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SCRAMBLE  作者: ヒロコトー
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8/8

ep.8

 優里が一人暮らしを始めて半年が過ぎた。


 朝六時半。


 目覚ましが鳴る。


 優里は布団から手を伸ばして止めた。


「眠い」


 誰も返事をしない。


 起きる。


 カーテンを開ける。


 天気を確認する。


 洗濯機を回す。


 冷蔵庫を開ける。


 卵が二個。


 昨日の残りの味噌汁。


 納豆。


 以前なら朝食を作りながら、海美を起こしていた。


 紗良には何度言っても返事だけで起きてこない。


 義雄は朝食を食べる日と食べない日があった。


 今は自分の分だけだった。


 ご飯を温める。


 味噌汁を火にかける。


 納豆を開ける。


 それだけで終わる。


 楽といえば楽だった。


 洗う皿も少ない。


 洗濯物も少ない。


 食費も、四人で暮らしていた頃とは比べものにならない。


 自分一人なら、思ったより何とかなる。


 仕事にも慣れた。


 契約も更新された。


 給料が急に増えたわけではない。


 それでも毎月決まった額が振り込まれ、自分で家賃を払い、電気代を払い、食費を出す。


 最初の頃ほど数字を見るたび驚くことはなくなった。


 暮らせている。


 ちゃんと。


 ただ、余裕があるかと言われれば、ない。


 今月少し使いすぎたと思えば、外食を減らす。


 服は前ほど気軽に買わない。


 美容院へ行く時期も少し延びた。


 娘たちと出かける時は、財布の中を以前より気にする。


 義雄の給料がもう少し上がればいいのに。


 結婚していた頃、何度も思った。


 今なら、その金額を十五年以上毎月家へ持って帰ってきたことが、簡単なことではなかったくらいは分かる。


 だからといって、全部許せるわけではない。


 義雄に腹を立てていたことまで間違いだったとは思わない。


 何も話さなかった。


 何を考えているのか分からなかった。


 肝心なところで黙った。


 それは今でも嫌だった。


 でも。


 自分も聞かなかった。


 聞いたつもりで、自分が欲しい答えを待っていたことはあったのかもしれない。


 洗濯機が止まった。


 優里は時計を見る。


「やば」


 考えるのをやめた。


 仕事に遅れる。



「課長、これ確認お願いします」


「置いといて」


「今日中で」


「じゃあ今見る」


 義雄は書類を受け取った。


 地方へ来て一年近くになる。


 最初は左遷だと思っていた。


 今でも、そういう面はあったと思う。


 会社に居づらくなった。


 動かしやすかった。


 それは間違いない。


 でも今の支店にも慣れた。


 仕事も回っている。


 部下ともそれなりにうまくやっている。


 本社へ戻りたいかと聞かれると、以前ほど強くは思わなくなった。


「ここ、数字違う」


「え?」


「先月分入ってる」


「あ、本当だ」


「直してもう一回」


「すみません」


「いいよ」


 部下が戻っていく。


 義雄はコーヒーを飲んだ。


 転職しなくてよかったのか。


 それは分からない。


 あの時辞めていれば、別の人生もあった。


 ただ、今の給料なら養育費を払い、娘たちの必要な金も出せる。


 紗良が来年中学生になる。


 海美もこれから金がかかる。


 それを考えれば、役職も給料も捨てなかったのは間違っていなかったと思う。


 スマートフォンが震えた。


 海美だった。


『日曜日ほんとに来る?』


 義雄は笑った。


『行く』


『絶対?』


『絶対』


『遅れない?』


『遅れない』


『前遅れた』


『電車止まった』


『言い訳』


『うるさい』


 すぐにスタンプが返ってくる。


 日曜日は紗良の学校行事だった。


 優里も行く。


 離婚してから、四人が同じ場所に揃うのはほとんどなかった。


 義雄は予定表を確認した。


 翌日からの仕事を少し前倒しにする。


「日曜くらい普通に休めばいいのに」


 隣の席から言われた。


「予定あるから休むんだよ」


「何です?」


「娘」


「ああ」


「何だよ、その納得」


「三田さん、娘さんの話になると分かりやすいんで」


「仕事しろ」


「はいはい」


 義雄は書類へ目を戻した。



 美知は友人の結婚式へ出席していた。


「次、美知じゃない?」


