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Souls gate  作者: 大野 大樹
四章 神様参戦する。
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9.チューターは楠

「あら、あの幽霊さん‥」

 社内メールで、新たなチューターの仕事が入ったことを知った桂は、ざっと新しく入ったレアの情報に目を通す。その上で、チューターとしてではなく『Souls gate』にログインして、新しく入ったレアの顔を見た桂は、ちょっと目を見開いた。

 そこには、「あの」幽霊がいた。

 例の、三人組が街に見に行った「幽霊」だ。あの時のことは、ちょっと異常なことだったから、よく覚えている。

 だって、幽霊なんて楠さんがいったんだもの。

 楠が普段、冗談を言う様なタイプじゃないから、余計にあの異常さが頭に残った。

 アバター名:尊

 卦    :乾

 属性   :天


 本名:大和尊

 年齢:18歳

 職業:大学生

 なんと、アバターの名前まで同じ「尊」。なんて偶然だろうか。

「アバターの名前が本名と同じになるってことあるんだねえ‥」

 軽く呆れてしまう。

 ‥偶然なんだろうか本当に。

 そのまま画面に見入る。

 どうやら、尊は「お手伝い」のミナギと話しているようだ。

 ミナギは、運営の信頼も厚く、かつ柳さん同様、西遠寺に傾倒している子で、運営から「お手伝い」を依頼されている子だ。(つまり、アズマと同じ様なポジションだ。この子は、未成年ではないし、性格的にも、問題はない。西遠寺は、今後時間をかけてこの子をスカウトしていくだろう)

 震の卦の男子大学生だ。

 桂は暫く、ミナギと尊の会話を眺めることにした。

 桂のつぶやきに、隣に座っていた梛も桂のディスプレイを覗き、いっしょにそれを眺める。



「こんにちは~! 僕、尊っていいます~! 」

 あの時のままの尊が、愛想よく微笑む。

 実際の尊とは違う、「見かけ通り」の天使の微笑みだ。‥尊の様にシニカルな笑みを浮かべてはいない。

「こんにちわ。僕は、ミナギ、卦は震だよ。君の卦は? 」

「僕は、乾です~」

「へえ! 珍しいね! 初めて見たよ! 」

「あ、そうなんですかあ~」

「てか、君って男の子なの? 女の子なの? 」

「このアバターは乾で男だし、僕自身も男だよ~」

 そんな調子で、尊は始終愛想よく返事している。

「あ~そうなんだ! 」



「ふうん、凄くゲームに慣れてるいのかな、細かいキャラクター設定されてる。仕草とかも、すっごい細かい設定されてる。普通の人と比べたら、そうだなえ‥16ビットと32ビット位違う。那須君と比べたら、8ビットと64ビットほど違う。‥やたら暇な奴なんだな。きっと」

