変化4
その日の昼休み、空人は仁と長治と一緒に人目につかない学校の端で久しぶりに一緒に昼食をとる。ただいつもと違うのは空人の弁当がカラフルなことだ。
「おれ、仁、お前今日弁当じゃないのか?」
「……別に今日だけじゃない。忘れたのか、」
夏休みの最後に仁は彼女さんから振られた。今は別の彼女さんがいるが今までとは違い弁当を作ってくれたりはしない。
「長治も、おにぎりだけとか栄養偏るぞ」
「……わしはこの学校に入ってからずっとこれじゃ、」
「なんだったら俺の弁当分けてやろうか、この卵焼き、甘いぞ」
「いらん。黙って食え、じゃなかったのか」
「……別になんとなく」
絶対に突っ込むかという仁と、突っ込み待ちの空人との攻防が続く。
「ところで、お前ら週末の予定は?どうせ暇なんだろ」
「……暇も何も中間試験前だろ、馬鹿か」
「っていう事は、長治は委員長と勉強?」
「試験前は邪魔にならんようにそんなことはせん」
「……ふーん、馬鹿は大変だな。俺は普段から勉強してるから得にする必要ないし、」
こいつ、仁は若干本気でイラッときながら冷静に無視を決め込む、が、空人の背後、はるか後方でシエルが手振りで突っ込めとアピールする。
仁は、一旦は無視を決め込むものの、空人がいつもよりも饒舌に聞いてもない一人語りをべらべらしゃべるうざさと、週末の話題に必要以上に続け、長治に別の話をして話をそらしてもそこに無理やり割って入ってくるあまりのしつこさについに折れ、空人に訪ねる。
「そんなに週末暇なら、遊んでやってもいいぞ」
「週末?あぁ、ごめん、俺、結愛さんとこの町の観光地を一日かけて回る約束してるんだ」
憎たらしい表情、あの仏頂面がゆるみきって、仁はあまりのうざさに反射的に拳が出そうになるがそれをぐっとこらえる。聖人とは自分のために用意された言葉としか思えない。
こいつに彼女がいると知られてから、何度嫉妬から来るネガティブキャンペーンをされたことか、俺は違う、彼女ができないじゃない、彼女が必要ないだの、
そっちから話を振っておいて、彼女の話を正直に答えてやったら、イラッとしたり、
なのに何でおれは聞きたくもないこいつのくだらない話を聞かないといけないのか
「ゆあさん?だれじゃそれは」
シエルから事情を聴いている仁とは違い、何も聞いていない長治はまともに質問してしまう。するとこれを待っていたとばかりに貴様は何様だと言わんばかりに上から目線で、しゃべるわ喋る。
結愛は今日から教えてもらう観光ガイドの練習がてら、買い物とトレーニングと称したランニングの時以外ずっと家にいる空人のためにと、気分転換のためにもこの町の観光ガイドを買って出たのだ。
それを空人はデートと思い込み。脳内妄想が膨らみ、勝手に恋人気分になっている。
「空人、」
昼休みが半分過ぎたころ、シエルのジェスチャーによるお願いも我慢の限界、口を開く。
「何だ?」
「別にお前に聞きたい事なんぞはない。只今のお前がいかにやばいか伝えるために」
そういって仁は途中から撮影していた空人の先ほどからのハイテンション動画を撮影していた動画を再生する。
「恋は盲目とは言ったものだな。この痴態を確認して少しはのぼせきった血をひかせろ。
悪いが俺も長治も、お前と違って彼女なんて遠の昔にいるんだよ。自慢げに話されても迷惑だ。なんなら、話してやろうか、それとも見せてやろうか、俺の彼女別の写真フォルダ」
「まぁまぁ、そういうな、仁。空人にとっては初めての彼女じゃ、浮かれる気持ちも分からんでもない。わしらしか話をする相手がおらんのじゃ、大人になって聞いてやらんか」
「浮かれる気持ちもって、お前もそうだったのか?」
「わしの場合は、そのなんじゃ、元々幼馴染じゃからそういうのはないかのう。むしろ逆に距離が空いたくらいじゃ」
「別にこいつに彼女ができたことを否定しようというつもりはない、たとえそれが薬の効果であったとしてもだ。ただ、このテンションは気に入らない」
「そういうな、面白いじゃろ、あの空人が、彼女さんができたくらいでこうも浮き足立つとは、あれだけ町でいちゃつくカップルに苛立ち追った男がこれじゃ、
結局、普段のあれも彼女がほしいことの嫉妬によるもんじゃと思えてかわいいもんじゃろ。
あの眉間のしわが卵焼きとウインナー程度で消えるんじゃぞ。どれだけの事じゃと」
「ぷ、お前ホント彼女欲しかったんだな。長治、お前ホント大人だな、おっさん顔だけのことはある。なるほどそういわれれば、よかったな、童○王、デート頑張れや」
空人は拳を叩き込もうとするが、仁の流した自分の映像が恥ずかしく、いつもと違い感情が表に出てしまい、あっさりと避けられる。
「動揺するとは、なるほど、これなら勝機が見えた。愛は人を強くする、恋は人を弱くする。と、生暖かいほほえましい目で見ててやるよ」
仁は空人が追いかけてくる前にと早々にこの場から逃げ出した。