 隣の友人に言われる。


「何が?」


「結婚」


「ないない」


「彼氏は?」


「いない」


「ほんとに?」


「ほんと」


「前いたじゃん。年上の」


「あれは終わった」


「惜しかったよね。格好よかったのに」


 美知は少し笑った。


「見た目だけで結婚できないから」


「何かあった?」


「いろいろ」


 それ以上は話さなかった。


 義雄とは、あれから一度も会っていない。


 連絡先は消した。


 写真も消した。


 最初の頃は何度か思い出した。


 好きだった。


 それは嘘ではない。


 だから余計に無理だった。


 今はもう、思い出すことも減った。


「いい人いないかな」


 友人が言う。


「いるでしょ、そのうち」


「美知もね」


「はいはい」


 二人で笑った。


 新郎新婦が会場へ入ってくる。


 拍手が起こる。


 美知も拍手をした。



 拓斗は店の二店舗目を出す準備をしていた。


「厨房もう一回見てくる」


「夕方業者来ますよ」


「分かってる」


「今日夜こっち戻ります?」


「多分」


「多分やめてください」


「じゃあ戻る」


 スタッフが笑う。


 拓斗も笑った。


 スマートフォンにメッセージが届く。


 女性からだった。


『今日空いてる?』


『仕事』


『最近そればっか』


『本当に仕事だから』


 送る。


 少ししてスタンプが返ってきた。


 拓斗はスマートフォンをポケットへ入れた。


 優里との連絡先は残っている。


 ただ、やり取りはもうない。


 店へ来たあとの電話が最後だった。


 拓斗から連絡しようと思ったことは、何度かあった。


 でも、やめた。


 連絡すればまた始まる。


 それは優里にとっても良くないだろうと思った。


 少なくとも拓斗はそう考えた。


「相馬さん、これどっちです?」


「右」


「本当に?」


「本当に」


「前左って言いましたよ」


「じゃあ左」


「どっちなんですか」


「任せる」


「一番困るやつ」


 拓斗は笑った。


 仕事は忙しかった。


 生活も変わらなかった。



 日曜日。


 義雄が学校へ着くと、校門の前に海美がいた。


「お父さん!」


「何で外にいるんだよ」


「待ってた!」


「一人で出てくんな」


「お母さんいるもん」


 少し離れたところに優里が立っていた。


「久しぶり」


 優里が言う。


「うん」


「遠かった?」


「まあ」


「何時に出たの?」


「七時前」


「大変だね」


「月一より近いよ」


「何それ」


「距離の話」


「分かんない」


 二人とも少し笑った。


 海美が義雄の腕を引く。


「早く!」


「紗良は?」


「中!」


 三人で校舎へ入った。


 優里が義雄の少し前を歩く。


 以前なら毎週見ていた後ろ姿だった。


 今は何ヶ月ぶりか分からない。


 髪が少し短くなっていた。


「髪切った?」


 義雄が聞いた。


 優里が振り返る。


「いつの話?」


「知らん」


「半年くらい前」


「じゃあ気づくわけないな」


「ほんとそういうところ」


「何だよ」


 優里が笑った。


「何でもない」


 義雄もそれ以上聞かなかった。



 学校行事が終わると、海美が言った。


「お腹すいた!」


「お前何もしてないだろ」


「見てたから疲れた」


「紗良の方が疲れてるだろ」


 紗良が教室から戻ってきた。


「何の話?」


「海美が腹減ったって」


「私も」


「じゃあ何か食うか」


 義雄が言った。


 優里が少し迷った。


「四人で?」


「嫌なら別に」


「嫌って言ってない」


「じゃあ行こう!」


 海美が勝手に決めた。


 近くのファミリーレストランへ入った。


 四人席。


 義雄と海美。


 優里と紗良。


 離婚前と同じ並びだった。


「私これ」


 海美がメニューを指す。


「またそれ?」


 優里が言う。


「好きなんだもん」


「野菜は?」


「入ってる」


「どこに」


「ポテト」


「野菜扱いするな」


 義雄が言った。


「じゃがいも野菜じゃん!」


「そういう問題じゃない」


「お父さんもポテト食べるじゃん」


「俺は大人だからいい」


「一番ダメな理屈」


 紗良が言う。


 優里が笑った。


「ほんとそう」


「お前まで言うなよ」


 注文をする。


 料理が来る。


 四人で食べる。


 海美が喋る。


 紗良が時々突っ込む。


 義雄が余計なことを言う。


