兄 妹
空を見上げている俺に今度は俺の右側から、泣き叫ぶ声と怒号が聞こえてくる。
そちらに視線を移す。
距離にして大体五キロぐらい離れた場所で、小柄で緑髪のツーテール美少女と、逆立った金髪がトレードマークの長身の青年が対峙し、お互いに想いをぶつけ合っていた。
先ほど同様。
その会話や表情が確認できないほど、とても視認出来ないほど離れてる筈なのに、まるでその場に居るかの様に分かってしまう。
緑髪の少女は目元を腫らし滝みたいに涙を流して、対峙する青年──実の兄に哀願する。
「嫌だよお兄ちゃん…もうやめてよぉ…。私死にたくないよぉ…。──それともお兄ちゃんは私の事、殺したいほどキライなの…?」
悲痛な表情を浮かべて唇を血が出るほど強く食い縛り、持ってる剣の柄を更に強く握って、辛そうに返答する青年。
「可愛い妹を殺したがる兄貴が何処にいるっつーんだよッ!? でもなライム。お前達は取り返しのつかない…後戻り出来ない所まで来ちまってんだよ。兄ちゃんが言いたい事……分かるよな?」
諭すように幼子をあやす様に、とても優しく問い掛ける兄。
しかし妹は綺麗な髪を振り乱し、拒絶する。
「分かんない分かんない分かんないっ!! お兄ちゃんが言ってる事全然分かんないっ!! 私何も悪く無いもんっ! ぜんぶ全部あのクズが悪いんじゃんっ!! 私はっ…私たちは……あのクズにっ…。──ぐすんグスン…」
「聞けライム。良いか、『人はどんな過ちを犯しても、そこからやり直せばいい』とか良く言うけど、あれは大半が嘘だっ! 綺麗事だッ!! どうしても物事には“限度”ってモンがあるんだよ。その限度をお前達は越えてしまったんだ…。だから──」
「知らない知らない知らないっ! そんなの知らないッ!! やっぱりお兄ちゃんは何だかんだそう言って、本当は私を殺したいだけなんだっ! そうなんだッ!! ──やだぁ…嫌だよぉ…。死にたくないよぉ…。殺さないでぇ…お兄ちゃん…。私…もうワガママ言わないからぁ…」
大鎌を大事そうに抱え嗚咽を漏らし、再度大好きだった兄に哀願する妹。
『”妹“』に極甘だったあの兄なら、自分がここまで言ったらもしかしたら──。
と、微かな希望を込めて見詰める美少女…。
しかし兄は一瞬顔を伏せただけで、直ぐに顔をあげて言う。
「先にフィリアたちと一緒に逝って待ってろ。色んな事にケリをつけたら、兄ちゃんも必ずそっちに逝ってやるから。お前達だけに寂しい思いはさせねぇよ…。なんならお前が大好きだった馬鹿も、ぶん殴ってでも絶対に連れていく…。たがら──」
「嫌嫌嫌嫌っ!! いやあああッ!! 死ぬのはっ………いやぁあああああああッッ!!」
「ライムゥウウウウウッッ!!」
耳を塞ぎたくなるぐらいの大声で泣き叫び、大鎌を振り回して竜巻を発生させ、必死に【雷神】を拒絶する【風神】。
【雷神】も雷の剣をより一層強く握り締め、閃光を放って突進する。
この悲しい『“殺し合い”』 に『“両者生存”』は無く、ただ待っているのは非情で残酷な惨たらしい、今生の別れだけ。
その“原因”を作ってしまった俺は何も出来ず、無責任に後始末を親友に任せて静かに目を瞑り、前を向く──。




