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Souls gate  作者: 大野 大樹
五章 相互扶助と相殺
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2.桂の気持ち

 ‥入るに入れなかった。

 能力云々っていったら、‥私も高くない。

 一応、レアが出る位だけど‥そう上位ではない。

 チューターでは、高橋さんが作ったアバターを使ってるから、レベルが反映した外観ではない。だけど、この前私個人としてアバターを出したんだ。‥梛君みたいに、研究所のみんなに見せる気にはなれなくって、こっそりスマホで見た。

 かなり羊っぽかった。

 それが、私のレベルだ。つまり、高くはない‥。

 ‥楠さんも、「梛とプログラムを手伝って欲しい」って言って、能力云々については触れなかったし、伊吹さんも何も言ってない。それは、梛君だって同じ。‥だけど、梛君はああやっていろいろ考えてる。幹部候補って言われてる柳さんさえも‥。

 楠さんと柊さんと私たちは、全然違う。‥自覚するべきだったのに今までしてこなかった‥。

 私も考えるべきじゃないんだろうか‥。

「梛たちはなあにを考えてるんだか。‥桂ちゃん、そんなとこで立ち止まってないで入ろうよ? 」

「楠さん! ‥」

 桂は楠を見上げた。

 久し振りに、並んで立った気がする。

 楠は背が高い。そして、桂は特別小さい。

 並んでいると、まるで大人と子供ほど違う。

 その大人みたいな楠は、

「桂ちゃんらしくないよ」

 ふふ、といつもの優しい顔で笑った。ほっとするような優しい顔‥。

 ‥でも、今は見たくなかった。

 いつもの笑顔だのに、余裕がある大人に見える。‥今は、劣等感しか感じない。

「‥私らしいってなんでしょう」

 だから、こんなひがみみたいな言葉が出てしまった。

 言ってすぐ、反省して、余計に落ち込んだ。

 ‥何やってるんだろう私。

 そしたら、楠さんはちょっと焦った様な顔をして

「いや。ごめん。それは‥わかんない。ちょっといい加減なこと言った」

 なんだか、「変な」ことを言った。

「え! 」

 これには、私もびっくりして俯きそうになっていた顔を挙げた。

 なんだそりゃ、いい加減なこと言ったって何?!

 だけど、楠さんは私を見てない。

 ちょっと困ったみたいに、独り言モードに入ってる。

「だって、らしいとかってわかんないよ。‥どう考えてどう行動しても、桂ちゃん自身なんだものね。桂ちゃんが行動している限り、それは桂ちゃんの行動で、桂ちゃんってこういう行動もするんだな。って思う」

 ぶつぶつ言ってるなって思ったら、

「だいたい‥他人の評価なんて、その時々に変わるよね‥。どんなにニコニコして来たって、不機嫌な顔を一回でも見られたら「そういうとこあるよね」「腹黒い」って言われるよ」

 ちょっと声のトーンが落ちてきた。

 あ、これ愚痴モード? ちょっと黒くなってる‥。珍しいのは、楠さんです。こういうことって、‥初めてだ。

「‥‥‥」

 呆然として黙って聞いているしかできなかった。 

 でも、「こんな馬鹿らしい話聞いていられるか」って感じではない。

 寧ろ、何だか「楠さんも人間なんだなあ」って感じがして変な話、嬉しかった。(話の内容からして、楠さんはちっとも嬉しくない様なんだけど)

 そこで、楠は、生温かい目線を自分に送る桂に気が付き、妙な表情で口を閉じた。

 ‥しまった、って感じなのかな?

 桂は、常の無表情に戻しながら、心の中で首を傾げた。

 なんてことはない。その間の桂の動きは、心なし細めていた目を、楠から逸らした、ただそれだけ。

 でも、楠はその「動き」に気付いてた。

 ‥流石楠さんって感じ。

「らしいらしくないって、結局、自分がその時その時納得して行動してるか、出来てるかってことなんだと思う。人から見て「この人らしい」じゃなくって、自分らしく出来たって‥。桂ちゃんは、いつもマイペースでさ、やりたいことはやる。ってそういうとこが凄いっていつも思ってた」

 楠は、表情をいつもの線目の完璧なスマイルに戻して言った。

 と、くすくすと後ろから笑い声が聞こえた。

「あらあ、女の子に対する誉め言葉じゃないわねえ。楠さん? ちょっと桂ちゃんとの距離近いんじゃない? 同じ事務所だからって、抜け駆け止めてくれないかしら? 」

 女の子の可愛らしい笑い声じゃない。ちょっと‥低い‥どことなく禍々しい笑い声。

 わあ‥。

 楠がゆっくりと振り返り、声の主を確認する。

「高橋さん! 」

 桂が高橋に微笑みかける。高橋もそれに応えて、優しい微笑みを向ける。

 ‥仲のいい女子って感じだな。完璧。

 笑顔を向けたんだけど、それは決して異性に対するって感じじゃなくって、寧ろ親しい友人に対する笑顔って感じ。高橋の方は、どうやら桂にそういう気があるっていうのが分かるだけに‥気の毒過ぎる。