 優里が笑う。


 普通だった。


 あまりにも普通だった。


 だから誰も、そのことには触れなかった。


「お父さん家、まだ汚い?」


 海美が聞いた。


「汚くない」


「前すごかった」


「お前ら来る前に片付けたんだよ」


「じゃあいつも汚いじゃん」


「仕事忙しいんだよ」


 優里が義雄を見る。


「洗濯してる?」


「してるよ」


「毎週?」


「……してる」


「間があった」


「してるって」


「シャツとか大丈夫?」


「クリーニング」


「ずる」


「何がずるいんだよ」


「お金で解決してる」


「働いてるんだからいいだろ」


「昔、私が家事してても何も言わなかったくせに」


 義雄の箸が止まった。


 優里も言ってから止まった。


 紗良が二人を見る。


 海美だけがポテトを食べていた。


「……そうだな」


 義雄が言った。


 優里が少し驚いた。


「何?」


「いや」


「何で素直なの」


「一人でやると面倒だから」


「今さら?」


「今さら」


 優里は少し笑った。


「私も」


「何が?」


「仕事」


「仕事?」


「給料」


 義雄が眉を寄せる。


「俺の?」


「うん」


「何だよ」


「結構もらってたんだね」


「今さらかよ」


「今さら」


 義雄が笑った。


 優里も笑った。


 紗良が呆れた顔をする。


「本当に今さらばっかり」


「うるさい」


 二人がほぼ同時に言った。


 紗良と海美が笑った。


 義雄も優里も笑った。


 その瞬間だけ、昔と何も変わらなかった。



 食事を終え、店を出た。


「私たちおばあちゃん家戻る」


 紗良が言った。


「二人で?」


 優里が聞く。


「駅まで分かるし」


「海美大丈夫?」


「私もう三年生だよ!」


「まだ三年生でしょ」


「一緒だよ」


「全然違う」


 義雄が笑う。


「送るよ」


「いいよ」


 紗良が言った。


「お父さんとお母さん、駅反対でしょ」


「でも」


「大丈夫」


 海美が義雄を見る。


「また来月ね」


「おう」


「お母さんも今度来てね」


「どこに?」


「おじいちゃん家」


「それは行くよ」


「泊まって」


「それは考える」


「なんでみんな考えるの!」


 海美が怒る。


 紗良が妹の背中を押した。


「行くよ」


「はいはい」


 二人が歩いていく。


 義雄と優里はその場に残った。


 どちらからともなく駅へ向かう。


 途中までは同じ道だった。


「紗良、大きくなったな」


 義雄が言う。


「毎日見てないからじゃない?」


「それもある」


「海美も大きくなったよ」


「まだあれだけどな」


「何、あれって」


「うるさい」


「それは昔から」


「だな」


 少し歩く。


「仕事どう?」


 義雄が聞いた。


「普通」


「続いてる?」


「続いてるよ」


「偉いじゃん」


 優里が義雄を見る。


「馬鹿にしてる?」


「してないよ」


「なんか腹立つ」


「何でだよ」


「義雄に言われると」


「じゃあ言わねえよ」


「ほらすぐそれ」


 義雄が止まった。


 優里も止まる。


 二人とも少し笑った。


「それだな」


 義雄が言った。


「何が?」


「俺、すぐ言わなくなるんだよ」


「知ってる」


「面倒になるから」


「それも知ってる」


「でも言わなきゃ分かんねえよな」


 優里は返事をしなかった。


 少しして言う。


「私も聞いてなかったのかも」


「珍しいな」


「何が」


「自分で言うの」


「やっぱり言わなきゃよかった」


「ほら」


「うるさい」


 二人でまた歩き始めた。


 駅前が見えてくる。


「この前さ」


 優里が言った。


「うん」


「お父さんたちから、昔の話聞いた」


「昔?」


「あなたの実家」


 義雄は少し黙った。


「ああ」


「知ってた?」


「何を」


「うちの親が謝りに行ったこと」


「知ってた」


「なんで言わなかったの?」


「言ったらまた怒ると思ったから」


「……そう」


「その時はな」


「また言わなかったんだ」


「そうだな」


「馬鹿じゃないの」


「お前もな」


「何で私まで」


「聞かなかっただろ」


「知らないこと聞けないでしょ」


「それはそうだ」


 義雄は笑った。


 優里は少しだけ黙った。


「あの時」


「うん」


「庇ってくれてたんだね」


 義雄は前を向いたまま答えた。


