表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Souls gate  作者: 大野 大樹
五章 相互扶助と相殺
42/70

3.「らしい」の呪縛。

「まあ、私も『らしい』って言葉好きじゃないわ。らしいって言われた瞬間「なに私の事分かった気でいるのよ! あんた如きに『分かったつもり』になられる程、私は浅くはないわよ!! 」って思うわ」

 そう言って、からからと笑う高橋は、口調はともかく、爽やかな今風の若者だ。

 口調に引っ張られて、女っぽいって思うけど、高橋は‥そうじゃない。

 男っぽくもなく、女っぽくもない。

 ‥「ぽい」ってなんだ? って思うけど、

 一般的に「この人、女らしいな」「男らしい」「女々しい」それらどんな言葉にも、高橋は当てはまらない。

 顔は、綺麗な顔だちなんだけど、勿論化粧をしているわけでもないし、実は女顔でもない。

 きっと、真剣な顔したら、‥ちょっと怖いって思ってしまうかもしれない。

 普段だ、男だと意識していない楠だって、真顔で話しているのを見たら、緊張する。

 桂は、自分が思ってきた以上に、同年代の男性に「苦手意識」を感じていることをここに来て初めて気付いた。

 今まで、そう、と意識する程、男性と話したことがなかったから‥。

 だけど、高橋は、‥そうでもない。

 背もそんなに高くなくて、威圧感を感じないっていうのも、大きいと思う。

 今はそうでもないんだけど、初めて会った時にあの話し方だったっていうのは、‥きっと桂にとって良かった。初めから、苦手意識をもってしまわずに済んだから。

 高橋を同性だと思ったことは無い。

 やっぱり、男だとは思う。

 だけど、苦手じゃない。‥怖いって思わない。

 高橋は高橋だ。

 どんな表情をしていても、きっとどんな話し方をしていても。今では、そう言い切れる。

 きっと、高橋は「私を害する男性」じゃない。

 今は、そう思える。

 桂は微笑んで、こっそり高橋を見た。


 高橋は、現在、楠に絡んでいる。

「‥それって、僕に「なに、お前如きが人のこと分かった気でいるんだ」って言ってるんですかね」

 楠だって、‥黙って「言われるがまま」に何てなってない。

 でも

 こうやって「食って掛かる」楠を見るのも、高橋に対してだけだ。

 高橋は、ホントに不思議な人だ。

「あら。楠さんは誰の事分かった気で「らしい」なんて言ったの? 」

 高橋がくすくす、意地の悪そうな笑みを浮かべて楠を揶揄う。

 ‥知ってるくせに。

「‥桂ちゃん」

 ぶすっとした顔した楠からその言葉を引き出すと、更ににやにやした顔をして

「あら、図々しい。桂ちゃんのこと分かったつもりなんて‥」

 わざとオーバーに驚いた振りをする。

「‥反省してるんだから、これ以上言わないで」

 まったく。

 と呟きながらようやく楠が‥ 

 自動扉に近づく。


 なんと、

 この間全員まだ事務所に入っていなかったのだ!!



「あらあ、分かってないって認めるんですねぇ? 」

 し~つ~こ~い~!!

 楠は、いい加減、高橋に絡まれるのが嫌になって来た。

 ‥何なんだ? 今日に限って‥。

 楠の、赤外線に社員証を認証させようとする手をさりげなく止め、高橋がいつもより低い声を出した。

「なに? 」

 楠が高橋を見ると、

 高橋は思いのほか真剣な顔をしていた。

 小さく楠が息を吐きだしたのが、

 でも、不思議と耳についた。

「‥認めるというか、直ぐに、「いい間違った」って反省した」

 今までとは違う静寂が、そこにあった。

 高橋の顔からも、さっきの様な微笑みは消えていた。

 そう、

 急に静かになったのは、高橋が微笑んでいないからだって、‥気付いた。

「一度口から出た言葉は消せないわ。‥ホントに、楠さんったら普段しっかりしてるのに、考えられない様な失敗するわね」

 いつもと同じやわらかい話し口調なのに、

 その、雰囲気は、いつものふわふわしたものとは違っていた。

 ‥なに? 

 どうしちゃったの‥?

「‥そんな大事おおごとじゃないです‥よ? 」

 そのぴりぴりした雰囲気を感じ取った桂が、間にわって入った。

「ふふ、桂ちゃんも怒っていいのよ? 「らしい」って言葉で「こうあるべき」って自分の理想を押し付けて来る奴なんて」

 桂ににっこりと微笑みかけた高橋は、楠に対して、あからさまに悪意のこもった視線を最後に寄こした。

「‥‥」

 いつもの、「嫌がらせ」とちょっと‥違う‥。

 それ程、

 高橋さんに取って、このことばが、問題だったってこと‥。



 ‥高橋さんは、きっと今まで「らしい」って言葉で誰かに「こうあるべき」って理想を押し付けられてきたんだろう。

 だけど、それは‥私だってそうだ‥。



「らしい、って言葉で「こうあるべき」って理想かあ。‥長女らしくない‥。長女なら、家に居るべき。女の子らしくない。女の子なら、お料理したり、可愛い服着たり。‥そうだねえ。らしいって、‥呪いだねぇ」

 ぼそり、と気が付けば呟いていた。

 ぴくり、と楠が桂を‥おそるおそる振り返り、

「そうよ! 男らしい仕事。男なら安定した仕事について、結婚して‥長男らしいところを見せろって! 男らしい口調で話せ! 男らしい服を着ろ! 」

 桂に同調して、熱弁をふるう高橋を見た。

 まあ、ね。

 気持ちは‥分かるな。

「普通、って言葉も、‥そうだね」

 ぼそり、と楠が呟くと

「「それ!! 」」

 高橋と桂がそれに同意した。

「人並。特別じゃなくていい、普通でとか、何普通って!! 人並みって、何!? 基準になる人とかがいるわけ?? 」

 ちょっと、頬を高揚させて普段より強い口調で桂が言うと、

「それよ!! 」

 高橋がまたそれに同調する。

 そして、二人で顔を見合わせて、自然と微笑みあった。

「その‥「らしく」から離れたところが、ここ、なんじゃない? 新しいものをつくるのって、人と一緒じゃ出来ないものね。だから、変な人が集まって、皆変で、皆が皆違ったものを持ってて、違ったものを見てて。それがここなんじゃない? 」

 高橋が、ちょっとだけ、自分より低い桂に目線を合わせて、にっこりと微笑んだ。

 桂が高橋を見る。

 高橋が、細くってでも、骨ばった男の手で、桂の頭に手を置くと、そのまま自分の胸にふわりと抱き寄せた。

 ふ‥っ

 声を殺してなく桂を抱きしめて、高橋は楠に

「らしい。禁止ね」

 と、静かな声で、でも、強い視線でもって

 念を押した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