 ミナギと会話をしながら器用に首を傾げ微笑む尊に、梛はちょっと驚き、にんまりと笑う。

「8ビットって! 流石に言い過ぎたかな? 」

 未だディスプレイを覗きながら、ははは、と笑う梛に桂は呆れた様な顔をする。

「‥変な例えしないでよ‥」

 顔をしかめている桂を見て、楠が首を傾げながらディスプレイを覗き込み、目を見開く。

「‥尊ちゃん? (アバターじゃなく本人みたいだな)‥参戦することにしたのか。‥ごめん、桂ちゃんチューター代わってもらっちゃダメ? 」

 桂が楠を見る。

 振り向いて、予想以上に近かった楠の顔にはちょっと驚いてそのまま顔を前に戻した。

 驚いたらしいが、桂の顔色は予想外だが、ちっとも変化はない。

 ‥へえ、桂ちゃん驚いてもそんなに顔に出ないタイプなんだ。

 感心したのは、横に座っていた梛だ。

 ‥驚いてはいたらしいんだけど。

 その証拠に、ちょっと目がいつもより活発に動いている。

 目だけきょろきょろって奴だ。

「あ。ごめん」

「いえ‥」

 楠が背中を伸ばして、後ろに二歩程も下がり、桂が苦笑いする。

 前を向いたまま、一呼吸ついて落ち着かせると、

「あら、珍しいわね。楠さん」

 桂は椅子毎振り向いて楠を見上げる。

「気になるの? 尊ちゃんのこと。‥可愛いもんね。尊ちゃん。気になるよね」

 くすくすと、梛も楠を見上げる。

「どういう意味で言ってんのかは分かんないけど、まあ気になるね」

 微かに嫌そうに、楠が眉を寄せる。

「ほうほう。こういう顔が好みですか」

 その顔を見て、梛はさらに面白そうな顔をする。

「‥‥‥」

「楠、だから、その顔はもう見慣れたから怖くないって」

 くすくすと梛が笑う。その顔が、‥意地が悪い。

「そうね。ちっとも怖くないわね」

 桂もふふ、とちょっと笑う。

「寧ろ柊の兄ちゃんの顔が怖くて見れないよ」

 と、梛。

 今日はやけに絡むな‥。

 面倒臭い。

 楠は小さくため息をつく。

「? 柊さんは別にこっちを向いてないわよ? というか、私は柊さんの顔って見たことないわ」

 桂がちょっと首を傾げ、パソコンに背を向けて転がっている柊の背中を見る。

 柊は‥寝ているのか、さっきからあんまり動かない。

「‥あれ? そうなの? 結構、驚くよ? 」

 同じく梛も柊を見る。

「驚く? 」

 梛の発言に、桂が首を傾げる。

「驚くは変だろ‥」

 楠は、呆れたような視線をちらりと梛にむけ

「てか、梛。お前、僕と柊さんにどんな関係があると思ってるんだ。いつもいつも変なことを言っているが」

 ため息をつく。

「ん? 変かな? ただ、俺は柊の兄ちゃんには心穏やかに暮らしてほしいって願ってるだけだよ? その為には、楠が必要なんだから、柊の兄ちゃんにとっては、尊ちゃんはライバルになり得るってわけだ。柊の兄ちゃんが、尊ちゃんに対して嫌な印象をもつのも、至極まっとうな考えだと思うんだけど」

 梛は、冷かしではなく本当にそう思っているのだろう。

 きょとん、とした表情で楠を見上げて、首を傾げた。

「別に僕じゃなくてもいいんだよ? それは」

 楠は眉を寄せ梛をちょっと睨むみたいに見る。

「いいや。他にはそうは考えられないね」

 梛も「そんなこと言われるのは心外」とばかりに眉を寄せて、楠を睨み返す。

「何の根拠だ‥」

 ため息と一緒に吐き出すように楠が言うと、

「というか、楠、迷惑なの? 嫌なの? 」

 梛の語気が強まる。

「‥お前、最悪だな。そこで「嫌だ」って言ったら、柊さんも嫌だろ? で、いいって言われても嫌だろ。別な意味で」

 楠がひたり、と梛を底冷えのする瞳で睨み付ける。

 横で桂がちょっと焦った様な顔をするのが分かった。

 それほど、二人の間には不穏な空気が漂っている。いうなれば、一触即発という状態だ。

 だけど、下手に部外者の自分が口を挟むわけにはいかない。(というか、挟める様な状態ではないし)