「一応な」


「全然そう思ってなかった」


「知ってる」


「十五年」


「長いな」


「長いね」


 信号が赤になった。


 二人は止まった。


 車が目の前を通り過ぎる。


 優里は信号を見たまま言った。


「私さ」


「うん」


「離婚する前、会ってた人いた」


 義雄は優里を見た。


 優里は前を向いたままだった。


「男?」


「女なわけないでしょ」


「いつから?」


「二年以上」


「二年?」


 義雄が笑った。


 驚きすぎると、逆に笑うらしい。


「何?」


「いや」


「怒った?」


「今さら怒ってどうすんだよ」


「そっか」


「離婚したかったの、そいつのせい?」


 優里は少し考えた。


「それだけじゃない」


「だろうな」


「でも、いたから離婚できると思ってたのはある」


「そいつとは?」


「終わった」


「離婚してから?」


「うん」


「何で?」


 優里が義雄を見る。


「言いたくない」


「ふうん」


「何その顔」


「別に」


「義雄は?」


「何が」


「いたでしょ」


 義雄が足を止めた。


「何で?」


「今の顔」


「嘘だろ」


「当たった?」


 義雄は少し笑った。


「いたよ」


 今度は優里が止まった。


「いつから?」


「離婚言われる少し前」


「へえ」


「三ヶ月くらい」


「若い?」


「二十九」


「最低」


「お前に言われたくねえよ」


「その子、既婚って知ってたの?」


 義雄は黙った。


 優里が顔を見る。


「知らなかったの?」


「……独身って言ってた」


「最低」


「二回言うな」


「だって最低じゃん」


「分かってるよ」


「それで?」


「バレた。離婚してから」


「別れた?」


「振られた」


「そりゃそうでしょ」


「お前今日ずっとそっちだな」


 優里が笑った。


「だって私でもそう思うもん」


 義雄も笑った。


 どこかで聞いたような言葉だった。


「じゃあ」


 優里が言う。


「二人とも次があると思ってたんだ」


「そうみたいだな」


「馬鹿だね」


「馬鹿だな」


 信号が青になった。


 二人は渡った。



 駅に着いた。


 優里は右。


 義雄は左。


 ここで別れる。


「じゃあ」


 義雄が言った。


「うん」


 優里は少し歩き出してから止まった。


「義雄」


「何?」


「離婚したこと」


 義雄が優里を見る。


「うん」


 優里は少し考えた。


「間違えたかもね」


 義雄はすぐには答えなかった。


 駅のアナウンスが聞こえる。


 人が二人の間を通る。


「俺も最近そう思う」


 優里は笑った。


「でも戻りたいとかじゃないよ」


「俺も」


「もう一緒に住むの無理」


「俺も無理」


「何でそこ即答なの」


「お前も即答しただろ」


 二人で笑った。


「じゃあ何なんだろうね」


 優里が言う。


「知らん」


「相変わらず何も考えてない」


「考えてるよ」


「何を?」


 義雄は少し考えた。


「もっと前に、ちゃんと話しときゃよかったなって」


 優里は黙った。


「離婚する前?」


「そのもっと前」


「……そっか」


「お前もな」


「うん」


 優里は素直に頷いた。


 義雄が少し驚く。


「何?」


「いや」


「何よ」


「何でもない」


「またそれ」


「今日はもういいだろ」


「うん」


 優里は笑った。


「じゃあね」


「おう」


 今度こそ二人は別れた。


 振り返らなかった。



 義雄が部屋へ帰ったのは九時前だった。


 スーツを脱ぐ。


 洗濯物が溜まっている。


 朝飲んだコーヒーのカップが流しに残っている。


 ゴミ袋はいっぱいだった。


「明日だな」


 言ってから、義雄はカレンダーを見た。


 明日はゴミの日だった。


「今日やるか」


 袋を縛る。


 新しい袋を入れる。


 洗濯機を回す。


 流しのカップを洗う。


 以前なら、帰れば終わっていたことだった。


 誰がやっていたのかなんて考えもしなかった。


 優里だった。


 たまに紗良。


 自分も何もしなかったわけではない。


 それでも、家へ帰れば家が回っていた。


 それを普通だと思っていた。


 義雄は洗濯機の音を聞きながらビールを開けた。


 スマートフォンに写真が届いた。


 海美だった。


 今日四人で撮った写真。


 店の前で紗良に頼んで撮ったものだった。


 義雄。


 優里。


