせっ!! 《ベルゼバブッ!!》」


「まっ、護って! 《ガブリエルっ!!》」



『黒』と『白』がぶつかり合い、強烈な閃光とエネルギーの塊が辺りに迸る。


 漆黒の少女が舌打ちをし、純白の少女はガタガタと震える。


 先ほどからずっと続く、果てしない一進一退の攻防。


 どちらの『力』も拮抗してるからこそ、なかなか決着が着かない。


 しかし、次の純白の少女の叫びによって終わりが見えてくる…。


「何で…何で…何でっ…! 何でこんな事になっちゃうのおおッ!? 私達が何したって言うの?! ただアっくんとずっと一緒に居たかっただけなのにぃっ! ──私まだ一度もアっくんに抱いてもらってないんだよっ!? それどころかキスだってまだなのにぃ! 一番抱いて欲しい人から抱いてもらってないのに…なのに…なのにっなんでえええッ!! ──死ねない。こんな所で死ねないよぉ…。私はアっくんに抱いてもらうまで──『愛してる』って言われながら抱かれるまで、死ねないよおおおおおッッ!!!!」


 魂の叫び。

 発狂し、身体を震わせて頭を抱える。


 とっても可愛かった顔を…“天使の笑顔”と見間違いそうなぐらい素敵だった顔をぐちゃぐちゃに歪め、駄々を捏ねる子供の様に泣きじゃくる。


 見ていて聞いていて、心がとても苦しい。

 今すぐにでも駆けよって、想いっきり抱き締めてあげたくなる…。


 しかし漆黒の少女はそんな姉の姿を見ても冷静に…ただ冷静に見詰め、冷徹に冷酷に言い放つ。



「諦めなよ、お姉ちゃん。もうあの人の傍には私達が居るからさ。お姉ちゃんの居場所なんて、とっくの昔に無いんだよ。いくらアルト兄さんが良い人でも、処女でもない女──散々使い古され、他のヤツの…あの“クズ(・・)”の手垢がたっぷりこびり付いた女なんて……無理でしょ?ww」


「──ッッ!? クっ、クっ、クーデリアアアアッ!!」


「アルト兄さんの“隣”はもう、私のモンだって言ってんのよおおおおっ!!」



【純白の天使】と【漆黒の悪魔】が螺旋状に絡み合い、更に遥か上空へと昇っていった…。

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