「いいや? 柊の兄ちゃんなら嫌じゃないと思うけど。柊の兄ちゃんにはそこら辺の常識とかそういうのどうでもいいんじゃないかな」

 にやり、と梛が挑むような目を楠に向ける。

 桂は、口を挟むタイミングを計りかね、ハラハラながら二人を交互に見比べている。

 と、

「いいわきゃねえだろ! 柊さんは女子にモテモテで、別にそういう相手には苦労しないんだ! 」

 先にキレたのは、意外なことに楠だった。

 ‥おお!! これは‥予想外‥。ええ‥益々口が挟めなくなったよ‥。

 桂は「目の前で繰り広げられている常では考えらえない事態」にすっかり瞠目していた。

 あれだ、呆然と見守るだけしかできないって状態。

 だけど、どこかそんな状況に好奇心を抱いてしまうのも、事実で、そんな自分にも戸惑う。

「‥楠止めて(ヤ)あげて~。桂ちゃんが大変なことになってるから~」

 怒れる楠は、しかしながら四六時中一緒に暮らしている梛にはさほど珍しくないらしく、梛は、にやり、とさらに楠の怒りを助長する様に揶揄う様な口調で言う。

 桂のことを会話にはしているが、当の桂は「内容そのもの」は聞いてもいないので、自分のことが言われれいるなんて気付いてはいない。

「お前が言わせたんだろ! 」

 しっかり梛の「誘い」に乗ってしまった楠が梛に噛みつく様な口調で返す。

「‥楠さん、性格変わってますよ‥」

 ついつい耐えきれなくなり、桂は笑みを堪える様に楠に言った。

「(は! )桂ちゃん! 」

 その声に、楠の怒気は一気に飛散し、急に水をかぶせられた様な表情で‥桂を見た。目が、いつもと違ってしっかり見開かれているところに、彼の驚きの大きさを見た。

 それは、まさしく「‥いたの」って顔だった。

 その表情は、ちょっと傷つく‥。

 ええと、私に聞かせたくない話ってことでしたっけ? ええと、何の話してたっけ‥。

 ‥ああ、「柊さんは女子にモテモテで、別にそういう相手には苦労しない」たぶんここですかね? うん。モテモテですね、柊さん、‥でも想像はつきますよ。別に驚かないし、私も二十歳超えてるから、今時そんな話に赤面しませんって。そんなに楠さん、私に気を遣ってくれなくていいですって。

「私、全然平気ですけど‥。自分には無縁な話だとは思うけど、‥まあ関係なさ過ぎて、どうでもいいというか‥」

 だから、笑顔でもうきっぱりはっきりと言った。

「‥‥‥」

 楠が何とも言えないような微妙な顔をして、桂からちょっと目を逸らした。

 ‥ん? これは、「気を遣わないでいいよ‥、悪いのは自分だ‥」的な、あれかな? それとも「ちったあ、気を遣えよ‥あんた年頃の娘だろ‥無関係って悲し過ぎないかい? 」的な同情か?

 ‥いずれにせよ、楠さんすみません。ぺこり。

 女の子は‥そんなにヤワじゃないです。期待に沿えなくてすみません。あと、私、同性の恋愛に偏見もないです。(←さらっと)

「うん。そうそう。俺には関係ないっていう意味で、俺も柊の兄ちゃんと楠がどういう関係になろうと、優しく見守るよ♪」

 梛だけは、通常運転。まだ、楠にとどめを刺すのを忘れていない。

「どういう関係だ!? 」

 思わずぎっと睨む楠さんのこれは、いつもの梛との掛け合い漫才なのか、八つ当たりなのか。

 と、

「え? どういう関係? 聞きたい聞きたい! 」

 明るい第三者の声が会話に混じった。

「! 柳さん! 」

 驚いてつい叫んだのは、楠。

「柳の兄ちゃん! 」

 笑顔全開で迎えたのは、梛。

 メンタルでは、小学生の梛に完璧に負けている楠だった。



 因みに

「‥梛の教育上よくないから、何なら梛の部屋変えようか」

 ウォーターサーバーから水を汲みながら、にやり、と意地の悪い視線を楠に送る柳に

「‥‥‥!!!」

 楠は絶句して

「‥楠君が怒り死にそうだから、止めてあげて‥」

 流石に梛が同情して柳を諫め

「ははははっははは! 」

「「「‥‥‥(大爆笑している‥! )‥‥」」」

 ‥柊君って笑うんだ。

 ‥柊の兄ちゃん、どこに笑いのツボが?

 ‥柊さん、聞いてたんだ‥何処から‥?

 そのタイミングで何故か大爆笑した柊に、研究所の職員全員が唖然となった、というのが今回の話のオチ。

 「柊の笑ったツボ」は誰にも分からないままだ。

 尊のチューターは結局、「卦が被らないからイイよ」と柳の了承を得て、楠が変わることになった。

 でも、こんなに楠が何かに執心するのは、珍しいのは確かで、梛は「何かあるのかな」と密かに見守ることを決めた。

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