 紗良。


 海美。


 四人とも笑っている。


『今日楽しかった』


 続けて届く。


『また4人でご飯食べようね』


 義雄は少し考えた。


『そうだな』


 送った。


 それ以上は書かなかった。



 優里は駅前のスーパーへ寄った。


 明日の朝食。


 卵。


 牛乳。


 野菜。


 値引きされた魚を一つ。


 買い物かごを持ちながら、値段を見る。


 以前よりずっと見るようになった。


 レジを済ませ、袋を持って部屋へ帰る。


「ただいま」


 誰もいない。


 もう言わなくなると思っていたのに、たまに口から出る。


 買ったものを冷蔵庫へ入れる。


 洗濯物を取り込む。


 風呂を沸かす。


 明日の仕事の準備をする。


 全部自分でやる。


 最初は面倒だった。


 今も面倒だ。


 それでも、もうできる。


 一人で暮らせる。


 両親が何を言いたかったのかも、今なら少し分かる。


 助けてくれなかったのではない。


 十分助けたあとで、手を離した。


 それをあの時の自分は、追い出されたとしか思えなかった。


 優里は冷蔵庫を閉めた。


 スマートフォンが鳴る。


 海美からだった。


『写真見た?』


『見たよ』


『お母さん笑ってる』


『笑うよ』


『お父さんも』


『お父さんも笑うでしょ』


『4人だったからかな』


 優里の指が止まった。


 少し考える。


『楽しかったからじゃない?』


『また行こうね』


『うん』


 送った。


 写真を開く。


 四人。


 もう家族ではない、とは思わなかった。


 家族ではある。


 ただ、同じ家には帰らない。


 それぞれ別の場所へ帰る。


 義雄は義雄の部屋へ。


 優里は自分の部屋へ。


 紗良と海美は祖父母の家へ。


 離婚すると決めた時、こんな形になるとは思っていなかった。


 義雄と別れれば、自分の生活が始まると思っていた。


 拓斗がいると思っていた。


 娘たちは自分と暮らすと思っていた。


 仕事もすぐに見つかると思っていた。


 両親はいつでも助けてくれると思っていた。


 どれも、少しずつ違った。


 優里は写真を閉じた。


 風呂が沸いた音がする。


「はいはい」


 返事をする。


 誰も聞いていない。


 優里は立ち上がった。



 翌朝。


 義雄は洗濯物を干してから家を出た。


 優里は自分で作った朝食を食べてから仕事へ向かった。


 紗良は祖母に、


「行ってきます」


 と言って学校へ行った。


 海美は忘れ物をして、一度玄関から戻ってきた。


「また?」


 祖母が笑う。


「忘れたんじゃない。取りに来ただけ」


「それを忘れ物って言うの」


「違う!」


 海美はランドセルを揺らして家を飛び出した。


 四人が一緒に暮らしていた家は、もうない。


 それでも朝は来る。


 仕事へ行く。


 学校へ行く。


 洗濯をする。


 ご飯を作る。


 娘に会う。


 たまに四人で笑う。


 それぞれの場所で、それぞれの生活が続いていく。


 あの日に戻りたいわけではなかった。


 戻ったところで、同じことを繰り返すかもしれない。


 ただ、終わらせる前にできたことは、もっとあった。


 それを二人が知ったのは、終わったあとだった。


最後まで読んでいただいてありがとうございます

この物語を書きながら、

ずっと思っていた話をさせてください

まず、私個人の考え方で、押し付けようなんてことは考えてもいないということだけは、先にご了承いただきたいと思います

人の為に行動する

凄く素敵なことだと思います

と、同時にもうそんなことカウントする必要はないんだとも思います

物語の主人公は、ピンチの時に助けられる

俺はあいつの為を思って

私はあの人の為に

もちろん悪いことではありません

ただ、そこばかりに目を向けていては

自身の物語が進まないんではないでしょうか

別に説教する気なんて毛頭ありません

考え方が違えばそれでいいのです

ただ

それだけの話なのです

わざわざ、自分の正義を誰かに押し付けることをしても

きっと響かないのだから

これは勝手な「ひとりごと」

好きに思ってください

好きに批判してください

皆さんが笑って過ごすことの多い日が増えますように


ヒロコトー



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私はいつでもMinority

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