 ‥あわれ高橋。

 楠はそんな二人を苦笑して見た。高橋の「おだまり! 」って顔が余計に哀れだ。器用に楠にだけ見える角度でそうしてるってのは、‥凄いけど。

「女の子は、そう単純じゃないわよ? 」

 こほん、と咳払いして、高橋がにっと薄く笑う。目が‥笑ってないし、楠を牽制している。

「え! 女子云々の話してたんじゃないです。‥私が不甲斐ないって話をしてて‥。それを楠さんが‥私を気遣ってくれてて‥」

 桂がどこか居心地の悪い様な顔をする。

 桂は、自分が女子として扱われるのを嫌う。

 否、嫌うというか、「居心地が悪そうな顔をする」桂は、女子としての自分の自己評価が低いし、‥自信がない。

 恋愛の話に嫌悪感を感じているわけではない。だけど、自分には縁遠い話だと思う。

 ああいうのは、可愛い女子がするものだ、って‥そう考えたら自分自身のこととして考えられない。

 勘違いしてるって思われるのも、嫌だ。

 だから、そういった話もしないし、素振りも見せない。

 まさか無関心・無表情にしている人間にまで、そんな「言い掛かり」つけて来る者はいないだろう。

 だから、桂は最低限にしか人付き合いをしない。

 もう、「あんなこと」こりごりだ。

 勝手に勘違いして

「何であんな子のことを! 」「誤解だ、俺があんな奴のこと好きなわけないだろ! 」

 勝手に、無関係な私のことを傷つける。

 初めから「ないもの」に対して騒いで、傷ついて‥馬鹿みたい。本人同士は誤解がとけて、謝って、時には更に信頼が深まる。でも、‥じゃあ、私はどうなるんだろう。私は傷つけられただけ。‥本当に馬鹿みたい。そんな人たちの目に入ってしまった、私が馬鹿みたい。

 ホントにあったら嫌な「綺麗な子」じゃなくって、私を選ぶ。「あんな奴のこと、そんなわけないだろ」って言われるの分かってるから、そう言って欲しいから、私を選ぶ。

 恋愛なんて、私には関係のない世界なのに‥巻き込まないで欲しい。

 高橋は、黙り込んだ桂を心配そうに見て

「あらあ、どうして桂ちゃんは、自分が不甲斐ないなんて思ったのかしら? それにしても、あれは気遣ったって感じだったかしら、独り言を聞いてもらいたかったのかしら? 意味の分かんないことを延々と。気が利かないったらないわよ、楠さん」

 楠を睨んだ。

「はいはい、すみませんね‥」

 小さくため息をついて、不毛な議論を終わらせたのは楠だった。

「それで、桂ちゃんは何に落ち込んじゃってたのかしら? 私で良かったら話してみない? 」

 小首を傾げる高橋は、女子っぽいけど、‥オネエっぽくはない。

 男であることを否定してるわけではなく、「男として見られるのを避けてる」そんな感じ。

 笑顔は、優しくって寧ろ男らしい。

 そういうアンバランスさ。自由で、強くってカッコいい。(あ、生き方がね)

 ‥でも、こういう高橋さん以外想像できない。‥似合ってるし、私、これでいい‥。

「この話し方、気になる? 普通に戻しましょうか? 」

 って以前高橋から言われた時には、全力で首を振った。

「その、話し方がいいです」

 思わず力説したら、何故か嬉しそうに微笑まれた。

 ‥きっと、高橋さんはあの話し方が気に入ってるんだろう。だのに、私に気を遣って‥いい人だな、高橋さんって。

 そういえば、高橋さんは、この研究所じゃない別の部署所属の一般の社員さんだった。

 私もそこに行った方がいいんじゃないのかな。

「桂ちゃんはここでいいのよ」

 まるで桂が考えていたことが分かったみたいな口調‥タイミング。

「え? 」

 びっくりして、目を見開いた桂に、高橋は首を傾げる。

「桂ちゃん、自分の能力がそんなに高くないことを気にしてる‥。違う? 間違ってたら、ごめんなさいね。さっき、梛たちが話してたのを見てたから‥言ったんだけど」

「‥間違えてないわ‥」

 桂はちょっと俯きがちに答えた。

「なんだ。高橋さんもきいてたの。全く、いつからいたんだか」

 楠がちょっと呆れたような顔をする。

「梛君と約束があったからね。キャラクター設定の件で」

 ふふと高橋が笑う。楠の呆れ顔はスルーしておいた。

「私は、『能力』云々についてはよく‥実はよくわかんないけど、でも桂ちゃんはこの研究所が好きなんでしょ? じゃあいいじゃないの。どこにいっても、自分よりできる同僚も‥後輩だっているわ? そんなことでいちいち落ち込んでられないでしょ? 自分が出来ることやるしかないわ。落ち込むのは意識の高さだから、悪いことじゃない。その上で、どこまで自分の理想に近づけるか、でしょ? 」

 ここでいう『能力」は、ちょっと‥自分で何とか出来ることではないんだけどね‥。

 でも、社会人としての考え方はそうだろう。

 自分は、今の自分は学生の延長でしかない。それは反省しないといけない。

 桂が硬い顔をしているのを、高橋はちょっと困った様な顔で見て、ふわりと、やっぱり若干困った様な顔で微笑み、

「でも、愚痴なら聞くし、慰めるのも大歓迎よ? ここって、住み込みだから、プライベートと仕事の切り替えがしにくいけど、桂ちゃんはそういうの、もう少しした方がいいわ」

 ふわっと、白く優しい手で桂の頭を撫ぜ、ちょこっとかがんで目線を合わせて来る。

「また甘いものでも食べに行きましょ? 」

「‥ありがと‥」

 桂は、ちょっと困ったようにでも、ちょっと赤面して、ほんの少し嬉しそうに高橋を見た。



 ‥ちょっと、僕には無理な世界を見た‥。こういう、リア充な対応とか、僕には絶対無理。うん、無理。

 オカン・楠。おせっかいオネエさんに敗北。


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